こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2003年1月3日号二ュース >> VIEW

記事2003年1月3日 1877号 (3面) 
入学辞退者による学費返還訴訟問題
学費返還は各私学が判断すべきもの
  私立大学が入学手続時に合格者から受け取る学納金について、消費者契約法を楯にとった弁護団が「納入済みの学費を返還せよ」と訴訟を提起しています。この問題について全私学新聞は文部科学省に質問を提出いたします。本来、私学は各学校の独自性に基づき自己責任において対処すべきもので、それを外部の指導通りにやらせたら私立学校は活力をなくし、私立学校を認めている意味がなくなってしまう。文部科学省は政策官庁としてそのことをはっきりさせて頂きたい。ご説明下さいますようよろしくお願い申し上げます。


推薦入学は優遇制度
約束を破ったのは受験生


(1)約束破ったのはどちら
 推薦入試は本来「その学校にどうしても入りたいので、その学校に合格したら他の学校は受けない」という専願受験生のために、それだけ明確な入学動機を持つ受験生であることを高校長が約束し、保護者からも事前に誓約書を入れるなら、学力試験抜き・内申書で合否判断しようという優遇制度であります。合格したら必ず入学するという趣旨からいって「他校に合格したからすでに納入した学費を返せ」ということは本来起こりえないはずであり、従って納入された学費はたとえ本人が入学しなくても返還はしないと大学の学則に記載し、入学案内にも書いてあるのが普通です。最近この専願推薦が乱れているのは高校側が入試を有利にするために、専願でない受験生まで専願受験生として推薦し、他校に合格したら口を拭って知らぬ顔を決め込む風潮が蔓延したためといえます。約束を破ったのは受験生の側であることをまず念頭に置いていただきたい。私立のA大学は教育学部の推薦入学指定校にしたB高校のC君を今春の推薦入試で合格させ、入学金は受納しましたが、その後、待てど暮らせど残りの授業料の払い込みがありません。B校の校長先生にそのことを連絡したら「あっ、それはすみません。早速払いこむように伝えますから」という返事でした。しかし、その後もやはり残金納入はないままです。「おそらく国立大学教育学部に合格してそちらに乗り換えたのでしょう。もちろん、校長先生もそのことは承知のうえで知らん振りをしているのだと思いますよ」という推測でした。推薦入学は以前の卒業生の実績をもとに校長の推薦をえて、本人も合格したら入学することを確約するから、学力試験なしで合格という優遇措置を得られるわけですが、滑り止めであることを隠してそのような優遇措置を受けながら、いったん国立大学に合格したら弊履のごとく約束を反故にする。文部科学省がこうした場合だれかにアドバイスをしようというのなら、約束を破った高校や受験生に対して「約束した通り学費を納入して入学しなさい」というのが筋ではないのですか。なぜ約束違反を助長するようなことをいわれるのですか。

(2)暴利防止と同じ扱いなぜ
 ボッタクリ訴訟弁護団側は消費者契約法を楯にとって、「大学は強者、受験生は弱者」という構図で大学を悪と決めつけています。しかし国民生活審議会消費者政策部会で悪徳商法防止を趣旨とした消費者契約法ができた時の立法審議過程での論議では「学納金とは何か」についての議論はあまり行われなかったと聞き及びます。「いったん納めた学納金はいかなる理由があっても返還しないというのはおかしい」と言及したのが唯一の発言といわれています。消費者契約法は暴利をむさぼる消費者金融の問題が民法では対処できないのでつくられた法律であり、そもそも受験生と大学との学納金には適用できないのではないかといった私学側弁護士の意見もあります。それに対し法解釈もまだ判断が分かれ確立していないような段階で、文部科学省高等教育局長が「消費者契約法は学納金問題になじむのではないか」といった発言を国会答弁で行われたことについて、私学人の多くが唖然としました。どのような根拠でそういう発言をなさったのですか。

入学金は入学の手付金に当たる
学生受け入れ準備費用


(3)国立大学発表までなぜ待つのか
 入学金の額は二十〜二十二万円程度であり、入学金の持つ意味は(1)入学を約束した手付金(2)学生を受け入れる準備のための費用といった性格を持つことを勘案すると、そう過大な金額であるとはいえないと思います。
 短大などでは入学者推薦枠をはずしたうえに、最近の入学者確保難の状況からいっても、定員までの入学者を早めに確保しておきたいと十一月から推薦は始まっています。受験生の入学意思を何としても早めに確認したい、早めに入学金もいただきたいし、専願を約束した受験生なら合格したら早めに授業料も納付してもらうのが入学者数の確定の何よりの拠り所になると考えるこれは事務当局にとって当然の態度ではありませんか。
 短大など国立大学との併願者もほとんどいないのに、なぜ国立大学の合格発表まで待たなければならないのですか。規制緩和の時代といいながら、法律の根拠もなく、高等教育局長の通知で国立大学の発表まで待てということを、行政指導されるのはなぜですか。私学受験生全体は二百九十万人、そのうち国立大学の二次試験合格者は二〜三万人しかいないのに、たったそれだけの人の都合を重視して、全体に「待て」と号令をかけるのはなぜですか。なお参考までに国立大の学納金の名称と趣旨と金額算定の根拠をお伺いいたします。

(4)差別的土俵なぜ放置
 さらに文部科学省はなぜ入学辞退が起こるのかという原因にまでさかのぼって考えていただきたい。国立大学に合格したものがいったん約束した私立大学への入学を辞退する大きな要因に学費の格差があります。医科大学を例にとるならば、入学定員が百人程度という規模の医科大学は、教職員の人数が学生数より多いために、教職員の人件費を含む学費が高くならざるを得ません。国公立大学にしたところで本来ならその辺の事情は同じはずですが、国や自治体が税金で大学予算を組んで面倒を見ている親方日の丸だから非常に低額で済んでいるだけのことです。アメリカなどでは医学部や理工系の学部では学費が他の文系諸学部よりも高くなっており、それは自然の成り行きといえますが、日本でも私学はそうなっているのに、国公立では文系・理工系・医歯系を問わず、授業料は同じにされています。ちなみに病院には国公私立の別なく同じ医療費が支払われているではありませんか。なぜそのように措置できないのか。さらに義務教育にいたっては、「これを無償とする」という憲法の保障があるにも関わらず、私立小中学校にだけは適用されていません。これは憲法違反ではないのですか。こういう造られた差別的障壁の下で私学の入学辞退者が出て国公立に乗り替えるのは当然です。国公立に合格した学生が私学を辞退するのはそういった土俵の違いが原因であって、つくり出した国に責任があると思いますが、文部科学省はなぜこういう差別を放置したまま、その当然の結果だけを押さえ込もうとなさるのですか。

(5)入学手続き後も寄付募集なぜ禁止
 心配はそれだけにとどまりません。文部科学省は昨年十月一日付で「私立大学における入学者選抜の公正確保に関する通知」を小野元之事務次官名で出されました。寄付金や学校債の募集時期は合否が金で影響されないように合格発表前は禁止されるべきことは当然ですが、これまで「入学手続き終了時以降」としていた募集解禁時期を「入学後」とするよう通知では改められました。私立大学の合格発表は一月下旬〜二月中旬にヤマがあり、この合格発表から一週間くらいの間に入学手続が済んでしまったあとなら、入学の条件とする寄付金ではないわけですから堂々と寄付金や学校債を募集できる。つまり今までは一〜二月に募集することもできたわけでしたが、こんどの改正によれば四月に入らないと寄付金は募集できません。寄付集めなどは入学した喜びに浸っている間とか、創立何十周年記念といった時期がお願いしやすいために、そういうチャンスを生かすのが学校経営者の才覚ともいえますが、それさえも制限しようとは差し出口が過ぎるのではないですか。いかなる根拠でそういうことをなさるのですか。
記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞