こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2002年9月3日号二ュース >> VIEW

記事2002年9月3日 1857号 (10面) 
東京家政大学120周年記念館が完成
新たな高等教育、生涯学習へ飛躍
意欲もつ自立した女性
卒業生、地域の人々に生涯学習の場




【21世紀の私学像】

 東京家政大学(東京都板橋区)に百二十周年記念館が完成した。女性が社会とかかわりながら自分らしい生き方をつかみ取るための環境づくりを使命としてきた同大学では、今後自立した女性の育成に努めていく。


学生、教育中心の記念館
CFTを採用した耐震構造で地上11階、地下1階
理事長清水 司氏 学長片岡 輝氏

 東京家政大学は今年で学園創立以来百二十一周年を迎え、新たな飛躍を展開するための砦として百二十周年記念館が今夏完成した。記念館は強度の高いCFT(コンクリート充填・鋼管柱)を採用した耐震構造で地上十一階、地下一階、総建築面積一万三千五百平方メートル。教員の研究室の横に学生指導室を配置するなど学生教育中心に設計、教育用のスペースは倍増した。既存のエクステンションセンター(五階建て)と隣接する形で、校門を入ってすぐ目の前の場所に建てられたのは、大学を訪れる地域の人たちや卒業生の生涯学習との連携を目指したもの。記念館の一階には九百席入れる多目的ホールのほか生涯学習との連携の窓口となるヒューマンライフ支援センターなどが置かれる。二〜四階は大教室や実習指導室、マルチメディア教室など、五、六階には児童・保育系、七、八階には栄養系、九階には環境情報系と短大の国際コミュニケーション系、十階には服飾・美術系、十一階には教職・教養関係の教員研究室や学生指導のためのスペースがゆったりとられている。

 清水司理事長は早稲田大学総長を退任ののち、東京家政大学へは平成五年に学長に就任、その後理事長も併任し通算して今年が十年目となるが、「伝統の上に新たに私が付け加えようとした生涯学習のための拠点づくりができた」と次のように語った。
 「この学校は渡辺辰五郎が明治十四年に創立した和洋裁縫伝習所が起源です。当時女子教育はほぼ皆無でしたが、裁縫がひとかどの女性としての必須教養であり、辰五郎はその裁縫技術を一対一伝授指導から、型紙の縮小版や教科書、掛け図を使って一斉教授の集団指導を行い裁縫を学校教育の教科に位置付ける条件を整えた。その教え方が優れているというので千葉女子師範学校に先生として招かれ、そこの校長が東京女子師範学校(現お茶の水女子大学)へ転任した際にも一緒に引き抜かれて先生になりましたが、その時に女子師範で教壇に立ちながら、自分でも独自に開いたのがこの学校なのです。こうして裁縫をはじめとする衣食住や子育てを教えてきましたが、その教育理念は単に家庭内の管理にとどまらず国家を支える女性の育成を目指していました。当時の校則の中に『本校は…主として和洋裁縫および手芸を教授し併せて修身・礼式・家事・経済・教育・数学・習字・生花・茶湯を教授し智徳を涵養して以て国家の良母たる資格を有する婦女子を出さんと欲するにあり』とある。めざすのは国家の良母で志が高かった。
 もう一つ、この学校の特色はやはり物づくりです。裁縫は生地以外に何もないところから自分で型紙をつくり服に仕立て上げる。食物・栄養も同様に自分で完成品を頭に描き設計してゼロの状態から生み出していく。そのためにはつくりあげようという意欲と企画力、実現するための技術がそろっていないとできません。いま流行の総合学習を昔からやってきた。だから学生が卒業するころにはそれらの資質を兼ね備えて自立する女性になっているんです。
 こうした校風は創立当時から続いてきた伝統ですが、私がこの学校に来て新たにやろうとしたことは、卒業生や地域の人たちとともに、学生もいっしょになって学ぶ生涯学習の拠点づくりです。地域との接触は五階建てのエクステンションセンターが校門のすぐ近くに造られ活用されてきましたが、こんどその近くにゆったりとした百二十周年記念館をつくり、現役学生の教育と連結しての相乗的教育効果を期待できるようになり、私の構想はこれからさらに発展していくと思います」

卒業生が各界で活躍

 女性が衣食住や教育・保育など人間が生きることにかかわる仕事を通じて社会に貢献し、自立するという生き方が、創立以来の東京家政大学卒業生の特色である。卒業生の活躍ぶりがそれを示している。
 現在、卒業生が創立した学校数は大学だけでも二十一校、高校等も含めると多数の学校があるという大学側調査があるが、これは日本国内で調べた数字であって、ほかにサンパウロに一校(現存)、ロサンゼルスに一校(太平洋戦争中に米国政府により接収)あったことも最近分かった。
 学内でいま八万余人の卒業生のうち現在の在職者数を分野別に調査・取りまとめ中だが、小学校・中学・高校の教員として現在在職中の卒業生数は、東京で百四十七人、埼玉で三百七人など、全国で約千三百人が活躍しており、他大学と比べると群を抜く。全体数でも問題なくダントツである。朝日新聞の「大学ランキング2003」によれば高校からの評価で女子大学中五位、全大学中四十四位を占めた。
 入学前から「こんな仕事に就きたい」と目標を明確にしている学生が大半であり、他の学生もそれに触れて努力しようとすることが学生生活の場をさらに活性化させている。
 この大学では進路支援センターが受験を目指す高校生に対して大学見学や受験アドバイスなど入試の支援から、在学中の学生にはキャリア教育や編入学、大学院進学などの支援、そして卒業後にもキャリアアップや再就職の支援を行い、入学前から卒業後まで、一人ひとりに対してきめ細かな対応をしている。何になりたいかという受験生のニーズを的確につかみ、その目標に到達できるよう支援し続けるわけである。栄養士や教員など専門職として活躍する卒業生に対し、就職してからもキャリアアップセミナーが開かれている。
 すでに栄養士のネットワーク「緑栄会」は充実した活動を行っているが、幼稚園・小学校や家庭科など教職就職者や在学生との情報交換・資質向上を目指すシンポジウムや研究会も回を重ね、小学校教員のネットワークも発足し、活動を開始した。

早大と単位互換
埼玉の大学群とは公開講座を協定

 聴講できる科目の拡大という点では単位互換授業が進展充実した。
 早稲田大学とは今春から単位互換協定を実施に移した。こちらから早大へ約二百人が出向き、早大からは食物・栄養・児童保育・美術などへ約六十人がきている。早稲田の教職課程ではとれない幼稚園・小学校教員免許がとれるため、児童学科へきた四人のうち一人は幼稚園・保育園を経営している家の後継ぎの男性だが、違和感なく受け入れられ、女子大での男女共学もスムーズに進んでいる。埼玉県では同県内にキャンパスを持つ跡見学園、女子栄養、大東文化、東京電機、立正などの十八大学が「彩の国大学コンソーシアム」を結成してこの九月十四日から「二十一世紀を生きる」を共通テーマにして公開講座を開催することにした。埼玉県狭山市にキャンパスを持つ東京家政大学も参加し、片岡学長が「生涯学習時代の大学開放」について講義を行う。単位互換も公開講座もいずれも聴講は無料。

記念館は躍進の拠点
学ぶ環境は快適化

 片岡輝学長は慶應義塾大学出身でTBSの児童・社会教育・報道番組のディレクター、科学万博などのプロデューサー、詩人として活躍し、家政学部児童学科の教授を経て今春学長に就任した。記念館の建設で学ぶ環境が快適となったことと二十一世紀に求められている家政大学の飛躍の拠点ができたことを強調している。
 「女性が仕事を通して自立し、社会の中で役立つ存在になるように育てるのが本学の明治以来の伝統で、家政学部・文学部・短大から優れた人材が多数巣立っています。その建学の精神を二十一世紀に飛躍させる拠点が記念館です。記念館の機能は(1)IT(情報技術)時代に対応した教育の基盤となる(2)学生にアメニティーのよい学習環境を提供する(3)大学の研究成果の社会還元と社会が求めている情報を発信することをめざしています。具体例として、(1)板橋・狭山の二つのキャンパスを光ファイバーで結ぶマルチメディア教室では遠隔授業が行われ、来年四月からは他のキャンパスの授業を受講することができるようになります。(2)先生の研究室の隣に設置される学生指導室は先生と学生の交流や少人数教育の場となります。また各階に設置したロビーにはくつろぎながら談話したり、自習や課題の作成ができるように使いやすい机とイスを置き、インターネットにつながる情報コンセントをつけました。(3)一階のヒューマンライフ支援センターは社会に開かれた家政大学の窓口で、子育て支援、地球にやさしい暮らし、思いやりをキーワードにして地域の人々と学生と卒業生を結ぶ触れ合いの場となります」

地域の人たちを生涯にわたり支援
育児、不登校児の母親のケア

 学内向けの支援センターと両輪のように学外の一般市民に向けた臨床相談センターも開かれ利用されてきた。最近、母親による児童の虐待がよく問題になっているが、こうした心理状況におちいりがちなのが決まって専業主婦であることが家政大臨床心理学科の研究で分かっており、こうしたケースも含めて母親の心と体のケアを支援するのが臨床相談センターである。
 こうした地域の人たちへの支援を人間が生まれてから老いるまでの生涯にわたって支援しようという施設が、こんど百二十周年記念館一階に設置されるヒューマンライフ支援センターである。その第一歩が乳幼児への発達支援、小児栄養サポート、好ましい衣食住の勧めを柱とした情報提供である。情報検索できるコンピュータが置いてあり、楽しく知識が得られるように市販のお菓子から合成着色料を採取し、その着色料で染め物をするまでの過程を紹介したりする。生涯学習センターとの連携の中では、いまこういうボランティアが求められているといった情報、キャリアアップやリカレントの勉強の場の情報を地域の人や卒業生に紹介する。
 また子育て、栄養、心の悩みなどについての相談も一手に引き受け、電話で予約すればだれでも無料で相談にのってもらえる。相談窓口も設置した。相談内容によって(1)子育て(児童学科)(2)栄養(栄養学科)(3)生活の中のエコロジー・子ども服によるアレルギーへの対処(被服・環境情報学科)(4)心理カウンセラー↓臨床心理センターへの紹介(文学部)と担当分野を分担する仕組みとなっている。子どもを家で預かりたいといった人への短期研修とか母親や保育士を対象にした学習の場提供から老人大学まで、前向きに生きる人をサポートする研修も業務の一つである。母親同士が子育て経験を振り返って話し合うサークル活動を組織し、その交流に学生が触れればお姉さんのような形で母親にとっても話しやすい相手になり、学生自身も得るところが大きい。いずれは板橋区や北区など行政機関の生涯学習計画に協力する形になるかもしれない。大学は学内の学生だけでなく研究成果を学外へも発信し、社会に貢献することが理想であるという理念が着々と実現へ向かっているといえる。
 ヒューマンライフ支援センターと同じ階の多目的ホールは展示会や子ども向け芝居などのイベントに使われ、地域の人にもきてもらいやすくする。

卒業生や父母から
緞帳やピアノ寄贈

 百二十周年記念館の完成を祝って、同館屋上には夜はネオンのともる校名サインが後援会(在学生父母)から、また多目的ホールには緑窓会(卒業生)から緞帳、緑苑クラブ(卒業生の父母)からピアノが贈られた。








記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞