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記事2002年9月13日 1859号 (5面) 
入学辞退者による学費返還訴訟問題(上)
私立大学や専門学校に納めた入学金や授業料などの学費が、入学を辞退しても返してもらえないのは、消費者契約法に違反した学校側の不当利得に当たるとして弁護団に後押しされた入学放棄の受験生が各地で学費返還訴訟を起こす動きが広がっている。この動きや周辺の事情を探ってみた。

前納入学金・授業料返還訴訟の経緯
入学辞退者が納付金返還請求
関西地区から東京などに広がる

 最初に声を上げたのは関西地区だった。「前納入学金・授業料返還弁護団」(団長・松丸正弁護士=堺市中瓦町1丁4―27、堺法律事務所)の関西各地の弁護士から各地の私立大学理事長あてに受験生何某の代理人としての「通知」が六月上中旬にかけて送られてきた。内容はおおよそ次のような構成である。「…上記受験生らは貴法人が設置した○○大学の平成十四年度入学試験を受験し、所定の入学納付金を支払いました。その後、受験生らは他大学の入学試験に合格したため、貴学への入学を辞退したのですが、入学納付金全額は未だ貴学にお支払いしたままの状態となっています。入学辞退により、入学契約が解除された以上、授業料その他授業の受講や施設利用と対価関係にある金員は受験生らに返還されなければなりません。また、入学金については、契約解除に伴う損害賠償額の予定であるとのご主張が予想されるところ、平成十三年四月一日施行の消費者契約法第九条一号によれば、損害賠償の予定を定める条項については、契約解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を越える部分についての定めは無効とされています。入学試験合格者が入学辞退をしたことにより貴学に生じる平均的損害額は、せいぜい補欠合格者の繰り上げ入学手続きに要する最低限の事務費用相当額にとどまるものと考えられます。上記受験生らが貴学にお支払いした入学納入金のうち、上記事務費用相当額を超える額について、速やかに下記口座にご返還下さいますよう請求いたします」
 各大学ではこれに対して理事会で検討の結果、「納入手続きは公正で合法的であり、返還請求には応じがたい」との回答を送った大学がほとんどであったが、六月末現在で六校が返還に応じ、四校が交渉中であるとの私大側のまとめがある。
 応じなかった学校に対して、弁護団側は六月二十八日に一斉に提訴した。提訴した受験生は大阪、京都、兵庫、奈良、石川、愛媛、愛知、長崎、高知の二府七県、五十八人、提訴されたのは大阪、京都、兵庫三地区の二十三大学(二短大を含む)、五専門学校の合計二十八校で、返還要求総額は五千八百七十万円、最高は関西医科大学の八百九十万円だった。関西の弁護団の動きは東京、名古屋にも広がった。東京では六月二十日に返還訴訟の東京弁護団(代表・塩谷崇之弁護士=東京都千代田区麹町4―1―4、大野・窪木総合法律事務所)が結成され、六月二十九日には東京、名古屋、大阪の三カ所で学費返還訴訟の電話相談を受け付けた。三カ所合計で八百二十一件の電話相談が寄せられたという。また七月十七日には入学金・授業料一一〇番説明会が東京弁護士会館で開かれた。この説明会の時に使われた「入学金・授業料問題Q&A」によると、「これまでの学費返還訴訟は大学側の財政的事情や欠員補充の困難さを重視し遅い時期の入学辞退に対しては原告の返還請求を棄却した判例が多いが、消費者契約法ができてからはそういう裁判所の考え方を変えていくための社会的な世論づくりが必要である」といっている。
 返還要求の手順としては(1)弁護団は各大学への交渉による請求のための委任を受けた時点で、大学へ「返せ」と請求する。その事務手数料は請求額五十万円未満の場合は一万円、百万円未満の場合は二万円、百万円以上の場合は三万円。訴訟を提訴する時点では別途に、五十万円未満の場合は二万円、百万円未満の場合は四万円、百万円以上の場合は六万円の着手金をもらい受ける。そして大学側から支払いがなされた時は支払い額の一〇%を報酬として頂くという段取りになっている。

文部科学省の学生納付金取り扱い方針
推薦入学など含め入学料以外の納付金
合格発表後の短期間内徴収望ましくない

 文部省(当時)は「私立大学の入学手続き時における学生納付金の取り扱いについて」という管理局長、大学局長連名の通知を今から二十七年前の昭和五十年九月一日付で各学校法人理事長あてに送っている。
 内容は次の通り。
 「私立大学においては、学則、募集要項等において、合格通知を受けた入学志願者が入学手続きを行う際には、入学料、授業料、施設設備費等の学生納付金を納めなければならないこととし、納入後は、事情のいかんを問わず、それらの学生納付金は返還しないこととしており、さらに納付期限は合格発表後の短期間としているのが通例であります。このため、複数の大学に合格した者にとっては、納入期限の関係から、複数の大学に学生納付金を納めなければならない場合が多く、しかもその額は年々高額となっております。私立大学が健全な私学経営を図るため、一定の入学者数の確保を図る必要上合格者の入学意思を確認するため早期に入学料を徴収する必要がある場合も多いと考えますが、当該大学の授業を受けない者から授業料を徴収し、また当該大学の施設設備を利用しない者から施設設備費等を徴収する結果となることは、容易に国民の納得を得られないところであります。ついては、今後少なくとも入学料以外の学生納付金については、合格発表後、短期間内に納入させるような取り扱いは避けることとし、例えば、入学式の日から逆算しておおむね二週間前の日以降に徴収することとする等の配慮をすることが適当と考えますので、善処されるよう願います」
 文部科学省は毎年、大学入試に関する実施要項を出しているが、今年五月十七日付に出した「平成十五年度大学入学者選抜実施要項について」の高等教育局長通知の中では、前記の昭和五十年九月一日付通知の名を挙げて次のような配慮を促している。「17……私立大学の入学手続き時における学生納付金の取扱いについては第二五一号通知を参照し、推薦入学等も含め、少なくとも入学料以外の学生納付金を納入する期限について、合格発表後、短期間内に納入させるような取扱いは避ける等の配慮をすること」
 私学納付金問題を所管する文部科学省私学助成課で尋ねたところでは、入学金については「(1)入学の手続や準備のために必要であり、手数料的性格を持つ(2)入学意思確認の予約という手付金的な性格もあり、納入期限を遅らせてほしいという納付金からは除外して考えている」。授業料や施設設備費については「教育の役務や施設利用に対して支払う対価であり、授業を受けない者や施設を利用しない者、つまり入学しない者から徴収することは望ましくないという考え方が基本であって、二十七年前の通知の中の『入学式の日から逆算しておおむね二週間前の日以降に徴収すること等の配慮が適当』という文言が最近一人歩きしている感じがあるが、二週間前を過ぎたら返さなくていいという保証をするものではない」という言い方だった。また二十七年前と変わった点として、推薦入学も含めて短期間の納入を避ける配慮を求めていることが印象的だった。
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