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記事2002年9月13日 1859号 (6面) 
急がれる学校建物の安全管理
耐震・耐久診断が必要
学校校舎など教育機関の建築物は大規模な地震にも耐えられるだけの性能が必要だが、全国的にはまだまだ高度経済成長期以前に建てられた建築物も数多く残っており、すべての建物が十分な耐震性能を持っているとは言いがたい。いつ発生するか分からない地震災害に備えて耐震性能が不十分な建築物は早急な補強を行う必要があるが、当該の建物がどの程度の耐震性能を持っているのかは建築の素人である学校関係者では評価・判断することが難しい。このような場合に便利なのが建築物の耐震性能をチェックする診断だ。本紙ではこのような診断を中立・客観的な立場から実施している株式会社コンクリート診断センターと、調査から責任施工・リハビリテーションまでを一貫して実施している株式会社コンステックに耐震診断・耐久性診断の実際について話を伺った。

建築年度による建築物の耐震性能
世代が新しいほど耐震性高い
劣化・老朽化の把握を

 日本の建築物は設計を行った年度で建物の構造強度などを規定した法令が異なり、そのために建築された年代によって耐震性能が大きく異なります。
 耐震基準については一九五〇年に初めて建築基準法が制定されましたが、六八年に起こった十勝沖地震を契機として七一年に法規が改正されました。その後七八年に発生した宮城県沖地震を契機として更に厳しい耐震基準が八一年に制定され、現在に至っています。このため、一九七一年度以前の設計基準で建てられた建築物を第一世代、七二年から八一年までの基準で設計された建物を第二世代、八二年以降を第三世代と称しています。
 世代が新しいほど耐震性能が高いのは当然ですが、実際に阪神・淡路大震災では第三世代の建物は被害が少なく、その他の世代では相当の被害が出ています(表参照)。
 このことから分かるように耐震診断の対象は第一、第二世代の建物となります。また、第三世代については、劣化・老朽化などの進行状況を把握する必要があります。

耐震診断の手順と内容
 耐震診断の手順としてはまず、当該建物の設計図書などを収集・検討するとともに建物の履歴や過去の被災歴について建物所有者からヒアリングを行うなどの「予備調査」を行います。
 次に、実際に建物そのものを調査する「現地調査」を行います。「現地調査」には、(1)建物全体を目視してひび割れや不同沈下の有無などを調べる「劣化度調査」(2)柱や梁などの構造材の配置や寸法などを確認する「部材配置・部材寸法調査」(3)コンクリートの強度、中性化深さ(セメントのアルカリ分が失われて中性になる)、塩分含有量などを調べる「材料調査」(4)建物の一部をはがして鉄筋の太さや配置状況、錆発生の実態を調査するなどの「はつり調査」(主に設計図などがない場合)(5)コンクリートの内部状況を赤外線、エックス線などを用いて観察する「非破壊検査」等があり、建物全体を総合的に調査・診断します。

診断の基準と評価
Is値は最低0.6以上必要
満たない場合は補強工事を

 この調査結果を基に、柱と壁のコンクリート強度・鉄筋の量や錆の状態、床面積に対する柱や壁の断面積のバランス状態などを評価・判定して耐震性能の診断を行います。耐震性能の判定は財団法人日本建築防災協会で設定している指標に照らして行います。この指標は建物の持つ基本的な耐力、建物の形状、経年変化などを加味したIs値(構造耐震指標)で表します。一般建築物でのIs値は、最低0・6以上が必要とされます。より安全性が要求される学校建築物では、通常0・7または0・75が必要とされています。
 診断の結果、必要とされるIs値に満たない場合は、適切な補強工事を行う必要があります。

補強の方法
診断結果から
建物の使用状況考慮した工法検討

 補強工法についてはさまざまな方法があります。壁断面の厚みを増す、窓などの開口部をつぶして壁面にする、ブレースと称する「筋交い」を入れる、柱に炭素繊維シートを巻く、などの方法です。
 いずれにしても診断結果から補強箇所と補強内容を算出・設計したうえで、建物の使用状況を考慮した工法を検討します。

耐久性診断
耐久性と耐震性確認して
耐久性が保たれる

 建物本体の耐震性能のほか、地震発生時には外壁に張ったタイルが落下したり、老朽化した配管から漏水が起こるなど、使用上の問題が起きる可能性があります。また、地震などの災害が来ないとしても建物は経年変化によってさまざまな箇所に不具合が現れてきますので、建物の耐久性についてもチェックしておくことが必要でしょう。調査項目としては外壁のひび割れや浮き、剥落、屋上などの防水層劣化、結露、カビなどの有無、漏水や赤水などが挙げられます。
 これらの診断についても現地調査による目視や赤外線による非破壊検査などを行って、現状を詳細に把握して補修計画を立案します。
 建物は耐久性と耐震性の両方の安全性が確かめられて、初めて総合的な耐久性が保たれますので、できれば耐震診断と耐久性診断の両方について十分な技術と知識を持つ機関へ依頼し、補強工事および補修工事を併せて行うとよいでしょう。

 ◇問い合わせ先=(株)コンクリート診断センター 電話03(3458)0443 
         (株)コンステック 電話03(3458)0441

建物の世代と阪神・淡路大震災の被害関係


炭素繊維シート補強


シュミットハンマーでコンクリートの強度を推定


自然電位法によって、鉄筋の腐食状況を推定

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