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記事2002年7月23日 号 (2面) 
新教育基本法憲法の枠内で見直し
基本法、振興基本計画議論概要を審議
就学年齢は弾力的に 宗教教育のあり方など検討へ
今秋にも中間報告
 中央教育審議会の基本問題部会(部会長=鳥居泰彦・日本私立学校振興・共済事業団理事長)は、七月十六日、東京・竹橋のKKRホテル東京で第十二回会合を開いた。この中で鳥居会長と事務局(文部科学省)等がこれまでの委員の意見を基に作成した「教育基本法に関する議論の概要」と「教育振興基本計画に関する議論の概要」が提案され、討議が行われた。これらは、中教審が今秋にも公表する中間報告のもとになるもの。

【中教審・基本問題部会】

 このうち教育基本法に関しては、全体の在り方のほか、現行の教育基本法に沿って、前文、教育の基本理念、義務教育、教育の主体、宗教教育などの項目について、これまでに委員のコンセンサスが得られた意見が提示された。新教育基本法の全体の在り方に関しては、現行の憲法の枠内で見直すべき点を見直すこと、教育の振興に関する基本計画の策定の根拠となる規定を法に盛り込むことなどを挙げている。
 また義務教育に関しては、就学年齢は発達状況の個人差に対応し弾力的に運用すること、小学校六年間の課程の分割や、幼小、小中、中高など各学校種間の多様な連結が可能となるようなシステムとすること、保護者の学校選択、教育選択システム等の検討の必要性が指摘されている。
 学校の設置者に関しては、学校の設置者を、国、地方公共団体及び「法律に定める法人」と規定している点については、このような考え方を維持する方向で検討する、としている。また宗教教育に関しては、これまでの議論で優秀な若者が簡単にカルト宗教にはまってしまうことから、宗教教育の必要性で一致しているものの、どう現行法を見直すかについてコンセンサスが得られていないことから引き続き検討していくことにしている。
 一方、教育振興基本計画に関する議論の概要では、教育の現状と課題、教育改革の基本的な方向性、教育振興基本計画に盛り込むべき施策の検討の視点、当面、重点的に実施すべきと考えられる施策の例(参考)が盛り込まれている。このうち初等中等教育関係、高等教育関係とも「私学の振興」の一項目が設けられているが、これまでに私学に関するまとまった議論はなかった。
 議論の概要が説明された後の、委員による討議では「高等教育関係の位置づけが弱い」「広く国民の声を聞くべきだ」「総合規制改革会議で審議されている株式会社の教育への参入をどう考えているのか」「重点的な施策例に伝統文化にかかわるものを入れてほしい」「地域への貢献では短大等が重要」など意見が出された。

中間報告法案の方向性分かる内容に

 このうち高等教育に関しては、教育振興基本計画について大学分科会の専門家にも意見を聞くか、大学分科会の検討結果を同計画に反映させることを検討する。株式会社の教育参入問題に関しては、文部科学省の近藤信司・生涯学習政策局長が「NPO等の教育への参入は学校教育法で定めればいい」と語った。また小野元之・事務次官は教育基本法の中間報告は、新たな法案の方向性が分かる内容とすること、各方面の専門家や教育関係団体、国民等の意見を聞き、十二月ごろまでには答申をまとめたいとした。さらに教育振興基本計画に関しては、教育基本法の決定後に閣議決定すること等を明らかにした。議論の概要は七月二十九日の総会に報告され、検討される。

【中教審・大学分科会】

法科大学院など3答申案審議
第三者評価、専門職大学院などで意見

 中央教育審議会の大学分科会は七月十日、東京・霞が関の経済産業省別館で第九回大学分科会を開催し、「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」「大学院における高度専門職業人養成について」「法科大学院の設置基準等について」の三つの答申案を審議した。
 いずれも四月に公表された中間報告を各部会における審議で委員から出された意見などを踏まえて加筆修正を行ったもの。今月二十三日に開かれる第十回大学分科会で再度審議、二十九日の総会で答申取りまとめを予定している。
 この日の分科会では、最初に中教審事務局(文部科学省)から三つの答申案について、中間報告からの主な変更点について説明があった。「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」の変更点は、設置認可の在り方の見直しについて、大学が授与する学位の種類や分野に着目し、その違いによって認可対象を限定する、新たな分野の学位を授与する場合、大学の学部等において授与している学位を文学関係、法学関係などのように大くくりに分類し、設置の際の認可か届け出かの判断基準とする、としたことなど。また、大学の質の保証の必要性について、ヨーロッパ諸国の事例に加え、アメリカで多様な適格認定団体が評価活動を行ってきたことを書き加えた。第三者評価制度の導入については、付記されていた「適格認定」の文言を削除し、必ずしも適格認定だけを指すものではないとしたこと、機関別第三者評価は「受けるものとする」としたことなどが主な変更点となっている。国立大学関係の委員からは「国立大学法人に移行すれば大学評価・学位授与機構で評価を受けなければならなくなるが、この答申案は新たな評価を義務づけるものか」との疑問が出されたが、文科省は「国立大学法人法に基づく評価と制度上は別物。大学評価・学位授与機構が認証評価機関となれば、その評価を受けることが第三者評価となり得る」と答えた。  このほか、この答申案の性質について「設置認可か評価か、どちらに軸足を置くものなのか」と疑問を投げ掛ける意見もあった。
 新たに創設されることになる専門職大学院、法科大学院をめぐっては「国際的に評価されるプロフェッショナルスクールをつくることが重要だ。現在の法科大学院の案では法学部の大学院とプロフェッショナルスクールとの中間的なものになりはしないか」「第三者評価機関が専門職大学院に不適格の評価を下した場合、だれが“退場”を命じるのか。設置審査の段階まで戻り、設置権者が設置認可を取り消すとすれば設置基準はミニマムでいいのか悩ましい」などの意見が出た。




【解 説】  専門職大学院制度 審議までの経緯

 現在、中央教育審議会大学分科会大学院部会では高度専門職業人養成に特化した新たな形態の大学院として専門職大学院について審議しており、近くその制度創設が答申される運びとなる。平成十一年に制度化された専門大学院の現状を踏まえ、専門職大学院制度が審議されるに至った経緯をまとめてみた。
 専門大学院は米国のプロフェッショナル・スクールに対応するもので、高度専門職業人養成に特化している。修業年限は標準二年。ケーススタディーや演習などの実践的技法を修得させる教育手法を採用した実践的カリキュラムであることが特徴。フィールドワーク、インターンシップなど現場教育も重視している。担当教員はMBAなどの学位を有し、実際的な実務経験を持つ人が相当数。対象学生は社会人や留学生で実務経験を有する人が主体だ。現在、専門大学院としては一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営・金融専攻、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻、九州大学大学院医学系教育部医療経営・管理学専攻、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科国際マネジメント専攻、神戸大学大学院経営学研究科現代経営学専攻、中央大学大学院国際関係研究科国際関係専攻の六研究科だけだが、いずれの取り組みも社会から高い評価を受けている。
 専門職大学院制度は高度専門職業人養成を質量ともに充実させることに対する社会的要請がさまざまな分野で急速に高まっており、各分野の特性に応じた柔軟で実践的な教育をより一層充実させる観点から、この専門大学院制度をさらに改善、発展させることが求められているとして、審議が進められてきた。
 従来の専門大学院制度は現行の修士課程の中の一類型として位置づけているため、標準修業年限が二年とされ、修業年限がその職業に必要な教育課程から積み上げたものとなっておらず、現行の修士課程の在り方との違いが制度上、必ずしも明確ではない。また、平成十六年度からの開設が予定されている法科大学院についても研究指導や特定課題についての研究成果をまとめることを必須とはしないなど、現行の専門大学院とは異なる新たな制度を導入することとなっている。こうしたことから現行の専門大学院をさらに発展させた形での新たな大学院制度創設の運びとなった。
 専門職大学院では実務家教員の参画による実務界との連携・交流によって実践的な教育の実現を図るとともに、第三者評価の導入によって変化に応じた柔軟で質の高い教育を保証していく。
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