こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2002年7月23日号二ュース >> VIEW

記事2002年7月23日 号 (4面) 
第17回全私学教育サロン開く
第2部・講演 「私学の生き残り戦略」
本紙主催

NTT-EI株式会社社長
池尻 稔氏


ナレッジステーション編集長 武田英成 氏

全私学新聞運営委員会(浅田敏雄代表)が五月八日に開いた「第十七回全私学教育サロン」の第二部では、「私学の生き残り戦略」をテーマにした講演が行われた。池尻稔・NTT―EI株式会社社長は魅力ある授業づくりについて、武田英成・ナレッジステーション編集長はブロードバンドの利用について、それぞれ講演した。その要旨を報告する。(編集部)



【魅力ある授業づくり】
NTT-EI株式会社社長 池尻 稔氏

ブロードバンドやインターネットを使って授業
エデュマート構想で

 私学の生き残り戦略というテーマについて、魅力ある授業づくりをやれば間違いなく私学は生き残れると私は思っていますので、いくつかシンプルな提案をさせていただこうと思います。
 私学を取り巻く環境は非常に厳しい。少子化と不況による公立指向のほか、公立校も遅ればせながら制度改革を始めました。パイは確実に縮小しています。経営のために必要な人数をとると偏差値が下がる。偏差値を守ろうとすると生徒が足りなくなる。定員をとろうとすると偏差値はもっと下がる。教育のデフレスパイラルです。そういう時、企業では社員教育の強化、自社商品の差別化、既存商品の改良をしますが、これなら学校でもできます。学校の商品とは授業。学校が子どもにいい授業をしてくれるか、魅力ある授業を学校全体できちんと取り組んでいるか、すべての先生がそれに参加しているか、それをPRできているか。顧客は親です。
 私はアメリカのビジネススクールの授業に参加しました。六週間で三百五十万円の授業料。百四十人くらい集まりました。こんな素晴らしい授業を受けたのは初めてでした。
 企業のケーススタディーが内容ですが、終わると学生が自然に立ちあがり拍手がわく。教授は学生の考えを引き出す術を非常によく身につけていて、七十五分の授業について周到なシナリオを書き、らせん階段を一歩一歩結論に向かって上がっていくような実感があります。教授が設問やヒントを投げかけると、学生からは当てられないほど手が挙がり、学生間でどんどん議論が飛んでいく。学生はみな勉強しているし、参加したい意欲があって、最後はなんとなく学生たちが自分で結論を出したような気分になる。でもそれは教授が結論を導き出しているのです。教授は授業を魅力あるものにするシナリオを考えるプロなんです。
 準備もちゃんとします。この教える技術があればどの授業も魅力あるものになります。日本でもこれは先生方が工夫さえすればできるのではないでしょうか。
 国は今年三月に全国の公立校をインターネットでつなぎました。インターネットを子どもに使わせて、調べる、交流する、発信する、この三つを身につけさせることは、多くの学校で行われています。しかしもっと大切なこと、それは本当にいい素材があればそれを使って生き生きとした授業ができるということです。昔、理科実験室に木の人形があって、心臓部分を取り出して見ることができるようになっていました。それで心臓に四つ部屋があることくらいは分かりましたが、心臓の動き方などは分かりませんでした。いまはコンピュータグラフィックスを使えば、心臓の動きや胃のぜん動なども見ることができます。ブロードバンドやインターネットを使って授業をする時には、この素材を授業現場に流してあげればいいというのが「エデュマート構想」というものです。総務省はこの三月に沖縄で実験をしました。今年は全国八自治体で公立校をつないで実験を拡大し、二〇〇五年までには四万校がすべてブロードバンドでつながります。放送会社や教科書販売会社の持っている映像素材がネットワークの上に置いておかれ、何十万の素材を見るのは無料です。使ったらお金をとられます。それを学校で使いこなす環境が整うのが二〇〇五年です。
 半円を回転させたら球になる、直線を回転させると中空の円筒ができるということは、紙の上では説明しにくいのですが、コンピュータではよく分かります。そういう素材が何万何千もネットワーク上にあるので、それを引っ張ってくればいいというのがエデュマート構想です。

学校まるごとIT通
手間ゼロ、翌日の授業に生かす

 この環境は私学でも整えることができます。しかし、これを使いこなすのは先生方です。あまりパソコンに向かわない先生はどうしたらいいのかとよく聞かれますが、この解決策を提案します。ウェブで宿題を出せばいいのです。保護者は学校がいつどんな宿題を出したか知りたい願望があります。宿題を出すためには先生はコンピュータに向かわなければなりません。子どもが見るのは宿題ですが、保護者には連絡がきます。どんな宿題を出したとか、期限はいつだとか、クラブ活動などの連絡もあります。保護者も子どもも、同好の人同士などで意見交換もできます。
 インターネットにつながっているパソコンで宿題を出すと、すごいことは、次の日、その生徒が学校へ来る前に宿題をやったかどうか、解答の○×(マルバツ)とか、六問中二問しかできていないということも授業の始まる前に分かってしまうということです。クラスの平均正解率や問題ごとの正解率も分かります。事前学習のための宿題を出して、次の授業の始まる前にクラスの傾向が分かってしまうのです。パソコンがネットワークにつながっていることのすごさです。こういうシステムを入れると先生も子どもも保護者もみんなパソコンに向かわざるを得ないので、学校まるごとIT通になります。  
  先生方は「パソコンで宿題を出すのは大変じゃないか」とおっしゃいますが、それには簡単なツールを用意してあります。宿題を出すことよりも採点することの方が間違いなく大変ですが、この採点をコンピュータがやるので、先生は宿題を出す手間が少し増えるだけで採点の手間はゼロ。しかも次の日の授業に必ず活用できます。個々のツールを先生に提供して「さあ、使いなさい」と言うと、先生方はなかなか難しいのではないかと思いますが、こういう仕組みを入れてしまうと全員が使わざるを得ない。使わなくてもすむ環境を残してはだめなのです。家庭とのコミュニケーションをファクスでやっている学校があり、送るのは同報通信という仕組みで大したことはありませんが、送り返してもらうのがすごく大変です。家庭の数だけ返ってくる。インターネット、ホームページであれば簡単だし、情報は一カ所更新すれば同じ情報をみんなが見ているわけだから常に最新情報で、紙は不要です。こうして先生方がITを無理なく使えるようになって、ブロードバンドのシステムが生きてきます。

魅力ある授業ブロードバンドで

 学校経営ができるのに必要なだけの子どもの数を集めてくるためには、授業を魅力あるものにし、自分たちは学校一丸となってこういう授業をしていますと、顧客の保護者に向けて訴えることが必要です。それにはブロードバンドが最もパワフルな手段です。公立は時間がかかりますが、私立ならすぐできます。公立に先んじてください。私たちは授業のプロではないので、授業のシナリオは構成できません。教えるプロである先生がちょっと時間を割いてこれを活用すれば、素晴らしい授業が展開できると思います。
 学校全体で取り組み、すべての先生がそれに取り組んでいくのです。管理者は社員に向かってビジョンを示すことがミッションです。これができるかどうかで明暗が分かれると思います。




【ブロードバンドの利用 】
ナレッジステーション編集長 武田英成 氏

ブロードバンドで学生募集
常時接続で費用も定額

 私学の経営戦略の中でもブロードバンド(高速回線型ネット接続/反対に低速回線型はナロウバンド)が私の本日のテーマです。いまブロードバンドを使っている日本のユーザー数が三百八十六万回線というのは五月二日の連休中に総務省が発表した数字です。総務省は二カ月ごとに利用数を発表していますが、二カ月前の前回発表と比べて三百万回線増えていることからも、ブロードバンドは最近になって利用数が急激に高まってきたことをご理解いただけると思います。
 私は教育関係の会社を十三年間経営し、設立の時から「時代が変わる、会社が変わる、学校が変わる」ということをテーマに、カリキュラムの開発、教員研修の企画、教材作成などをやっておりますが、一九九五年五月からインターネットで学校情報を世の中に提供しています。学校の世界でも変わるものと変わらないものがありますが、私の立場は変わるというところにスタンスを置いています。学校も市場の変化や社会環境の変化を受け、教育の基本的な編成方針や教え方などが変わってきています。「インターネットで学校の世界が変わる」を確信しまして、一九九五年に学校情報サイトを立ち上げました。サイト名は「ナレッジステーション」です。昨年一年間のアクセスは約一千万件強。多くの方からご利用いただいていると同時に、ナレッジステーションで学校を探す、出願する人の多さに驚いております。
 たまたま東京のある専門学校のデータを私どもでお預かりして分析の仕事をしています。この学校の昨年一年間のインターネットを通じた資料請求者は千五百人でした。経済効果の面からみると(学生募集の効果分析では)、印刷物媒体を圧倒する高い効果を実現しています。一資料請求を獲得するために要した費用は印刷物媒体の十分の一程度です。きっと皆さまの学校でも同じような指標が出ていると思います。変化する技術を積極的に活用する。そのことによって経費を削減し、同時に生産性を高める。今日の革命的な技術変化は「インターネット」の一文字で表されますが、学校の世界でもインターネットで変わった、変わるという話題が数多くあります。
 ブロードバンド型インターネット接続はCATV、ADSL、FTTH(光ファイバー)が代表例。ブロードバンドになると、常時接続で二十四時間つなぎっ放し、費用も定額制という利用特色があります。また、ブロードバンドは、「広い」という意味があり、「道路」からイメージすると「道幅がとても広い道路。車線はなんと六十〜八十車線もあり、たくさんの荷物を積んだダンプカーがすいすい走っている」ことを想起していただけるとありがたいのです。
 ダンプカーは、「文字」「写真」「図柄」「音声」「動画」情報を満載しています。満載しながらスイスイ走る。ブロードバンド時代で注目されているデータのやりとりが「動画情報」です。
 NHKのニュースはほとんどネットワーク上から音声と動画情報が配信されています。事例としてこれから接続し、けさのニュースをご覧いただきます。今日ただいまの時事問題、社会問題を学校で教える。先生が教材、参考書を示す。この場面を思い浮かべてください。ご覧いただいたニュースは生きた情報として生徒に提示することができます。また、文字の羅列より絵柄、音声など視聴覚に訴えた素材は理解しやすいことも重要ポイントです。生きている教材であると同時に、生徒の理解が深まる教材でもある。ブロードバンド時代の授業や学習方法は変わるということを画面からご理解いただけたのではないでしょうか。

将来は大半の世帯がネットで
授業、連絡、成績管理も変わる

 将来展望は政府戦略によれば、二〇〇五年度末のネットワークの形成については一千万世帯は超高速で、三千万世帯は高速回線で結ぶ。日本の世帯数四千七百万世帯のほとんどを高速インターネット網で結ぶ目標です。皆さまの学校もそうなるのは必然です。中学では技術家庭の中で「情報とコンピュータ」が必修、来年は高校に「情報科」が新設されて必修になる。読み書きそろばんと同じようにパソコンを持つのが当たり前。ハード面では公立小中高校では二〇〇一年度中にすべてインターネットが接続されています。二〇〇四年に公立学校のブロードバンド化が打ち出され、二〇〇五年には環境が整います。
 ブロードバンドで学校が変わる点は、授業構成要素の一つとしてネットワークが当たり前になり、生徒への連絡、成績管理も含めて変わってくることです。
 生徒の住所録とメールアドレスを全部完了したら、一斉に「明日の授業はこうだよ」とか「悩みがあるかい」という連絡も簡単にできる。学校と生徒や家庭のコミュニケーションシステムは確実に変わります。
 動画音声情報を採り入れた実例としては、日立市豊浦小学校はインターネット・テレビ局を持っています。広島大学附属福山中高校は以前から学校紹介ビデオを採り入れています。金沢工業大学は二十四時間オープンキャンパスで「いつでも、どの学科でも見てください」とすべての学科の授業をビデオで流しています。キャンパス放送局はNTT―EIが主催して、ナレッジステーションという学校情報プラス音声動画時代を先取りした形で世の中に提供しています。私もこの運営をお手伝いしています。ここで学校案内ビデオを先ほどの話の二十四時間オープンキャンパスで配信しています。現在、最も多い大学は早稲田大学です。
 「学校校歌のネット配信」というプロジェクトも実施しています。これは東京の立正中学・高校の大江恒雄校長先生と昨年パーティーでご一緒した時「これからの学校は卒業生を大切にしないといけないが、何かアイデアはないか」と言われ「それでは、インターネットから学校校歌を流しましょう」として始まったプロジェクトです。現在、全国百七校がプロジェクトを利用され、卒業生が母校をインターネットで訪ねては、校歌を聴く。青春を思い出されています。
 動画情報を駆使する情報提供と学校ということなら、資格授業やハウツー(実務・実技)提示型の学校にとってブロードバンド時代はいい時代ですね。動画を駆使することで具体的な事柄を示しやすいわけですから。実際に、インターネット上で資格取得のための教育を行い、学生を集め、授業を配信している事例はあります。
 このような動きも、ブロードバンド時代の私学経営を模索した時には考えさせられることが多い。また、たくさんのアイデア獲得につながると思います。


記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞