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記事2002年7月13日 号 (6面) 
携帯電話を活用した講義 佛教大学教授法開発室
講義の活性化や遠隔授業に
建学の精神基に「共生」をキーワードに教育
応用社会学科開設を契機に情報化



情報技術(IT)の飛躍的な発展により教育機関のIT活用が多様な展開を見せているが、仏教系の大学として長い伝統を誇る佛教大学(中井真孝学長、京都府京都市)では今春から携帯電話を大学の授業で活用するプロジェクトを開始した。本紙では、このユニークなプロジェクトを担当している同学の教学部教授法開発室に取り組みの背景と目的についてお話を伺った。

【佛教大学の教育】

 本学は仏教の専門学校として大正二年に開学し、今年度で創立九十周年を迎える伝統ある大学です。  当初は仏教学科だけでしたが、昭和四十年代から国文学科、教育学科、社会学科等を開設し、人文・社会科学系の総合大学として「仏教精神を兼ね備えた人材を養成する」という建学の精神を基に「共生」(ともいき)という言葉をキーワードにした教育を実践しています。  いわゆる仏教系の大学ではありますが、僧籍をもって卒業する学生は全体の五%ほどで、ほとんどがごく一般的な学生です。  また、男子学生と女子学生の構成比率もほぼ一対一となっています。

【情報教育】

 昭和五十二年から、本学通信教育部にオフィスコンピュータを導入し、学籍の一元管理を始めましたが、当時日本の通信制大学では先駆的な試みであったと思います。その後、情報社会を見据えた対応として平成元年に応用社会学科を開設し、これを契機としてマルチメディアや情報に関する専門のゼミも開始されるようになりました。学内LANの整備も八年前に行っています。

全学的な学習活動を支援
情報発信に携帯電話

【大学の改革から教授法の改革へ】

  本学では十年ほど前から教育課程の改定や自己点検・評価の活動、教授会機能の充実などに取り組み、「大学改革」を進めてきました。  携帯電話を活用した授業を推進している「教授法開発室」は、このような大学改革の流れの中から生まれ、三年前に設置されたセクションです。今年の春から教学部直轄の独立部署に位置付けし、通信教育も視野に入れた全学的な学習活動の支援を行っています。  教授法の改革を考える場合、現代の学生の意識や生活をきちんと把握して、現実的で効果の上がる方法を見つけていかねばなりません。  世情一般にも言われることですが、最近の学生は向学心を持っていないわけではないが、「何をどのように学びたいのか、なぜ学びたいのか」というような動機の面が弱いという傾向があります。これを克服するためには「自律的学習支援」として授業の場に教師と学生、学生同士の交流の機会を設けてやる必要があると考えました。  そこで、従来の「黒板とマイク」といった一方通行の授業から、学生自らが意見や情報を発信できる授業に転換するための道具として携帯電話に着目したわけです。

携帯電話を教室で使用
講義の活性化に役立つ

【自律学習支援ツール「Lサポート」】

 システムについては当初、パソコンを使う一般的なEラーニングシステムを検討していましたが、もっと自由度が高い携帯電話を利用できないかと考えていたところ、東京の「ネットマン」という企業で携帯電話を使ったコミュニケーションツールを開発していることを知りました。  そこで早速システムの提案を受け、昨年末から教授法開発室のメンバーによる試行を重ねた結果、実用へのめどが立ち今春から実際に講義で使い始めました。  本学で導入したコミュニケーションツールはネットマン社の「Cラーニング」というシステムを本学向けにカスタマイズしたもので「Lサポー ト」と呼んでいます。「Lサポート」の最大の特徴は、インターネットにアクセスできる端末として優れた機能を持っている「携帯電話」を大学の教室で使用し講義の活性化に役立てている点でしょう。  具体的には、まず教員はパソコンで作成した「小テスト」の問題や授業に関するアンケートなどをホームページ上にあらかじめ掲載しておきます。講義の時間になると、学生は教員の指示に従って教室内に持ち込んだ自分の携帯電話から対象となるホームページにアクセスしてリアルタイムで設問に対する解答やアンケートへの回答を行います。教員はその結果を見ながら講義内容の修正などを行うとともに学生の主体的な授業への参加を促します。このように学習活動をサポートし学生の学業への意欲を引き出すためのツールという意味で「Lサポート」(Learning Support)という名称を用いているわけです。  「Lサポート」はこのような使い方のほかにもリポートの提出やグループ学習、コラボレーション学習にも活用できるので、掲示板機能を使った学生同士が行う論議に教師がコメントを入れるといった形態の授業も試行が始まっています。また、学生各自の学習結果を共有するために、各自が「Lサポート」の掲示板に学習結果の情報を送って蓄積しておく、いわば教材倉庫的な使い方(「Cラーニング」のメニュー名は「教材創庫」)も、「講座を越えた情報の共有」として積極的に使っていきたいと考えています。  要は、携帯電話が現代の学生にとって必需品であるならば、「講義に持ってくるな、と言っても無理な話。積極的に使えるようにしよう」という考え方です。講義での疑問点を「研究室に足を運んでまでは、ちょっと」という学生も、手元で操作すればどこにいても気軽に質問もできる、というように使ってもらえばよいと思っています。

違和感なく一定の評価
利用料金負担や将来像論議

【プロジェクトの評価と今後の課題】

 学生からの評価としては、携帯電話を授業で使うということに違和感はないようで、マイナスの評価は今のところありません。  しかし、一方で携帯電話の使いこなしのレベルに問題のある学生がいることも事実なので、そのあたりに対する対策が必要です。  また、利用料金の負担増や、今後学内に拡大が予定されている無線LANの敷設にも関連して、フリースペースのPC・ノートPC・PDA・携帯電話の利用についての方向性・将来像をしっかり論議する必要があると考えています。  管理の面では、サーバーの管理もシステムを納入した同じソフトメーカー(株式会社ネットマン)がやってくれるので、大変助かっていることと、「Lサポート」ではパスワードの変更や登録が自由に変えられるので学校が関与する必要がない点も非常に便利だと思います。  最後に、通信と通学の境目もだんだん取り払われる可能性がありますから、今後は通信教育部へ応用も視野に入れて、新たな課題も抽出していきたいと思います。

携帯電話でテストなど
多機能型の遠隔学習

【プロジェクトの評価と今後の課題】

 コミュニケーションラーニング ソフトウエア「Cラーニング」(C―Learning)は、学生がパソコンや携帯電話でテストを受けたり、学内掲示板を見たりできる多機能型の遠隔学習ツール。  学校・教員側も試験の問題作成・結果集計や、成績・出欠席などの個別データ管理を二次元的に行える。  システムサーバはウィンドウズNTまたは2000に対応。学生側端末のトップメニューは以下の通り。  1.学習履歴で習熟度を確認できる「演習教室」  2.テキスト添付ファイルによる「教材創庫」  3.総合点や解答スピードでランクがでる「小テスト」  4.個別掲示板機能で休講情報を見たり、他の学生や教員と連絡できる「学科掲示板」  5.学科や教員を選んで直接メールで質問できる「メールde相談室」の五項目。  学生側の携帯電話サイトは「iモード」「ezウェブ」「Jスカイ」のいずれかを利用する。教員側のパソコンでは教授活動としての「演習教室」「教材創庫」「小テスト」のほか、小テストの得点をグラフで表示できる「成績表」、学生へ一斉メールを送れる「掲示板」、件名などキーワードによる検索ができる「相談室」の機能を利用できる。


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◇問い合わせ先=(株)ネットマン(東京都中央区) 







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