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記事2002年6月3日 号 (7面) 
中・高校生に生きた教育を
学校、家庭、地域と連携
経営者・裁判官の出張授業
日本社会を支える人材の育成テーマに
 教育界では現在、さまざまな改革が行われているが、日本社会を支える人材の育成を基本的なテーマに、産業界でも学校と企業との交流を通して活力ある社会を支える人材の育成を目指そうと提言が出されている。学校、家庭、地域の役割と責任を自覚し、連携していこうという試みだ。その具体的な表れが経営者の出張授業だ。また、子どもたちに司法のことを理解してもらおうという面でも裁判官による出張授業が始められている。

【東京地方裁判所】

裁判官が学校にやってくる 裁判や裁判所の仕組みを
講師派遣制度

 「ぼくらの学校に裁判官がやってくる!!」東京地方裁判所(以下、東京地裁という)では民事事件を実際に担当している裁判官が学校で、「裁判および裁判所の仕組み」「裁判官の日常生活」「民事裁判制度」などについて分かりやすく説明を行ったり、質問に答えたりする“講師派遣制度”を設けている。
 この講師派遣制度は「あまり知られていない裁判所や裁判官のことをよく知ってもらいたい。特に二十一世紀の日本を担う中学生、高校生には裁判の仕組み、裁判所や裁判官のありのままの姿を理解してもらうことが必要だ」という考えから始められた。
 東京地裁は現在、児童・生徒・一般向けに「民事裁判説明会」「民事裁判官講師派遣」「民事裁判ガイド・ツアー」「民事裁判ジュニア・ツアー」「刑事裁判傍聴・説明会」「小学生の裁判所見学」を年間行事として実施している。
 このうち、「民事裁判官講師派遣」制度は東京都内の中学校および高校の生徒を対象に、民事部所属の裁判官が無料で出張し講演を行うもの。
 講演テーマは「市民生活と民事裁判」「民事裁判を通して思うこと」「裁判および裁判所の仕組み」「私が裁判官になった理由」をはじめ、各学校が希望するテーマで行われている。
 テーマに関しては、生活指導や非行防止を目的とするものではなく「民事裁判に対する親しみと理解を深めてもらうためにという趣旨」(東京地裁総務課)で選ばれている。
 現在、東京地裁民事部では百五十人の裁判官がボランティア登録をし、派遣依頼に備えている。平成十二年度は三十四人の裁判官を派遣している。
 なお、民事裁判の傍聴を事前に申し込めば、傍聴後、空き法廷で裁判官が説明を行うプランも実施している。
 総合的な学習の時間、社会科の特別授業、進路選択あるいは職業教育の一環としての授業、文化講演会などにも利用されているようだ。
 裁判官の中には「一般の人たちに対してはなかなか話す機会が少ないので、達成感、充実感がある」と言った感想が聴かれるという。
 実際に学校で講演をした小磯武男判事は「生徒が礼状や感想文を送ってきてくれることもあります。講師が丁寧で熱心だという感想も頂いております。裁判官講師派遣制度は中学・高校生に裁判官や裁判について興味や関心を持ってほしいということから始められたものです。基本的なこと、例えば印鑑一つについても重要性を教えていきたい」と意欲的だ。
 申し込み、問い合わせについては、東京地方裁判所総務課渉外係 電話03(3581)5411まで。

【経済同友会】

学校から合校へ新しい学びの場
企業経営者が教育へ参画

 経済同友会(以下、同友会という)は長年にわたって教育をめぐる課題に対する取り組み、提言を行っている。その基本は「学校、家庭、地域社会が各々の役割と責任を自覚し、みんなで知恵と力を出し合って、子供たちの新しい学び育つ場をつくるために、できるところから改革を具体的に進めていく」(「学校から合校(がっこう)へ」平成七年)という考え方だ。
 この方針の下に、同友会が平成十三年四月に発表した提言「学校と企業の一層の相互交流を目指して〜企業経営者による教育現場への積極的な参画〜」では、学校と企業経営者の交流活動を積極的に推進していくことを訴えている。
 同友会には現在、企業の経営者ら千四百人が個人の資格で加入しているが、具体的な交流活動としては、(1)講師として学校の授業に参加(出張授業)(2)教員研修会等の講師として協力(3)教師やPTAとの意見交換会の開催などが考えられている。
 同友会の会員の経営者ら約百人が出張授業に登録しており、出張授業を開始して以来、百件の申し込みがあり、学校関係では延べ二百人の経営者がボランティアで授業を行った。同友会企画調査部・副参事の平野健一郎氏は「今後、学校が地域との連携をどのように取っていくか、私学が地域とどのようにかかわっていくかがキーワードとなる。私立学校の在り方が問われると思う」と学校と地域との連携の重要性を強調する。
 三十―四十五分ほどで行われる出張授業は「子供たちの大切な時間」という認識の下に、「メッセージは一つないし二つにすること、最後にポイントをまとめること」(平野氏)などが、約束事になっている。内容は生き方や進路、国際理解、情報、二十一世紀に求められる人材などに及ぶ。
 出張授業では経営者自身も学校や生徒から新鮮な刺激を受ける機会となっているようだ。生徒にとっては「いろんな人の協力で一つのものができあがっていくのだと気づいた」「悪いときもあきらめずに努力すること」など学ぶことが多い。学校からは「社会の実情を知ることができる」「子供たちが自分の将来に対する希望や目的を持つきっかけになる」などの評価を受けている。
 出張授業に関する問い合わせは、経済同友会事務局「学校と企業経営者の交流活動」担当者まで。
ホームページはhttp://www.doyukai.or.jp

【東京商工会議所】

教育支援ネットワーク
職場見学や就業体験を支援

 東京商工会議所(以下東商という)では、二十一世紀の経済社会を担う子供たちの育成に当たっては、「バランスの取れた人間形成と職業観の醸成が重要で、そのためには親・家族や教育・保育機関と地域社会が新たな協力関係を築き、地域ぐるみで子育てを進める必要がある」との認識の下に、東商では平成十三年九月「教育支援ネット」を開設した。
 この支援の具体的な内容は、次のようなものが挙がっている。
 (1)職場訪問、見学等の受け入れ(2)小・中学生の業務体験受け入れ(3)高校・大学生のインターンシップ受け入れ(4)業務体験以外の体験学習への協力(5)経営者や従業員を社会人講師として派遣(6)教員(保育士を含む)の実務研修受け入れなど十三項目に及んでいる。
 学校との協力関係については「東商では子供たちの健全育成のために各企業ができるところから行動していこう」(小川優・企画調査部副部長)という考えだ。「教育支援ネット」では学校・保育機関等と連携し教育支援活動を行っている。また、今後行う意向がある東商会員企業のリストや従業員が教育・子育てをしやすい職場づくりに取り組んでいる企業の事例が公開されている。
 東商では「学校などが社会体験学習や総合学習を計画するに際し活用してほしい」と呼び掛けている。
 また十二年十月には「次代を担う子どもたちの健やかな成長を支援するための地域企業の協力について〜教育現場の荒廃や多発する少年事件を憂えて〜」と題して、提言を行っている。このうち「地域の子どもたちの育成支援への参画」については、子どもの生き方のアドバイス・職業観の醸成として(1)社会人講師・アドバイザーの派遣(2)職場体験・職場訪問などの受け入れが取り上げられている。
 問い合わせは東商のホームページ
http://www.tokyo-cci.or.jp/kikaku/seisakunavi/kyouiku.html)の「教育支援ネットワーク」から、各企業に直接連絡を取ること。東京商工会議所・企画調査部は電話03(3283)7672
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