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記事2002年6月23日 号 (6面) 
企業トップインタビュー 教育はこれでいいのか
三井物産戦略研究所 所長 寺島 実郎氏
私学は個性、差別化大切
建学の精神をもとに情熱でスタート 社会に関与、公的貢献への参画を


 「だれでも議論に参加しやすいのは教育批判だ」と指摘する寺島実郎氏は、「例えば文部科学省が『学校週五日制』を実施しようとすると土曜日はどうするのか、土曜日は別な指導方針をつくってほしい、学校制度を改めるべきだなど、これらの議論は学校教育や文部科学省に対する過剰な期待といっていい。この裏返しが批判となって起こってくる」と、これはすべて受け身の姿勢であり、依存心の表れと言い切る。
 寺島氏は私学に対してどのような問題意識を持っているか。
 「ほとんどの私学は建学の精神の下に、情熱を持ってスタートしているが、いつのまにか個性、主体性が失われ、大学受験を勝ち抜くための高校や、個性を喪失した大学になってきた。つまり、国家の教育に果たす役割に対して、私学は主体的教育システムとして問題意識を持ち、教育の在り方に挑戦してきたものがなくなってきた」
 私学にかかわる、経営者、教職員、子供を私学に通わせている保護者に対する注文はこの点だ。
 「キラッと光る個性を持っている私学はあるが、個性ということに対して、評価と理解を持って踏み込むべきだ。そうしないと、保護者は子供を私学に行かせる意味がない。私学はたいへんな企画力が必要だ。それは戦略としての差別化だ」
 そこで、私学を支える仕組みについては「地域の産業を含めて、学校が地域社会に関与していくこと」と「ボランティア活動など公的貢献への参画」を提唱する。
 私学の健全な経営に必要な財政的基盤の確立は、地域社会、保護者、卒業生らが一体となって知恵を出し合い、手を替え品を替え挑戦すべきではないか、この問題意識の下に寺島氏は、「地域の文化と経済を背景にした地域の地場産業と、学校がどれだけリンクし、連携できるかを考える必要がある」と訴える。
 学校は施設にしても利用させるという意識ではなく、学校と企業とが一緒になって、知恵と汗を出す中から学校の(生きる)可能性を探ることだ。
 「地域社会の問題を解決するために、学校と企業が一緒に活動するアカデミズムの役割を学校は意識することだ」
 寺島氏は自らの世代である団塊の世代と、それ以後の戦後生まれに共通な傾向として、根深い「私生活主義」と「経済至上主義」とを挙げ、「子供たちに発信できたメッセージは、『他人様の迷惑にならなければ、好きなことをしていればいい』程度のものでしかなかった」と自戒する。
 若者の公共心を高めるプログラムについて、重要なものとして十八歳のボランティア活動への参画を進める。
 「公的課題への取り組みを通じて、人間は社会人である自分を自覚するからだ。戦後日本人は『官』と『民』の間に『公』(パブリック)という概念があることを忘れてきた。『公』をだれが支えているのかを分からせるのが、教育の使命ではないか。私学こそ、このことを大事にすべきだと思う」と強調する。
 「歴史の中での位置付け(歴史軸)と、世界の中での位置付け(空間軸)の中で、自分はどこに立っているかを教えるのが教育の原点ではないか」
 「いま、“脳力”が試されている。これは情報をじっくり体系化し、構想に収斂させていく『考え抜く力』という意味だ。ここから、地域社会や時代や社会への参画・貢献が大切なことが見えてくるはずだ」と、“脳力”の必要性を説く。
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