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記事2002年4月23日 号 (4面) 
多様な要請に応える短期大学の専攻科事例発表
本科との接続教育の充実で新たな展開
日本私立短期大学協会(川並弘昭会長=聖徳大学短期大学部理事長・学長)は昨年、専攻科における「学士の学位」授与要件の一つである「大学における十六単位修得の義務」が撤廃され、その教育条件(本科二年プラス専攻科二年)が大学と同じになったことを受けて、東京・市ヶ谷の私学会館で「短期大学専攻科に関する説明会」を開催した。これからの短期大学の専攻科は本科との接続教育の充実を図ることで、新しい時代の要請に応える多様な教養教育や職業教育の展開が求められるとして、説明会では(1)幼稚園教諭(一種免)と保育士の養成をめぐる諸問題(発表者=民秋言・白梅学園短期大学教授)(2)幼稚園教諭(一種免)と小学校教諭(一種免)の養成をめぐる諸問題(同=野村正則・別府大学短期大学部教授・教務部長)(3)管理栄養士の養成をめぐる諸問題(同=松本昌雄・国際学院埼玉短期大学教授)の三件について事例発表が行われた。ここではその概要を報告する。(編集部)


【幼稚園教諭と小学校教諭養成】

専攻科だけで学位取得
小、幼で教育現場実習
別府大学短期大学部教授・教務部長 野村正則氏

 別府大学短期大学部には、保育士、幼稚園教諭、小学校教諭の三つの養成課程を持った初等教育科があります。
 初等教育科の上に設置された専攻科・初等教育専攻は、平成十年四月から学位授与機構認定専攻科になりましたが、同年六月の免許法の改訂で短大の専攻科でも一種免が取得できるようになりましたので、早速小・幼一種免の課程認定を申請しました。十一年度四月からの一種免課程は短大の専攻科としては最初になると思います。入学者はほとんどが本学の初等教育科からです。
 短大と同じキャンパス内に大学の文学部があり、これまで大学での十六単位は、文学部の一講目の科目を受けられるように時間割を組んで対応していました。十二年度の十七名の修了生は文学部の単位を加えて全員が学位を取得しました。さらに今回、専攻科の科目だけで学位を取得できるようになりましたので、ゆとりのある時間割が組めるようになりました。
 本専攻での特徴のある科目の一つに「教育現場実習」があります。一年後期と二年前期に分かれて出るのですが、毎週火曜日に授業を開講せず、小学校、幼稚園に出かけていくという時間割を組んでいます。専攻科進学希望の学生へのアンケートでは、将来希望する職業は圧倒的に小学校教諭が多く、次いで幼稚園教諭という予測通りの結果となりました。また、本学や短大を選択した理由では、在学期間が短い、四年制大学に入学するには学力不足という順になり、短大に入ってきた学生は、早期就職志向と四大志向の二つの極に分かれていると感じました。専攻科を知った時期は入学以前が四分の三と圧倒的に多く、中でも高校の進路指導で知ったという生徒がたくさん入学してきています。
 専攻科の過去三十五人の修了生の就職状況は小学校教諭(臨時)十一人、幼稚園教諭八人など、短大卒に比べて教職に就く割合が高くなっています。九州では年々、小学校教諭の採用者が減っていましたが、今年になって少し増えました。専攻科の在学生を時間講師として市が雇ったというケースも出てきています。
 給与面について修了生にアンケートを取ってみましたが、残念ながら四大卒と同じ給与は三名だけでした。短大卒と同額だという人、非常勤の講師で時間給なので比較ができないという答えが多かったようです。新しいところでは今年度(十三年度)の大分市の職員採用試験で四大卒の受験資格のところに専攻科の学生が応募しましたら、一次試験に合格したという事例もあり、少し専攻科に対する認知ができてきたのかなとは感じています。
 これからの専攻科を考えるにあたって、本学短大の小・幼コースは五十人の定員に対し、平成九年度入試では百七十四人の志願者がいましたが、今年度の入試では六十九人と半数以下に減っていました。入学者も九年度の六十五人から、今年度は三十八人でした。小学校の先生になるには短大では無理だという考えが世間一般でも高校の進路指導の現場でも、高校生自身にも定着してきた今、専攻科をアピールする以外、短大の小学校教員養成課程に多くの受験生を望んでいくことは非常に難しいと思います。
 そういう状況のなかで地方にある本学のような短大が生き残っていくには、入学してきた学生一人ひとりを大切にし、しっかりとしかってやる。それを徹底的に行っていくと専攻科一年の途中くらいからこちらのほうに飛び込んできてくれます。そういった学生を愛情を持って育てていく姿勢が口コミで高校現場に伝わっていくという方向でいくしかないのではないかと思います。実際に受験生が「○○という先輩に聞いたのでこの学校にきました」とか、在学生から「弟が受験するからよろしく」というような声が増えてきました。
 在学生一人ひとりを大切に育てる姿勢があれば、これからも専攻科は維持できると思っています。


【管理栄養士の養成】

健康づくりの栄養指導
医療・保健の分野で期待
国際学院埼玉短期大学教授 松本昌雄氏

 いま栄養士を取り囲む社会的環境は大きく変化してきています。そういうニーズに応えられる栄養士をどう養成しようかと全国の栄養士養成施設がカリキュラムの見直しに取り組んでいます。厚生労働省では栄養士のレベルアップを図ろうと、栄養士法を改正して制度の見直しを行い、管理栄養士の業務内容を明確にしました。業務内容の柱の一つは、個別に医学的観点から栄養指導ができるようにする、二つ目は生活習慣病にかかる前の健康づくりが大事だということで、健康保持増進のための栄養指導をする。三つ目は集団給食を担当している人たちの知識向上について援助指導する。このような業務を栄養士の仕事として位置付けています。今後、医療や保健の分野における栄養士への期待がますます高まっていくだろうと考えられるので、私どもはその役割に十分応えられるような栄養士を養成していかないといけません。医療の現場で活躍するとなると、医師や看護師、薬剤師というような人たちとチームをつくって対応していかなければならないということになります。患者に対するケアを栄養学的な面から行っていくとするならば、それに関連する科目の充実強化が必要となってきます。個別指導ということになると、栄養指導に対する科目としてインターンシップ、カウンセリング演習、栄養情報処理演習といった科目を充実させるという基本方針を立て、専門科目と専門関連科目の見直しを行って来年度のカリキュラムにつなげていこうというふうに考え、カリキュラム検討委員会をつくり、検討に入っています。なお、前年度の食物栄養専攻のカリキュラム編成の際にも臨床栄養学を中心とした基礎専門分野の内容を充実させる傍ら、遺伝子栄養学、栄養免疫学、栄養病理学、栄養カウンセリングといった新しい分野の科目を採り入れて編成しました。校外実習はインターンシップという名称にして、単位数を増やして、インターン先を病院に限らず、福祉施設や健康増進施設で実務体験実習を行い、実践力を身につけてもらおうということで詳細について検討しています。このようにカリキュラムを充実させ、学生のレベルアップを図っているのですが、さらに充実した教育を行っていくためには、教員の資質と能力の向上が欠かせないわけです。私どもは毎年、ファカルティ・ディベロップメント(FD)の研修会を開き、実務担当の専門家を講師に呼び、ワークショップを行い、その成果をフィードバックして、教育の改善につなげています。
 今年度から学士の学位取得要件である大学における十六単位修得要件が廃止されることになりました。それによって学生の身体的・精神的・経済的負担が軽くなり、しかも時間的に余裕ができるようになりました。その時間を学位授与機構に提出するレポートに関する研究に、あるいは管理栄養士国家試験の準備のための学習に充てることができたということでたいへん助かったわけです。これに対して四年制大学の場合は卒業論文は大学独自で審査するということになります。私どもでは「特別研究」を必修にしています。中には学位授与機構に学位を申請しないという学生もたまには出てきますが、特別研究は学外の会場で教育機関や企業の関係者、マスコミなどの参加のもとで公開発表を行っています。中には学会の学術講演会に参加して特別研究を発表する学生もいます。このように専攻科の学生は四年制大学の学生と同じように研究も学習も一生懸命やっていますので、現行の専攻科生の学位審査制度を見直していただきたいと思います。さらに見直していただきたいのは、管理栄養士の国家試験は例年、五月に実施されますが、これでは卒業してから試験を受けなければならないということになってしまいます。従って、できれば彼らが資格を取って卒業していけるように、実施時期を前倒ししていただきたい。
 今後も専攻科は時代のニーズに合った栄養士を養成していくように努めていかなければならないのではないでしょうか。


【幼稚園教諭と保育士の養成】

子どもの育ちと子育て支援
質の高い保育者養成
白梅学園短期大学教授 民秋 言氏

 保育科はすぐれて目的養成であり、他の学科に比べるとはるかに四年制大学への編入が少ない二年間の完成教育です。そこにさらに十六単位を加え、専攻科の二年課程を加え、四年課程のもう一つの完成教育を図ろうというのが今回の狙いです。いま保育者養成が置かれている状況はどういうものか。保育者に求められている社会的ニーズは質の高い保育者ということです。平成十年に幼稚園教育要領の改訂、十一年に保育所保育指針の改訂が行われましたが、いずれもここで大きく変わったのは、幼稚園や保育所、保育者の役割です。従来は幼稚園・保育所の利用者が子どもだけであった、つまり子どもの健やかな育ちを図ることが幼稚園・保育所の役割でした。ところがいまはそれと子育て支援という役割を対等に並べて位置付けないといけない。それに堪えられるような保育者をどう養成するかということがわれわれの課題です。カリキュラムもそういう視野に立って組み立てないといけない。
 私どものカリキュラムの二つの特徴を申し述べます。一つはいわゆる保育ニーズの多様化に対応するということ。子育て支援に応えられるような保育者を養成する。保護者の相談に応じ、助言する役割に対応できるものを「保育問題研究」に特化させましたし、「生活保育論」「保育実践研究」にも重点を置きました。少人数制の授業と実習、演習を重視しようと考えました。「専攻科実習特演I・II」「専攻科実習I・II」という科目があります。一年生は火曜日と木曜日、十月から十二月の三カ月間、二年生は、十一月に三週間、集中して実習に出します。その実習指導を「専攻科実習特演I・II」で担っています。Iはオリエンテーションを含めて、本科からの積み重ねで実習ノートから何を読み取ることができるのかといった教育を行いますし、IIは実習でビデオを撮り、それをもう一度再現して、保育実践の子どもの動きを教師と一緒に見直してみるというものです。「修了研究演習」は修了レポートの作成を学生三―四人に教師一人がついて行います。
 「総合演習研究I」では、徹底的に研究方法を学びます。統計的手法を現場の数字を基にして身につけさせるほか、論文の読み方を一年前期で学ばせます。例えば今年(平成十三年)は十七人の学生がいますので、一人に一本の論文を割り当てると、学生全員が都合、半年に十七本、論文の読み方と同時に書き方を学ぶことができます。「修了研究演習」では五十―百枚の論文を書かせ、それは単位認定の対象となります。それをさらに発展させた形で学位授与機構に求められるレポートに仕上げます。二年の後期は学位授与機構に提出したものを基に、もう一度内容をそれぞれが発表してコメントをつけます。コピーを取って全員に配り、質問を事前に用意させて、それに答えて、ディスカッションするという方法を取っています。学位授与機構の認定を受けていますので、短大といえども準学士にとどまらず、学士号を学生に取らせてそれなりのプレステージを持たせてやることも重要です。それだけにとどまらず、より資質の高い保育者養成をねらいにしています。いま保育現場から何を求められているかを考えた時に、それは相談業務で相談してくる人たちが悩んでいる内容をどう受け止め、論理的に整理するかという能力だろうと考えます。
 これからの質の高い保育士養成ということを考え、なおかつこの二年間をフル活用し、完成教育とするとした時に、少人数の演習形式で、自分で考え、自分でまとめる力が求められます。いままで保育士はゼネラリストだったと思います。領域でいえば五領域全部に通じている保育者養成です。けれども保育はすぐれてチームプレーであり、ある特定の領域に強いスペシャリストも求められてくるのではないでしょうか。そこで「保育内容研究I・II・III・IV」という領域別のカリキュラムを設け、選択必修としました。
 保育現場でこれだけの価値観、保育ニーズの多様化が進んできますと、また、利用者による選択が進んできますと、採用側からもある領域に強い保育者養成も求められてくるのではないでしょうか。

野村正則氏


松本昌雄氏


民秋 言氏

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