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記事2002年4月23日 号 (6面) 
柳川高等学校の教育とMS AATP
魅力ある教育づくりにITを活用
未来型教育研究開発指定校に
教師の体制づくりITプロフェクトチーム

古賀賢理事長

少子化の流れと社会構造の急激な変化の時代を迎えて、公私立を問わず「特色ある教育」「魅力ある教育」をどのように具体的な形として児童・生徒・学生、保護者に対して打ち出せるかに学校の生き残りがかかる時代となってきた。このような状況のなか、学校法人柳商学園・柳川高等学校(古賀賢理事長、福岡県柳川市)では、マイクロソフト社が認定するエンジニア向け最上級資格であるMCP(マイクロソフト認定技術者)を育成する教育機関MSAATP(MicrosoftAuthorizedAcademicTrainingProvider)の認定申請を行い、昨年十一月の認定(高等学校としては日本初)を経て、今年四月から教育活動をスタートした。同校では今後高校生のMCP資格取得を目指してトレーニングを行うが、同校の古賀理事長に同校の教育とMSAATP導入の経緯についてお話をうかがった。

【柳川高校の教育】

高校で初のMS AATP
生徒の潜在能力引き出す

 本校はもともと商業科からスタートした学校ですが、現在では、商業科、普通科、特進科、国際科の四科を擁する全日制の共学高等学校です。
 特色として、資格取得に力を入れている商業科、自分の進路を考えながら学ぶ普通科、国立大学や有名私大への進学を目指す特進科、二十一カ国五十三校と提携し、海外留学を奨励する国際科と、子どもたちの幅広いニーズに対応した体制が挙げられます。
 また、野球やテニスをはじめとするクラブ活動にも力を入れ「知・徳・体」を備えながら現実の社会の要請に応え得る人材の育成を目標としています。
 柳川高校の生徒は入学時の学力でいえばそれほど高いレベルにある生徒ではありません。このような生徒に対して本校では教育方針の一つとして掲げる「未来創造力の育成」という方針に従って、生徒の夢や抱負をどのようにしたら実現できるのかを教師が一緒に考える活動=PI(Personal Identity)講座に取り組み、進学面、就職面での成果に結びつけてきました。
 今回、世界的企業であるマイクロソフト社の厳しい条件をクリアして高等学校として初のMSAATPとなったのも「知・徳・体」の伝統を現代に生かし、生徒の潜在能力を引き出して自らの夢の実現に結びつける教育の一環であると考えています。

【IT教育への取り組み】

 本校では商業科がメーンであったこともあって、早い時期からコンピュータ教育を実践してきました。しかしながら、機器やソフトウエアなどの劇的な変化に対する対応が遅れ、かなりの期間手探りの状態が続いていました。
 ところで、近年の情報化社会の急速な進展は、教師であれ、生徒であれ、二十一世紀を生きていくのに必要な新しい技術とマインドを身につける必要性と、これからの社会はIT(情報技術)を避けては通れないということを考えざるを得ない状況に置くようになりました。そこで、本校では新しい時代の魅力ある教育にITを活用することを打ち出し、ITへの取り組みの体制を格段に強化する決定を行いました。このような流れのなかで、昨年は文部科学省の次世代ITを活用した未来型教育研究開発事業指定校になり光ファイバーを使った教育の実践に取り組んでいます。
 また、教師の側の体制づくりとして「ITプロジェクトチーム」を立ち上げました。このプロジェクトチームのメンバー選定には教科の壁を取り払い、教師のなかでもパソコン自体が好きでITを活用した教育の実践に強い意欲を持った教師四人にお願いすることにしました。
 「ITプロジェクトチーム」は平成十三年度に発足しましたが、これまでにシステムの構築と、ITを学習面でどう活用するのかを研究し、現在のMSAATP認定やIT教育のカリキュラム作成と実施に結実しています。
 インフラの面では、現在、学習用二百台と教職員全員のパソコンを校内LANでつなぎ、1・5MbpsのCATV回線を利用してインターネットに接続しています。

【MS AATP導入の背景】

MCP取得者を育成
世界に通じるワールドワイドな資格

 激しく変化しつつある社会のなかで、教育に対するニーズも当然のように変化してきています。本校でも従来と変わらない教育活動に行き詰まりを感じ、新しい教育の方向性を模索してきました。
 教育界ではよく言われることですが、学校にとって厳しい時代がやってきています。本校のような私立高等学校だけでなく、公立も含めて小学校や中学校でも同じ困難が予想されます。
 このような時代には私学本来の特色や本当に魅力のある教育をよほどきちんと実施していく力を持っていないと、生き残っていくのは難しい状況です。
 前述したように、本校では魅力ある教育づくりにITを活用するという基本姿勢を決定しましたが、具体的な方法論に入った時に考えついたのがマイクロソフト社との提携です。
 同社との提携は、他の学校にはないIT教育を行いたかったからで、私自身が直接マイクロソフト社と連絡を取りました。
 具体的には、MOUS(MicrosoftOfficeUserSpecialist)をはじめ、世界的に評価の確立した資格であるマイクロソフト認定資格を取得することです。中でも最上級資格であるMCPを育成する教育機関であるMSAATPとなってマイクロソフト認定資格を柳川高校の生徒に取得させ、日本の高等学校として名誉ある位置を占めることです。
 MCP取得者はマイクロソフト社の各サーバー製品の運用・管理・開発の技能を持つプロフェッショナルとして高い評価が与えられ、世界に通じるワールドワイドな資格です。
 その資格取得者を養成する教育機関は、当然のことながら高度なトレーニング内容を維持することが義務づけられているわけですから、当該教育機関の評価そのものが高く位置付けられることはいうまでもありません。
 MS AATPはこれまで日本では専門学校だけに認められていましたので、高等学校としては本校が申請から認定までまったく初めてのケースでした。

プロフェッショナル資格取得には
教師が積極的に学ぶ

 マイクロソフト社でも当初は、高等学校からこのように早く申請があるとは、そして本校のような提案が来るとは思っていなかったようです。
 現在、大学生の間でダブルスクーリングが一般化していますが、これは社会のニーズや学生のニーズに学校教育が応えきれていない証拠でないかと思います。そのようなことからもマイクロソフト社のプロフェッショナル資格を取るという大きな目標を本校の生徒に持ってもらいたいとの考えも背景にありました。
 また、これは非常に重要なことですが、日々トレーニングを実施していくのは実は教師ですから、まず教師が積極的に学んでいかなければなりません。その教師一人ひとりの力もまた、本校の魅力となっていくのではないかと考えています。

【実施体制】

全員がMOUSの資格取得
“第二のビルゲイツを”が夢
 MS AATPの認定にあたってはマイクロソフト社が求める基準に合った講師(MCP取得者)、設備、カリキュラムを用意する必要があり、高等学校では難しい面もありましたが「ITプロジェクトチーム」の教師に猛勉強してもらい、現在、MCP取得者一人、MOUS取得者二人を確保しています。
 本校の学習環境として、新入生のITスキルは二極化していて、家庭にコンピュータがあり、自由に操れる生徒もいれば、まったくコンピュータをさわったことがない生徒もいます。本校としてはまず、全員がMOUSの資格を取り、その基礎をしっかりつくったうえで、さらに上級の資格を目指してもらいたいと考えています。また、授業だけでなくクラブ活動でも学べる態勢をつくりたいと考えています。特に最上級資格であるMCPは当初、興味もあり、能力もありそうな生徒をクラブ活動のなかで育て、資格取得を目指すことにしています。
 対象者を募る方法としては、入学前の説明会でITクラブメンバー募集のパンフを入学予定者全員に配布して入学後に回収し、希望を調査するようにしています。
 正課としては本年度の商業科新一年生からMOUS取得のための指導を始める予定です。商業科のなかにはコンピュータコースがありますが、このコースはコンピュータ関連の単位も多いので、上位のMOUS資格取得を目指します。
 本年度は商業科だけですが、十五年度からは全体に広げる予定で、将来的にMOUSの資格は生徒全員が取得することを目標にしています。
 日本におけるIT技術者の人材不足が叫ばれていますが、今、日本の高校生からIT技術の底上げをしないといけない。このままでは日本は世界に取り残されてしまうのではないかと危惧しています。
 教師もどんどん資格を取って、生徒に負けないようにしなければいけません。ただ、教師もかなり苦戦しているのが現状です。しかし、休みなどを利用して、必死に勉強して、資格に挑戦していますので本年度中にMCA(MicrosoftCertifiedAssociate)またはMCP一人、MOT(MicrosoftOfficialTrainer)二人、MOUS五人程度の資格取得を目指していますが、このような取り組みのなかで生徒の中に素晴らしい能力の子がいたら、むしろ生徒に教わりながら勉強するのもいいかなとも考えています。

【IT教育で目指すもの】

 大きな夢を持つことが大切だと考えています。本校から第二のビルゲイツをつくりたい、というのが夢です。価値ある資格をとって高卒でマイクロソフト社に入社させたい。また、企業側からも期待される即戦力の人材を育てていきたいと考えています。これまで、柳川高校といえば野球やテニスが日本一になって、知徳体育を重んじる校風は全国に知られていますが、ITの部門でも日本一になりたいと考えています。そのためには日本一の努力をしたいと考えています。

マイクロソフト社の認定資格には同社が供給する各種ソフトウエアとユーザーのスキルに対応して5つのカテゴリーがある。

▽MOUS(Microsoft Office User Specialist)
  Microsoft Office製品を使用するスキルレベルを証明するユーザー向け資格。

▽MOT(Microsoft Official Trainer)
  Microsoft Office製品に関して正しい知識をもってインストラクションできるインストラクター向け資格。

▽MSS(Microsoft Sales Specialist)
  マイクロソフト社が提供する情報産業分野で活躍する営業スタッフ向け資格。

▽MCA(Microsoft Certified Associate)
  IT理論と製品知識(現場)に対するスキルを持ち合わせた、ITに関係する多くのプロフェッショナル向け新資格。

▽MCP(Microsoft Certified Professional)
  システムエンジニア、システムインテグレータなど、コンピュータや情報システム関連の技術者を対象とした資格。






学校でMCPが取れる MS AATP

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