こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2002年2月3日号二ュース >> VIEW

記事2002年2月3日 号 (4面) 
学校裁量時間の新設
世界の教育改革―諸外国の総合学習(2) 韓国
創意的裁量活動が大学入試で増加
教科裁量活動で基本的教科を
 韓国政府が日本の学習指導要領に当たる「教育課程」を文教部告示という形で示して初等・中等学校の教育内容を規定するようになったのは、一九五四年を皮切りに七次にわたる。このうち九五年施行の第六次教育課程では、初等・中等学校の教育内容に関して市・道の教育庁や各学校に教育課程編成の裁量権を付与した。各学校は児童・生徒の実態や父母の要求、地域社会の実情などを考慮して具体的な「学校教育課程」を編成することになった。この改定の最大の特色は初等学校における「学校裁量時間」の新設である。日本の「総合的な学習の時間」に当たり、年間三十四時間が確保された。その後、学校裁量時間は二〇〇〇年施行の第七次教育課程で「裁量活動」と改称され、学校と児童・生徒の自立性と選択権が一層拡大された。
 第六次改定時の学校裁量時間は子供の要求に応じた創意的な教育活動を目指したものだったが、初等学校に英語が導入されてからはほとんどの学校で英語の時間として利用され、本来の役割を十分には果たせなかった。このため第七次改定で衣替えされた「裁量活動」では「教科裁量活動」と「創意的裁量活動」とに分け、前者は国民共通基本教科の深化・補充や選択教科の学習に充当し、後者は子供の要求などに応じた「汎教科学習」と「自己主導的学習」に充てることとし、初等学校から高校一年までに導入した。
 裁量活動の中でも創意的裁量活動が日本の総合的な学習に最も近い感じであるが、韓国教育部の方針では二〇〇二年度の大学入試からは、今までの筆記試験重視の選抜に替えて、生徒記録簿に基づいた創意性、特別活動、社会活動や品性重視への選抜へと転換すると公表された。要するに「創意的裁量活動」が大学入試で占める役割が大幅に増加するわけである。子供が点数を稼ぐための裁量活動になる恐れを懸念する声もあるが、裁量活動本来のねらいを達成される契機になることを期待する声もある。
 裁量活動の具体的な方法と内容を第七次改定では次のように定めている。
 (1)初等学校では「教科裁量活動」より「創意的裁量活動」に重点を置き、テーマ探求、小グループによる共同研究、学習方法の学習、統合的な汎教科学習など、多様なプログラムを、教師や子供の要求と必要に応じて編成し運営しなければならない。その効率的な運営のために地域社会の人的、物的資源を計画的に活用する。民主的市民教育、仁性教育、環境教育、経済教育、エネルギー教育、勤労精神涵養教育、保健教育、安全教育、性教育、消費者教育、進路教育、統一教育、韓国文化アイデンティティー教育、国際理解教育、海洋教育、情報化および情報倫理教育などに関する学習は裁量教育を通して重点的に指導するが、関連する教科や特別活動など、学校教育活動全般にわたって統合的に実施し、地域社会や家庭との連携を通してその指導に尽くす。
 (2)中学校では「裁量活動」に年間百三十六時間が新設された。そのうち百二時間を「教科裁量活動」として漢文、コンピュータ、環境、生活外国語(英語以外の第二外国語:日中独仏、スペイン、ロシア、アラビア語)などの選択教科の学習や国民共通基本教科の深化・補充学習時間として活用、三十四時間は「創意的裁量活動」に充てなければならない。創意的裁量活動のテーマは初等学校のテーマと共通している。
 (3)高校では一年生に限り「裁量活動」を運営することにし、履修単位数は年間十二単位(二百四時間)を配当した。そのうちの十単位は「教科裁量活動」に充て、二単位は「創意的裁量活動」に充てなければならない。

3、4年でテーマ研究、5、6年で自由研究
全学年通し体験学習

 こうした指針に従って現場でどのような学習展開がなされているかを、大田市A初等学校で見たところ、「汎教科学習」の内容は一〜二年生で「学習法の学習」、三〜四年生「テーマ研究」、五〜六年生「自由研究」のほか、全学年通して体験学習、野花学習をテーマにしていた。学習方法は討議、実験、実習、労作など体験学習を中心に運営し、結果よりは過程を重視し、自己主導的学習能力や創意性をはぐくむことに重点を置いていた。
 配当時間は一日一時間、週当たり二時間を原則とする。学習集団は学年単位、学級単位、学級群単位、小グループ、個人など多様に編成、学習場所も校内、校外など活動の内容に応じて多様に定める。使用教材は「韓国教育課程評価院」の裁量活動運営資料集、「大田教育科学研究院」の教材、先行実験校の教材等を参照し、自ら再構成するほか、多様な資料を開発して活用する。指導教師は担任、領域別担当教師、ボランティアなど。
 A初等学校の自己主導的学習で三年生が中心になって行った「テーマ研究」のテーマには次のようなものがある。
 大豆もやしはどんな環境で最もよく育つか▽金魚も人間のように色分けできるのか▽種はどんな条件で芽を出すのか▽食品にカビが生えるとどんな変化が起こるのか▽水温、水質と金魚の生態との関係は▽お米にはどんな環境で虫がつくのか▽夜明けに咲く朝顔の秘密▽水を与える時間帯と植物の成長との関係▽何が水を緑色に変えるのか▽蜘蛛の習性と蜘蛛の巣▽花瓶の花を長持ちさせるためには▽タバコの煙が動植物の成長に与える影響……など。
 創意的裁量活動に対する評価について、教育部訓令は「活動名、年間履修時間と評価結果による特集事項を文章で入力する」と言っている。
 こうした評価指針に基づいて、A初等学校で行った評価の方針は(1)活動結果より活動過程に重点を置いて評価する(2)チェックリスト、ポートフォリオ、自己評価、相互評価、観察、質問紙など多様な道具と方法で到達度を評価する(3)自己評価とは、学習活動を終えた児童が教師の評価した内容を検討し、学業の到達度を自ら評価してみる。学業に対する態度や結果などを自ら評価してみることを通して反省の機会を持つようにする(4)相互評価とは、学習が終了すると、テーマごとに教師が提示した評価項目に基づき、児童同士が学習内容を互いに確認する方法で評価する。友人に自分の意見を文章で伝えるか、上中下などの評価欄に〇などで表記する(5)観察によって、児童の学習準備や学習態度、活動過程、結果、進歩の程度などを評価する(6)質問はすでに学習した内容等について行い、評価するこうして各学習内容に対して領域別に上中下に判定し、各教科全体では五段階評価するというものである。

 〈国立教育政策研究所「諸外国の総合的学習に関する研究」「裁量活動の導入と展開」(金泰勲)から抜粋・要約〉
記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞