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記事2002年2月23日 号 (3面) 
2002年中学入試
親の期待にこたえる私学の努力
平成十四年私立中学入試は終わった。首都圏では小学校卒業者の受験率が一三・九%と過去最高を記録し、また、西日本地区では私立の中高一貫教育への期待とともに、私学志向の高まりが見られた。本号では首都圏と西日本地区の私立中学入学試験の動向を、日能研中学入試センターの井上修副所長と、日能研関西本部の小島一彦氏に分析してもらった。

〔首都圏の私立中学〕 私立中学に熱い視線集中

受験率は最高記録更新
教育理念、教員の熱意、人格形成親の信頼

 首都圏の平成十四年私立中学入試は文部科学省の新学習指導要領実施を控えて、不安を抱く父母らの熱い視線が集中、小学校卒業生の受験率は一三・九%と史上最高を記録した。
 今春の首都圏内小学校卒業生数は二十九万五百六十人、私立中学受験者は四万五百人(二月六日現在、日能研推定)。ここ数年の動きをみると、少子化傾向が続いて久しい中で私立中学受験生の数も平成三年の五万一千人をピークとして下降に転じたが、平成十一年の三万九千六百人で底入れした。小学校卒業生は最近、毎年三千〜四千人減るのに少子化の波に逆らって平成十二年には四万人台を回復、平成十三年には四万千八百人と増えていった。平成十四年の今春入試は小学校卒業生が前年比で一万五千人も減ったため、さすがに私立中学受験者数も減りはしたものの、受験率は過去最高だった前年の一三・七%を〇・二ポイント上回って二年連続で最高記録更新となった。
 私立中学への熱い期待は新学習指導要領への不安感によっていっそう高まった面はある。文部科学省は最近になって「新学習指導要領は最低基準を定めたものである。それ以上いくら教えてもいい」という言い方に変わってきたが、フラフラする方針で親の不安を払拭することはできなかった。その点、私学はそれぞれ独自の理念をもって、より高い学力だけでなく人格形成をも目指す教育方針・内容を貫いてきた。その長年の積み重ねが親の信頼を獲得してきたものである。
 父母の学校選びは学校説明会でじっくり話を聞くが、必ずしもブランドに縛られない。「この子のためになりそう」という自分の感じを大切にし、偏差値を飛び越えて学校選びをする傾向が強まった。応募の増えたところは説明会で評判のいい学校、教師の熱意が感じられる学校だった。例えば東京では京華。二百四十人の募集定員に対して前年を大きく上回り、三倍の応募があった。同校では高校からの大学進学実績が上昇したうえに「子供が塾へ行かなくても大丈夫。大学へ進学させます」と約束する面倒見のよさ。
 神奈川の男子校、藤嶺学園藤沢は新設で中高一貫生の実績はないが、大学入学後まで視野に入れて物を考える力、コミュニケーション力をつけさせたり、ゆったり学べる学びの空間を提供し、国際化時代に自分の国のことも学ばせるために茶道科目を授業に取り入れたりする教育方針が親の心をつかんだといえる。

新設校や午後入試で
受験チャンスが拡大

 今春の私立中学入試での特徴を挙げてみると。
 (1)午後入試が増えた。これまでは神奈川の一部で実施されていたのが、今年は東京にも広がった。開智、湘南学園、藤嶺学園藤沢、青稜、関東学院六浦、多摩大学附属聖ヶ丘、淑徳、自修館中等教育学校、実践学園、工学院大学附属、共栄学園、日本学園、横須賀学院、横浜隼人、アレセイア湘南など。午後入試の集合時刻は午後二時〜三時に設定するため、受験生は忙しいけれど、午前中の入試を受けた後にまた一校と、一日に二校受験が可能となった。また学校以外の場所でも受験できる。例えば湘南学園A入試後期は横浜駅前のホテルリッチで、開智は東京・日暮里のホテルでというように、ホテル入試も広がった。
 (2)新設校入試で今年最大の目玉は早稲田大学系属早稲田実業学校だった。高田馬場から国分寺への中高のキャンパス移転(平成十三年)や男女共学実施に伴う中学新設で、受験生のエリアは東京西部地域にまで幅を広げた。早実に人気が出たため、中央線沿線同士となる女子ご三家の女子学院の応募者数がダウンするという影響も現れた(早稲田系ではこのほか早稲田中学が二月三日の二次試験を新設、他大学へも早稲田へも進学できる教育内容で人気が出た)。中堅校の動向としては、埼玉で城北埼玉、千葉では麗澤がいずれも高校はあったところへ中学を新設、両県の私立中学進学熱をいっそう高めた。埼玉ではここ数年、毎年一校以上新設されてきており、来年も新設校が登場しそう。千葉では総武線だけでなく、常磐線沿線にいくつもの学校ができて私立中学受験熱があおられている。
 新設校や午後入試で受験チャンスは拡大された。従来、私立中学入試は一月から茨城、千葉、埼玉で開始、二月一日から東京、神奈川が開始して三日間で勝負、どこにも決まらず四日以後の入試に臨む受験生は暗い気持ちだったが、受験チャンスの拡大を上手に利用して、二月三日までに合格を確保したうえで行きたい学校へ挑戦するという戦術が浸透してきた。二月に入ってからの私立中学入試は、二月一日〜三日を前期、二月四日以後を後期とするような、いわゆるブロック化が進行し、本命と押さえでメリハリ受験という大学入試に近い形となった。
 試験科目数は難関校が四科目、中堅校は二〜四科目、それ以外は二科目というパターンで定着してきた。
 私立と並んで人気の高かった国立大学付属中学は、今年人気がなく軒並み応募を減らした。国立の学校としてはやはり準拠せざるを得ないだろうとみられる新学習指導要領への不信感はぬぐいがたい。首都圏の国立大学付属校は自校の情報を出したが、その結果、秘密のベールに包まれていた姿が現れることになった。
 大学入学後に伸びる力をつける点では、国立大付属中学は私立中学と共通しているけれども、大学に入学できる即戦力、例えば単語を覚えさせるとか、文法を攻略するといった指導を国立ではあまりやらない。そういう点の練習は国公立とも塾任せだが、私学は塾に頼らなくても自分の校内で合わせて実行しているから大丈夫と約束する。このため国立は学校説明会を開いてもアピールする力が弱かった。親は学校説明会や将来ビジョンに力点を置いて将来を予測しようとするが、こうして比べた結果、国立は私学に負けたわけである。一方、公立中学はまだら模様。できるところもあるが、全くできないところもある。地域行政を担う自治体によって意識や教育予算の高さが違い、全般的には私学の競争相手にはなりえない。
 「国公立に対する私立中学の優位性はますますはっきりしてきましたね」と日能研中学入試センターの井上修副所長は言っている。



〔西日本の私立中学〕 中央一貫に私学は本腰

統一入試日程復活で併願減少
新要領への不安が私学志向掘り起こし

 西日本の平成十四年私立中学入試は少子化による受験生の減少、長引く不況による教育費の家計圧迫というマイナス要因の影響が大きくなりつつある環境の中で、一方では新学習指導要領などの教育政策による学力低下への不安が私学志向を新たに掘り起こす状況が生まれつつあるように見える。
 今春の最大の特徴は京阪神が五年ぶりに統一入試日程を組む方式を復活したため、併願校数は減少せざるを得ず、昨年より受験者数を減らした学校もいくつか見られた。しかし、「これを機会に充実した中高一貫教育体制を築こう」と本腰を入れる私立中学校の動きも広がり、昨年秋の私立中学校の説明会でその方針を父母に説明する光景がよく見られた。また学習塾に子供を通わせる父母の間では、新指導要領に対して「これでいいのだろうか」という疑問とそれを導入せざるを得ない公立学校への不安感が強まっていた。いま進んでいる移行措置では、旧来の教科書の中から新指導要領では履修しないことになっている領域を除外して教えるため、教育内容の削減が目に見える形で父母に感じられる結果となった。それに応じて私立中学の中高一貫教育への期待は高まった。「学校説明会へ集まる人数が増えたという私立中学校の話や塾での親の反応からも、私学志向の高まりが感じとられます」と日能研関西本部の小島一彦氏は言っている。
 関西地区私立中学入試の最近の方式変遷の跡をたどると、七年前までは京阪神が三月一日入試で統一。それに対して奈良、和歌山、岡山など周辺県では京阪神への流出をくい止め、早目に生徒を確保するためにそれより早い時期に入試を実施していたが、生徒確保競争の結果、周辺部の実施時期が次第に早まると、大阪南部や神戸も影響を受け、それにつられて京都も少しずつ遅れながらついてくる形で、五年前からは京阪神の統一入試期日も崩れて、入試期日の前倒しが進んでいった。これに対して各方面から「早すぎる私立入試の是正」を求める声が出たため、昨年は一月十四日開始という日程で京阪神入試がまとまったが、実際には京都の主要校が一月十九日に入試を行い、ヤマが二つある入試日程となった。今年はその京阪神が一月二十九日に統一されたのが最大の特徴である。
 関西地区中学入試はまず周辺地区から始まる。日能研関西本部の今春入試の総括によれば、和歌山県では一月十八日に和歌山信愛女子短期大学附属と開智、十九日と二十日に近畿大学附属和歌山、二十一日に智辯学園和歌山、二十六日に初芝橋本の入試が行われた。開智、近大和歌山、智辯和歌山が志願者を増やし、特に智辯和歌山は近畿各地からの上位生の試し受験に最適な日程となったため、昨年の五百三十三人から六百九十五人へと大幅に増え、難化した。

兵庫で公立が弱体化
大阪でも落ち込み目立つ

 岡山県では二十日に実施の岡山白陵は最近難化の反動からか若干敬遠気味となり前年比百六十人減だが、今年も引き続き女子の難化が目立った。岡山中学は約六十人増。今年新設の岡山理科大学附属は一月十四日に入試を行い、初年度一期生の生徒数は確保された模様である。
 奈良県では二月二十四日に東大寺学園、帝塚山(英数)、奈良学園、育英西、翌二十五日に西大和学園、帝塚山(総合)、二十六日には智辯学園、奈良育英の入試が行われ、難関の東大寺学園、西大和学園、奈良学園はいずれも志願者数を増やしてさらに難化した。帝塚山も英数コースが減ったものの、トータルでは増加した。
 滋賀県では京都に近い比叡山中学に京都からの受験者が増えて倍増した。
 大阪、兵庫と京都の主要校は昨年は日程がずれていたため、併願可能だったが、今年は統一日程となり、一月二十九日入試校の志願者は分散し倍率が全体に低下傾向となった。神戸女学院の定員増や四天王寺の初日参入もあり、二十九日の難度は平均して二〜三ポイントとかなり下がったと見られる。
 兵庫県では昨年多くの難関上位校が後期入試を導入して前期の定員を絞り、難度を上げることに成功したが、今年は全体の倍率低下で再び難度を下げた。そんな中で男子の灘中学は首都圏との日程の接近もあり近畿圏外からの受験者を減らしたが、実質的な難度は変化しなかったようだ。女子では神戸海星女子学院がA、B両日程とも昨年並み難度を維持した。新生啓明学園は前期A日程では男子二・四倍、女子三・二倍と順調なスタートを切った。
 京都地区では定員を増やした洛南が例外的に応募者を増やした。入りやすくなるだろうということで期待が集まったのかもしれない。他の学校は軒並み倍率を下げた。洛星、同志社、立命館などは昨年の半数になっている。難度的にも同志社女子、京都女子、同志社などは昨年までより大幅に入りやすくなっている。今年初めて行われた洛星後期は九・三倍で厳しい入試となった。
 大阪では二十九日の初日を避けて独自の入試日程を組んだ学校がいくつかあり、これらの学校はかなりの志願者を集めた。共学二年目の開明は昨年一次入試を男女別日程で行い注目されたが、今年は三十日の同一日程となった。大阪女学院は三十日にA四科目入試、三十一日にB二科目入試という連続日程をとった。大阪桐蔭は三十日、関西大倉は三十一日にそれぞれ一回目の入試を行った。
 兵庫県の後期入試は今年は男子で六甲B、関西学院B、淳心学院後期が二月三日に重なり、倍率的には昨年より緩和されたが、相変わらず高い難度の入試となった。女子では昨年と同じく神戸海星女子学院B・親和女子Bが二月三日に入試を行った。
 広島県では広島市内は生徒減に比例して全体に若干の志願者減、県内では一月十三日の近畿大学附属東広島の志願者増が目立つ。
 私立と公立との比較についてみると、京阪神のうち兵庫県では伝統的に私立が公立と競い合ってきたが、最近公立が弱体化してきている。またこれまで公立が圧倒的に強かった大阪で最近、公立の落ち込みの激しさが自立っている。






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