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記事2002年12月13日 1875号 (4面) 
わが国の医療発展に貢献する私立医大
代表理事交代、事業中間報告を承認 医大協総会
卒後臨床研修必修化への対応協議
 日本私立医科大学協会(川ア明トク会長=川崎医科大学理事長)は十一月二十一日、東京・市ケ谷の私学会館で「第六十七回(秋季)総会」を開催した。代表理事五人の交代と平成十四年度事業中間報告(書面)をいずれも承認したほか、卒後臨床研修の必修化、医療機関別の包括評価導入など当面する諸問題について報告された。

医療機関別の包括評価導入中医協の動向注視
私大病院への配慮を求める


 開会にあたってあいさつに立った川ア会長は、卒後臨床研修の必修化への対応、コアカリキュラムに準拠する共用試験の導入への対応の二点を、私立医科大学が当面する問題として指摘。また、来年四月からスタートする医療機関別の包括評価導入については中央社会保険医療協議会(中医協)の動向を注視していきたいとした。
 代表理事の交代では、小川秀興・順天堂大学長、伊藤久雄・東京医科大学理事長、吉村博邦・北里大学医学部長、冲永惠津子・帝京大学医学部附属溝口病院長、石川欽司・近畿大学医学部長の新たな就任が承認された。
 卒後臨床研修の必修化については、新医師臨床研修制度検討ワーキンググループの委員である川ア会長が、研修プログラムや施設基準など新臨床研修制度の基本設計が固まり、必修化に向けて、臨床研修に関する省令と通知を定める予定になっていると述べた。また、堀江孝至副会長(日本大学医学部長)が同WGの審議経過などを報告。厚生労働省では必修化に向けて十三年に検討部会を設置、合計十一回の審議が行われ、その結果は論点整理として公表されたとした。WGでは、研修プログラム、施設基準、処遇の三つの小委員会が設置され、六月から八月にかけて集中的に審議し、九月四日に開かれた全体会ではその結果が集約されたと報告。十二月十二日に開催予定のWG全体会議で、研修医と研修プログラムとの組み合わせ決定制度(マッチングシステム)が取り上げられることになっているとした。焦点となっている研修医の処遇への対応に関しては、具体的処遇の内容が決まらないままであると述べた。
 医療機関別の包括評価の導入については柿田章副会長(北里大学病院長)が報告。これは特定機能病院の機能を適切に評価し、医療機関の機能分担をより一層推進するという観点から、特定機能病院における入院の診療報酬の見直しを行おうというもの。十月下旬から十一月初旬にかけて、厚生労働省から八十二の特定機能病院の担当者にヒアリングがあったとし、これから年内終わりまで具体的な議論が進められる段階になると述べた。当初、包括評価導入が議論され出した時には、私的機関である私立医科大学関連の特定機能病院が最も問題点が多いだろうということもあり、厚生労働省側と医大協との間で随時、事務的な調整を行う中で、医大協側の要望もある程度表明していると述べた。中医協ではこの問題について大学病院関係者から意見聴取を行ったが、▽現在の診断群分類原案(α版)では例外事項が多すぎるため、これを精緻化してほしい▽包括評価の対象となる診療行為の範囲を定義してほしい▽包括評価制度の導入には六カ月は必要であるなどの指摘があったとし、私立大学病院の立場から柿田副会長は、国公立大学と私立大学とでは設置主体が異なることへの配慮を求めたとした。中医協では来年四月の包括評価の導入を目指し、十二月まで集中的な議論が行われることになるとしたうえで、少なくとも包括評価の範囲や、どのようなフォーマットで申請するかなど、タイムリミットのある種類のものについては議論が進捗するようだと報告した。

医大協加盟大学法人消費税負担総額358億円
1大学当たり年間23億円の不足額


 私立医科大学の医学教育がいかに多額の経費が掛かり、財政的に厳しい状況に置かれているかを理解してもらうことを目的に、医大協が発行しているパンフレット「医学教育経費の理解のために」の平成十四年版について、吉岡博光副会長(東京女子医科大学理事長)が報告。医大協加盟大学の法人消費税負担総額が平成十三年度では三百五十八億一千万円であること、十三年度決算による私立医科大学における学生一人当たりの医学教育経費が一年間で千五百二十七万円であること、一大学当たり資金収支決算では年間二十三億五百万円の不足額が生じていることなどが説明された。
 研究体制検討委員会の動向については伊東洋委員長(東京医科大学長)が報告。これまで同委員会では大学院医学研究科が抱える諸問題について多くの提言を行ってきたが、これから来春にかけては行政が考えている私立医科大学、大学院医学研究科の在り方について、文部科学省の担当者を招いて「21世紀COEプログラム」を主題に、問題点を検討していきたいと述べた。また、国立大学の独立行政法人化をめぐって、国立大学の統合の理念について、私立大学の立場から質問したいとした。
 学生部委員会の動向については田中正敏委員長(久留米大学医学部長)が、八月に学生支援体制の現状についてアンケート調査を実施したと報告。学生相談室の設置などのデータ集計が終わっており、これを基に討議したいと述べた。このほか、柿田副会長が日本医師会の「診療情報の提供に関する指針(第二版)」が発行されたことについて、各大学ともこれに基づき診療情報の開示に努めてほしいとした。
 総会後段では厚生労働省保険局の西山正徳・医療課長が医療機関別の包括評価に関する動向について報告。診療報酬改定が社会経済動向の影響によって、戦後初めてのマイナス改定になるという医療保険財政の厳しい状況の中でも、大学病院の機能は重要だとしたうえで、新たな包括評価導入の必要性を指摘。包括評価の算定方法を固め、来年四月実施を目指したいとした。


東京女子医科大学のPBLテュートリアル

少人数討論型統合学習
90年から導入し、大きな成果

 東京女子医科大学医学部では「学び方を学ぶ」ための少人数討論型統合学習「PBLテュートリアル」を一九九〇年から導入して成果を挙げている。「PBL」とはプロブレム・ベースド・ラーニングの略で、与えられたケースを基に学習課題を自ら発見して学ぶことを意味する。「テュートリアル」とは個別指導教員がついて、学生の一人ひとりにもアドバイスが行き届く教育形態をいう。

 東京女子医大のテュートリアルでは一学年を十六グループに分けて六〜七人が小教室で討論する授業が行われる。週五日のうち二日を充て、午前の二時限目は「テューター」と呼ばれる教員がついて自己学習に必要なアドバイスをするが、その日の午後はすべて個人学習に充てる。
 授業風景の一例。最初に示されたのは具合が悪くなった子どもの状況を短い文章で書いた一枚の紙切れ。シート1「加藤裕太君は五歳の男の子、三十九度の発熱が二日間続き、おなかも時々痛がるため母親が心配して近くの小児科を受診した」。文章はそれだけだ。さあ、このケースから何を学習しようか。そしてこの子は何の病気だろうか。この状況をめぐっていろいろな面から考えてみることになる。考える時のキーワードはいくつかある。「五歳の男の子」を手がかりに四歳の子と六歳の子とは何が違うかを「成長と発達」の視点から考える。男の子は女の子とはどう違うか、特に性泌尿器系のちがいに注目してみる。「発熱」に関しては、まず体温の恒常性を学ぶ。それが破綻して熱が出る仕組みは何か、熱のその発生源はどこか、熱を生み出す生化学的な仕組みは何か。原因は何か、風邪や化膿など感染症かもしれない。そこから細菌とウイルスの違いも考える。「痛がる」に関しては「痛みとは何だろう」と考える。痛みを感じる仕組みは何か、感覚伝導路については「体内情報伝達」という授業ですでに学んだから、その復習をしよう。間もなく学ぶ「刺激と生体反応」の授業の予習もしよう。こうした討論がシート1の文章を中心にして展開される。

各グループが同じ内容を学習
自発的に問題発見、解決へ

 次の回には二枚目の情報シートが出される。「近所の医院での検査の結果、裕太君は尿が濁っており、タンパクも出ている。夜間を通して尿失禁が続いている。排尿に勢いがない」などの情報が新たに加わる。
 三回目。近所の医院から紹介された東京女子医大で検査が行われ、検査結果の情報シート3が示される。尿の一般検査、尿沈渣の検査、血液検査、尿培養、腎盂造影などの検査所見や理学所見が記されている。
 四回目のシートには「裕太君は手術が必要と診断され、手術前の膀胱尿道鏡で膀胱内部が詳しく検査され異常な状況が認められた」と書かれている。
 学生はシートの提供するキーワードや情報について考えていく過程で自発的に問題を発見し、それを自分で解決する能力を磨いていく。一つのケースは四回、二週間のテュートリアルで完了する。こうしてさまざまな領域に関する自発的統合学習を四年間にわたって繰り返す。
 東京女子医大医学部のカリキュラムは臓器系・機能系・ライフサイクル別にまとめられ、これを「ブロック」と呼んでいる。四学年までで六つのブロックを学ぶ。
 ブロック1では人間生物学、つまり人間の正常な構造や機能を学ぶ。第一学年の二学期に行う「人体解剖実習」もこれに連携している。
 ブロック2では心臓などの循環系、肺などの呼吸器系、腎臓などの腎尿路系、ブロック3では消化器系、内分泌系、代謝系、ブロック4では神経・精神、目・耳などの感覚器系などの臓器系ブロックについてその正常と異常を併せて学ぶ。ブロック5では血液系、免疫系、皮膚、これらは機能系ブロックという。ブロック6では人の一生、人と社会、人と環境が扱われる。ここでは妊娠、分娩、新生児、幼児、小児、青春期、成人医学、そして老化や死にいたるまでのライフサイクルや社会や環境の問題などを学ぶ。
 興味深いことに、別々に学んでいる十六グループがほぼ同じ内容について学習できることである。ケースをデザインする際の計画の綿密さがうかがわれる。「学生が自分の考えで学習を進めているように見えても、結果としてはお釈迦様の掌の上の孫悟空のようなものなのです」と神津忠彦教授はいっている。

テュートリアルの時間
全授業時間の30%

 学生のグループ編成は年三回組み替えが行われ、できるだけ違うタイプの人との接触も経験させる。討論型学習は医師に必要な対話技術などの向上にもつながる。PBLテュートリアルには全授業時間の三〇%が使われている。PBLテュートリアルにはテューター(個別指導教員)がつく。学生たちの討論を傍らで聞きながら、学生の話題が偏ったり、討論が行き詰まった場合には助言をするが、原則として介入はなるべく避け、学生たちの自発的な討論の進行に任せる。テューターには自発的学習を援助するための熟練した教育能力が必要とされるため、テューターガイドという虎の巻がつくられていて、声のかけ方、学習テーマから想定される討論や学習内容、学習写真資料の使い方などが記載されている。
 この教育方法はカナダのマックマスター大学が一九六九年に確立したユニークな教育方法だが、日本では一九九〇年に東京女子医大が初めて導入して成功した。他の医科大学からの注目を集め、二〇〇一年十月現在、全国医学部・医科大学八十校のうち三十九校に広がっている。
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