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記事2002年11月13日 1870号 (3面) 
新時代の教育は私学から―東京と京都で研究会

同志社大学
学長
八田 英二 氏


(財)教育調査研究所
研究部長
高木 清文 氏

 京都府私立中学高等学校連合会(眞木意令会長=京都学園中学高校長)は十月二十日、「新時代の教育は私学から」を研究目標に第一回京都府私立中学高等学校教育研究大会を開催し、三百五十人の教職員が集まった。また、東京私学教育研究所(堀一郎所長)の教務運営研究会では新学習指導要領における評価について高木清文・(財)教育調査研究所研究部長の講演が行われた。


【京都府私中高校 教育研究大会】

『今後の私学教育』の在り方講演要旨

中・高・大は運命共同体
学部教育はリベラルアーツ、専門教育は大学院で


 教育というものには二つの側面があると考えています。一つは知識・専門性の修得であり、もう一つは人間性の涵養です。この人間性の涵養こそ私学が強みを発揮できる部分であり、私学がここに強みを持っているからこそ、「新時代の教育は私学から」というスローガンが生きてくるのではないかと考えています。
 いま、大学としてはかなり危機感を持っております。大学全入、学力の低下が叫ばれている中、大学一年で中等教育を引き受けざるを得ないのではないか、という大学人もいます。高大連携という言葉がありますが、今後、高校と大学の教育の連携がどうなっていくのか、だれがそれをやるのか。特に私立の中学・高校と大学がなんらかの密接な関係を新しく構築していかなければ、二十一世紀の私学教育はないのではないかという危機感を持っています。しかしながら、われわれは私学という強みを発揮できる組織形態を持っているということ、中学・高校と大学は今後運命共同体であるという観点からお話をしたいと思います。
 現在、私は日本私立大学連盟という大学組織の担当理事として、大学がつぶれたときにどのような処理をしたらよいか、というマニュアル作りをしています。ご存じのように四年制大学は三〇%が、短期大学は五八%が定員割れを起こしています。日本私立大学連盟は大学がつぶれた時、在学生にどう対応したらいいのか、卒業生の学籍簿をどのように管理すればいいか、という議論をしています。最低限のセーフティーネットとして学籍管理をする共同組織をつくろうと、今、一生懸命にやっているところです。
 高等教育の将来を考えてみますと、特に文科系の学部はリベラルアーツに一本化していき、専門教育はほぼ大学院で行っていくことになると思います。専門教育が大学院に移った場合、学部はリベラルアーツに特化していこうという動きがますます強まっていく。つまり、今後は学部教育で生きる力、学ぶ力、何のために生きるのかといったことを学び、また基礎的な専門教育は学部で行い、専門教育は大学院で行うという方向になりそうです。いずれ、私立大学も一部の大学しか入試で入学者を選抜することができなくなり、大多数の私立大学は志望者をそのまま受け入れざるを得なくなります。入試に意味がなくなる、これが先ほど言いました運命共同体ということです。

問題は全入時代のカリキュラムに

 二〇〇九年には、全大学の総定員数と志望者数が同じ数になります(二〇〇九年問題)。また、二〇〇六年からは新学習指導要領で学んだ高校卒業生が大学に入学してきます。しかも志望者のほぼ全員が入学してくるわけです。
 この学生をどう受け入れるか、どう教育するかについて大学で研究が行われていますが、現実にそれらの高校生が入学してきたら、どのような授業をすればいいのか、どれだけの基礎学力があるのかといった議論は何もありません。
 本来なら高校の先生方と話し合いをして、大学のカリキュラムを調整しなければいけない段階に来ている。しかも小、中、高がまとまって話し合わなければならない大きな問題です。目前に、高校の教育がすぐに大学に跳ね返ってくる時代が迫ってきています。
 逆に言えば、私立学校で独特の教育を受けた生徒が私立大学に入学することによって、その教育成果がそのまま学生を通して、私立大学の中に生きてくるわけです。

高校教育の成果が大学に反映

 また、これから大学はますます第三者評価を受けることになりますから、その中で私学の中学高校で育った学生をどのように教育したのか、どれくらい細かな教育サービスをするのかということが外部に報告されるということになるわけです。
 私立高校出身者が私立大学に入れば、その教育成果がストレートに大学に反映される時代になってきたという意味で、今後、中学・高校と大学が運命共同体的なものになりつつあるのではないか。
 そういう意味でも、高校と大学の実質的な連結が必要ではないかと考えています。
 もう一つは、例えば、IT(情報教育)に非常に力を入れた教育を受けた私立高校生を大学に送っていただきたい。あるいは宗教教育に力を入れた、生きる力を育てる教育に力を入れたというような特色ある卒業生を大学に送り込んでいただきたい。
 それぞれの私立高校が特徴を出していただく、そういう時代が来たし、それが可能になってきたと考えています。
 今後、私学は建学の精神に基づいた教育方針を大きく前面に出して、建学の精神にのっとった教育のプログラムを大きく打ち出してPRしていかなければならないと考えています。
 私立大学も、文科系は特に人間性の涵養といった部分に重点が置かれていくわけですから、うちの大学はこういう特色があるといえるような教育プログラムを作っていかなければならない。それがある面で、建学の精神にのっとった教育を行っている私立の中学・高校と大学の連結の基本的なイメージではないか。その密接な連結の中で、大学においての人間性の涵養、職業教育も含めて、どのような人物に育てていくのか、そろそろ考えていかなければならないと考えています。
 そして学校はどれだけ付加価値をつけることができるか、特色ある人間を育てることができたか、この点で、私学は強みを発揮できると思います。



【東京私学教育研 教務運営研究会】

新学習指導要領における評価 講演要旨

学習状況の評価が子供の学習に資する
改革の総決算が「評価」


 一連の教育改革が始まりましたが、さまざまな教育改革の中で、学校教育にかかわる教育改革の総決算は「評価」であると思います。毎日の学習、授業において、子供たちの学習状況をどういうふうに評価するのかということをそれぞれの学校が選択したときに初めて、教育改革が終わったのだと私は思っています。
 新学習指導要領をよく読んでみると、「自ら」という言葉がたくさん使われています。新学習指導要領は、子供が学習の主体であるととらえている。つまり、学習状況の評価が、最終的には一人ひとりの子供の学習に資するものであるということです。どんなにさまざまな改革がなされても、それが子供の生き方に資するものでなければならない。そういう意味で、教育改革の総決算が評価であるととらえております。
 新学習指導要領で目指している「学力」とは、一つは基本的な生活能力、いわゆる読み・書き・そろばんですとか、日常生活に不可欠な力、あらゆる教科の土台となる力ととらえられています。二番目には、学習指導要領に示す基礎的・基本的内容です。これは、知識、知能、意欲、思考力、表現力、判断力、つまり「学ぶ力」です。そして、自ら学び考える力などの生きる力をはぐくむといった、豊かな人間性を学力の最終的なものとしてとらえています。
 では、どういう指導や学習のあり方が求められているのか。一つは体験的な学習の重視です。二つ目は問題解決的な学習、つまり、子供たちの試行錯誤を重視するということです。三つ目は子供たちが自ら学ぶ、自ら課題を見つける、子供自身の学習展開を重視するということです。
 教師の指導のあり方も、子供の学習のプロセスを重視するということが一つ出てくると思います。しかし、子供たちに何を身につけさせるのか、何を学ばせるのか、子供たちが生きていく上で何が必要なのかということが明確でないと、評価は出てこない。
 いままでの評価のあり方は、学習の結果としての知識の量に重点があったことは否めない。簡潔に言えば、ペーパーテストに依存した評価、集団に準拠した評価、「相対評価」であったわけです。
 では今後はどういう評価方法に変えていくのか。すなわち、子供たち一人ひとりがどれだけ目標に対して到達できたかということに、限りなく視点を当てていく評価。つまり「絶対評価」です。
 よく指導と評価の一体化といいますが、評価したものが、一つは子供に対して、もう一つは教師自身に対して返ってこなければいけない。評価情報は、子供たちにはどういう意味があるのかというと、自分の成長・進歩の状況が分かるということ、さらに自分の次の学習の課題は何かが分かることです。自分の次の学習の課題が分からなければ、子供にとって意味がない。教師にとっては、指導の改善につながらなくてはいけない。つまり、評価情報が、子供と教師の両方に常に返ってくるということが、指導の評価の一体化であるわけです。

可能性見る個人内評価

 もう一つ、新しいことで、個人内評価の重視ということが言われています。その子のよい点や可能性を見る。あくまでもその子供個人の中を見ていく。そして可能性を積極的にとらえていこうとする評価、これを個人内評価といい、重視していくということです。
 それから当然ながら、評価の方法の工夫が重要視されてきます。観察をしたり、面接をしたり、作文を書かせたり、作品を見たり、そうしたことを評価情報として集める。もちろんペーパーテストも重要な一つです。そうさまざまな方法を駆使して見取っていかないと、限りなく一人ひとりに視点を当てた評価になっていかないわけで、こうした評価方法の工夫が重要になってきます。
 また、各学校、各教科で評価基準を設定しなければなりませんが、学校として評価基準の設定を共通理解した上で、年度当初に保護者と子供に説明をすることが必要になってくる。
 ですから、あらかじめ学校としての基準をきちんとしておく必要があるわけです。

自己PRカードの導入

 もう一つ考えなければいけないのは、高等学校の入学者選抜についてです。平成十五年度東京都立高等学校等入学者選抜検討委員会が今年六月に出した「平成十五年度東京都立高等学校等入学者選抜の改善について」という報告書があります。この中で自己PRカードの導入が提示されています。これは、今後、入学者選抜に提出される調査書の内容の一部である学習の記録が絶対評価に変わるために、入学者選抜の資料としての調査書の重みが弱まることは否めないので、その機能の低下を補うものとして取り入れようとしているものです。また、学区制撤廃に伴い、すべての都立高校等が「本校の期待する生徒の姿」を受験者に示すこととされています。
 もう一つ、絶対評価になれば成績一覧表はいらないのではないかと思うわけですが、今回、成績一覧表調査委員会は存続するということです。場合によっては教育委員会の指導助言がかかわってくることになる。詳しくは、前述しました報告書に十五年度入試の改善点が書かれていますので参考にしていただきたいと思います。
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