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記事2002年10月23日 1867号 (5面) 
入学辞退者による学費返還訴訟問題 (中)
私立大学などに納めた入学金や授業料などの学費が、入学を辞退した場合にも返還されないのは不当だとして、学費返還訴訟が活発化してきた。前回(9月13日号)に続き、今回は私大団体の過去の対応、推薦入試の場合などをレポートする。

日本私立大学連盟の決断
推薦入学者からは半期分の授業料
入学辞退者からは徴収せず

 二十七年前、当時は私立大学が合格発表後のかなり早い時期に授業料を時には一年分前納させることが珍しくなく、他大学に入学するため入学辞退しても返還されない金額が大きいことが社会問題になっていた。
 何月ごろだったか日本私立大学連盟の石田昭男事務局長から本紙記者(当時は朝日新聞記者)が相談を受けた。「ちょっと意見を聞かせてほしいんだが」「何ですか」「授業料を前納させて返さない問題ね。私学はいつまでもあんなことをしていちゃあ、いけないと思うんだ。そこでこんどの理事会で入学辞退者には前納学費を返すことを決めてもらおうと思うけど、世間の反応はどうなんだろうね」「そりゃあ英断だ。世間はもちろん大歓迎で支えますよ」「そうか。ただ入学金を返すのはどうも、お金の性格からいって…」といろいろ苦労して理由を挙げている。「あのね、石田さん、入学金というのは入学しますといって払う手付金みたいなものでしょう。それで入りたい他人一人を押し出しておいて、あとでほかへ行くから返してくれなんてムシがよすぎる。理由なんかつける必要ない。べらぼうな額でもなし。入学金は返さないというだけでいいですよ」
 その後、間もなく私大連盟理事会が開かれた時、私はその横の部屋で結果を待っていた。理事会が終わって早稲田大学の村井総長や慶應義塾の久野塾長など諸先生の姿がぞろぞろと現われ、消えて行った。
 「決まったよ。一カ所だけ、入学金というのを『入学申込金』としてあとで入学金に振り替えることにしたことだけが変更点だ」。すぐに担当理事からも詳しい話を聞き、特集記事となった。
 私大連盟は東大などの国立大学後期日程校との併願者が多いため、国立大後期の合格発表ののちを期限として、それ以前に入学申込金、期限までに残りの学費を支払うという二段階方式と、期限以前に学費も含めて前納してもらい期限までに返還申し出があれば、入学金を差し引いて返還するという返還方式の二つのやり方をとった。ただし期限を「国立大学後期合格発表」とするのは私立大学としていかにも見識がないというので、「入学式の二週間前」という表現にした。
 二段階方式(今は延納方式といっている)の採用は「入れた金を戻したりするのは面倒でしょうがない」という大学総務課あたりの意見が通った場合であり、返還方式は「いったん払うような手続にしておかないと入学者の数が読めない」という入試課の意見が優勢を占めた場合に多いようで、この傾向はいまも変わらない。
 文部省はこの私大連盟の自主的な決定を参考として取り入れ、他の私大団体にもまねてもらおうという願望から、五十年通知を出したものであろう。その後の経過はその通りに運んで、授業料については入学辞退者からは徴収していないところが多いと思われる。
 ただ、その後、推薦入学が非常に増えたのに応じて推薦入学者からは合格発表の一週間から十日後を締め切り日として半期分の授業料を徴収する例も増えてきている。文部科学省が今年五月十七日の通知で「推薦入学も含めて」という文言を入れたのは非常に大きい変更点であり、影響も大きく、新しい問題点も出てきそうな気配が感じられる。

指定校制推薦入学の場合
難しい指定校制推薦入学
国立大学の独立法人化実現で更に煩雑化

 私立のA大学は教育学部の推薦入学指定校にしたB高校のC君を今春の推薦入試で合格させ、入学金は受納したが、その後、待てど暮らせど残りの授業料の払い込みがない。B校の校長先生にそのことを連絡したら「あっ、それはすみません。早速払いこむように伝えますから」という返事だった。しかし、その後もやはり残金納入はない。「おそらく国立大学教育学部に合格してそちらに乗り換えたのでしょう。もちろん、校長先生もそのことは承知のうえで知らん振りをしているのだと思いますよ」という推測だった。
 そうだとすればC君は信義にもとる行為をしたことになるが、さすがに払い込んだ入学金の返還は求めていない。推薦入学は以前の卒業生の実績をもとに校長の推薦を得て、本人も合格したら入学することを確約するから、学力試験なしで合格という優遇措置を得られるわけだが、滑り止めであることを隠してそのような優遇措置を受けながら、いったん国立大学に合格したら弊履のごとく約束を反故にする。教育者を目指してスタートしようとする時に、そのように信義にもとる行為を実行した学生はその後の人生の中で、この時の自分の行為をどのように感じて過ごすのだろうか。
 文部科学省私学助成課で、「信義にもとるのではないか」と質問したら、「信義にもとるとしても、そのペナルティーを授業料の没収という形で課すことは適切でない。指定校の取り消しといった方法もある」という係官の見解だった。しかし、指定校取り消しの措置はウソをついた本人でなく、あとから卒業する生徒にペナルティーを課すものであって、きわめて不合理といわざるをえない。また公募推薦入学の場合には指定校はないわけである。
 大学にとって学費返還による直接的な収入減少の問題だけでなく、入学辞退の補充は時期が遅くなるほど難しくなり、その面からも深刻である。A大学は定員の一・三倍まで入学させたいと思い、できれば後期合格発表前に締め切りたいが、「それはだめ」ということで後期合格発表の二日あとに納入期限を設けている。後期との併願者が抜けた穴の補充は非常に困難である。そのうえ、最近では国立大学が補欠をよくとるようになった。このうえに国立大学の独立行政法人化が実現して採算重視となった場合、補欠採用がどういう状況になるのか、国立大学が補欠をとれば、その抜けた穴を埋めるために私立大学も補欠をとる。入学辞退がだらだらと続き、さらに「授業を受けない分は授業料を返せ」ということにならないか。A大学入試担当者の心配の種は尽きない。
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