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記事2001年9月23日 24号 (6面) 
私情協研究発表
九州共立大学情報処理教育研究センター所長代理 守 啓祐氏
1台のコンピュータで複数のOS同時利用
複数のOSやバージョンの違うアプリケーションソフトの利用環境の構築
 私立大学情報教育協会(戸高敏之会長=同志社大学工学部教授)は七月七日、東京・市ヶ谷の私学会館で「第九回情報教育方法研究発表会」を開催した。この発表会はコンピュータ、ネットワークを活用した教育方法に関する研究を広めることをねらいに、教育効果の高いユニークな情報教育システム、ソフトウエア教材などの体験研究を発表するもの。四十件あった発表のうち、ここでは「複数のOSやバージョンの違うアプリケーションソフトの利用環境の構築」と題した、守啓祐氏(九州共立大学・九州女子大学・九州女子短期大学情報処理教育研究センター)の発表内容を報告する。(編集部)

広がる情報機器活用
OS等の違いが利用の障害

○課題はシステム互換
 大学においてもコンピュータの利用環境が本格化するとともに、いろいろな基本ソフト(OS)やアプリケーションの利用が広がってきています。
 学生も、授業やレポートの提出をインターネットなどのネットワーク経由で行う、授業や課題の資料をネットワーク経由で探す、教員との連絡や就職活動を電子メールで行うなど、情報機器の利用が本格化し、それとともに不自由なく機器が利用できることが望まれています。
 しかし、利用が広がってくるにつれて問題になってきているのが、OSが違えば、あるいは同じOSでもバージョンが違えば、アプリケーションやデータの再生がきれいにできないということです。つまり互換性に問題があるわけです。
 一方、理科系の方でも、実際にプログラムを作成する際、利用者が持っているコンピュータのOSのバージョンの違いによって動作に違いがあるという問題をどうするかが課題になってきています。
 こうしたOSの違いによる問題にいかに対応していくか。その方法は幾つかありますが、ここでは二つを挙げています。
 一つは、いろいろなOSやバージョンごとに機械を用意して使う方法が挙げられます。ただ、この方法では多数の機械が必要となりますし、なかには使用頻度の少ない機械が出てくるということも問題になります。
 もう一つは、一つの機械に複数のOSを入れて、マルチウエア環境として導入するという方法です。しかし、単にOSを複数入れただけでは、(1)構成する機種などに制限がある(2)単独OSの場合より動作が不安定になる(3)一つのOSから別のOSに切り替える際に再起動が必要といった欠点があるということが今までに分かっています。
 そこで、ここでは一台の機械で複数のOSを“同時に動かす”方法と、複数バージョンのアプリケーションを動作させる方法について考察し、その実現方法と問題点について述べます。

VMwareを使用
1台のパソコンに複数の仮想機 

○マルチOS作成の概要
 といっても、すべてのOSに対応することはなかなかできませんので、ここで使うOSは、一般に一番使われているウィンドウズ系のウィンドウズ95、98、SE、Me、NT、2000、それから最近はユニックス系のOSもかなり使われるようになってきましたので、リナックス系の主要なOS、それからFreeBSD、だいたいこれくらいのOSを使って、複数のOS環境を作成しようとしています。
 複数のOSが同時に動作するようなマルチウエアの実現方法として、「VMware」というソフトで一台の機械の上に仮想の機械を複数構成して、その上に各OSを載せます。こうしますと、ハードウエアの制限をほとんど受けないようになりますし、一台の機械上で複数の仮想コンピュータが起動できますから、仮想のサーバーとクライアントというネットワーク環境のテストができるわけなのです。
 バックアップについても、仮想機械を構成するディスクは仮想ディスクとして表現され、さらにこの仮想ディスクは単に一つのファイルとして表現されますから、このファイルをコピーするだけで、非常に簡単にバックアップやシテスムの移動ができます。
 システムの更新についても、仮想環境の上に載っていますのでハードウエアの制限を受けないことから、今までつくったシステムの更新とは独立して行えます。
 さらに同時に複数OSが起動していますから、データのやり取りもカットアンドペーストで簡単にできます。
 一方、欠点もあります。いまのところ、ディスクの大きさに一部制限があるということです。これは、どちらかというとOSの制限にかかわるわけですが、ファイルの大きさに上限が出てきます。しかし、これはそのうちなくなってくるはずです。
 さらに、使用できないOSがあります。
 例えば、IBMのDC6、トロンの一部のOS、そのあたりがまだ十分に動いていないという問題があります。

バックアップ等が簡単
バージョン違うソフトも可能

○システム構成
 では実際に、どういう形で仮想マシンを構成したかというと、まず、通常のPC/AT機にホストOSとしてリナックスを入れました。ホストOSはウィンドウズNTでもいいのですが、そうすると安定性の問題と、管理者権限が現時点で必要なため、リナックスを持ってきました。基本ですから、安定であれば何を使っても問題はありません。
 そして、仮想PC/AT互換機をコンピュータ上に作成するソフト、VMwareを入れて、その上にゲストOSとして、ウィンドウズやその他のリナックスOS等を載せていくという形をとりました。
 ウィンドウズ系のOSについては、大体主要なものは入れました。ただ、ウィンドウズ95の最終版は入れましたが、それ以前のものはほとんど動かないものが多いので、いまのところ省略しています。
 このような形でウィンドウズ系のOSを利用する場合の教員側のメリットとしては、教材を作成する際に利用できるということが挙げられます。なかでも一番のメリットは、仮想機械の上のOSなので動作している状態では単なる一つのウィンドウにすぎないため、パスワードの画面収録や起動時のインストールなど、画面表示するものはすべてキャプチャーが取れることです。
 またバックアップも簡単にとれますから、常にクリーンな環境でテストが行えます。さらに、アプリケーションのバージョンが違うものも利用できるようになります。
 一例として、ウィンドウズ2000のインストール画面での収録、例えば、インストール画面のインストラクションのテキストをつくる場合の利用が考えられます。
 先ほど述べましたように、バージョンの異なるアプリケーションの利用について、最近よく使っているもので問題になるOS、例えばマイクロソフトオフィスなどはバージョンが違うと、アプリケーションが合いそうでなかなか合いません。ですからきれいに再生したい場合は同じバージョンを使わざるを得ないというのが現状なので、それを全部用意しておけばきれいに再生することができます。
学生は希望のOS可能に

○マルチウエア環境の長所と欠点
 これは学生にとってもメリットがあります。私どもの情報処理教育研究センターではウィンドウズ2000を使っていますが、学生からは、どうしてウィンドウズ95、98、あるいはNTを使わないのかという意見がけっこう出ます。その時に、この複数のOSが同時に動くマルチウエア環境であれば、自分の使いたいOSを使ってください、と言えるようになります。
 私どもでウィンドウズ2000を使っている理由については、実際に使ってもらえば分かりますので、体験してもらっています。
 また、仮想コンピュータを動作させているため、壊れてもすぐに元に戻せるので、いろいろな実験ができます。いままでは実験の際にもソフトなど中を変更するなと言っていましたが、この仮想機械では、学生がいくらでもいじることができるわけです。
 このほかの利用方法では、留学生向けにマルチリンガル環境をつくることができますし、そうした留学生向け環境を一台の機械で構築、利用できるようになります。
 三つの画面をご覧いただきます。一つの例は、リナックスの入っている機械の上にウィンドウズ2000、ウィンドウズNTのインストールを行うもの。そして、次はマルチリンガル環境の韓国語の例です。マルチリンガル環境とはいうものの、基本OSは英語版なので一部英語が残っているところはあります。同様にその次の例は中国語の例です。韓国語のものと中国語のものを同時に起動することもできますから、両方とも利用できます。
 しかし、このマルチウエア環境には欠点もあります。ハードウエアを直接コントロールするようなもの、それからハードウエアリソースを大量に消費するようなものは、苦手なことです。
 ユニックス系のOSの場合、よくリナックスと一口で言われますが、ディストリビューションの違いで管理ツールが違います。ですから、それらを一つの機械の中に入れ、管理方法の差を見てもらうこともできます。
 また、ユニックス系は現在、ネットワークのコントロール系によく使われていますが、ユニックスを使った仮想ネットワーク環境が同一機械の中に簡単に構築できるので、ネットワークシステムのテストが非常に楽にできます。

莫大なディスク領域消費は課題

○まとめ
 例えば、ここでは裏側でリナックスを動かして、上でウィンドウズNT4・0と、クライアントとしてウィンドウズ2000プロフェッショナルのマルチリンガル版と日本語版を走らせるという、四台の仮想機器が動作するネットワークをつくりました。その際、当然ながら外につながなければ、この機械の中だけですから、かなり乱暴なネットワークのテストもできますし、どういうパケットが飛んでいるかもすべて追いかけることができます。
 こういう形をとれば、利用頻度の低いOSも実際に使用できますし、常にクリーンな環境でコンピュータが利用ができます。ネットワーク環境の構築も先ほど申しましたように簡単にできます。
 ただし、一つのOS当たりかなり莫大にディスク領域を消費するということが、いまのところはデメリットとしてあります。

意外に小さなCPU負荷
大きいメモリーの消費量

○質疑応答
 司会 ありがとうございました。それではご質問をどうぞ。

 質問者 ディスクの消費以上にCPU(中央演算処理装置)に大きな負荷がかかって大変ではないかと考えるのですが、いかがでしょうか。

 守 意外にCPU負荷はそれほどでもないのですが、やはりメモリーの消費量は激しいです。例えばこの機械はテスト用で、かなりのメモリーを積んでいます。CPUはペンティアムIVの1・7、メモリーは一ギガバイトで動かしています。これくらいでやると、大体一台で動かしている機械の状態に関しては、ペンティアムIIIの600から700近辺のスピードで動いている。だから、負荷はそれほどではないけれども、こういう機械を用意するためには、確かにリソースはとります。
 実際にはペンティアムIVを使っていますけれども、ペンティアムIIIの一ギガぐらいでもスピードは変わらないのではないかと私は思っています。

 司会 ありがとうございました。




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