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記事2001年9月23日 24号 (3面) 
動き出した高等教育部会審議
中教審の動向と各分科会の審議内容
中央教育審議会では各分科会の下にさらに部会が設けられ、それぞれの諮問事項に関する討議が精力的に進められている。各部会での討議の模様を2面の二分科会を含め報告する。(編集部)

【大学分科会制度部会】

多様化で制度が合致しない 役割分担見直しを
パートタイム学生受け入れ 大学短大社会人の学習の場

 中央教育審議会大学分科会の制度部会は八月二十九日に東京・霞が関の文部科学省分館で第一回、九月六日に同別館で第二回の会合を開いた。第一回会合では、部会長に岸本忠三・大阪大学長を選出し、短期大学・高等専門学校から大学院までの高等教育制度全体の在り方について自由討議を行った。第二回会合では、パートタイム学生の受け入れや社会人の学習の場としての大学・短期大学に求められる機能や役割について三人の委員が意見を発表した。
 第一回会合では、冒頭、岸本部会長が「パートタイム学生の受け入れはいまの制度の下では難しい。どのように制度を変えればいいのか」などと発言。これを受けて各委員が意見を述べた。清成忠男・法政大学総長は「高等教育へのニーズが多様化し、制度がそれに合致しなくなっているのではないか」、天野郁夫・国立学校財務センター研究部長は「ありとあらゆるものを背負い込んでいる四年制大学に、このうえパートタイム学生を引き受けさせるとか、すべてを四大に期待するのには無理がある。何が大学四年間の高等教育なのか、短期高等教育の役割はあるのかどうか議論する必要がある」とそれぞれ指摘した。
 短期高等教育関係では、四ツ柳隆夫・宮城工業高等専門学校長が「高専の特徴は中学卒業者を受け入れて、その後一貫した教育の中で職業的資格に対する教育を重視していることだ。多様な高等教育のパスがあっていい」と発言。また、生越久靖・福井工業高等専門学校長は「高専は地方に立地し、学費が安いことが(学生にとっては)魅力となっている。日本の国力としての技術をどう保つかという視点から、ものづくり教育に真剣に取り組んでいる」と、地方の高専の実情を訴えた。森脇道子・産能短期大学長は「それぞれの高等教育機関での役割を見直し、これからどういう役割を担っていくのかがポイントだ。本学の二部ではリストラ不安の中で学び直したいという社会人が入学しているという現実的ニーズがあり、高等教育機関が役割分担して社会の期待に応えるべきだと痛切に感じている。社会人を受け入れることを重要なファクターとして、役割分担を考えるべきだ」と述べた。
 また、寺島実郎・三井物産戦略研究所長は「大学では教養教育、専門基礎教育をしっかり教えることを基軸とすべきだ。スキル、ノウハウを身につけさせる方向に傾斜するのは間違っている。産業界のニーズというものが誤解されており、(高等教育機関が学生に)即戦力を身につけることを期待しているのではない」と指摘した。
 第二回会合では、長田豊臣・立命館大学総長が「パートタイム学生、社会人学生の受け入れと大学の役割について」、関根秀和・大阪女学院短期大学長が「社会人の学習の『場』としての短期『大学』の可能性」、舘昭・大学評価・学位授与機構評価研究部教授が「米国におけるパートタイム学生およびコミュニティーカレッジの現状について」と題してそれぞれ意見発表を行った。
 長田氏は「大学はさまざまなモチベーションを持った学生が混在する知的なアリーナ」であるとし、パートタイム学生の受け入れは「大学教育の本質に迫る積極的意味を持つ。特に私立大学においては多様化を図るための決定的な要素だ」と指摘。同大学では一九九六年度から学部と大学院で社会人独自の入学定員と独自入試を行っていることを紹介し、特に今年度開設した応用人間科学研究科では、入学定員五十人のうち半数を社会人から受け入れていると報告した。
 関根氏は一九九五年に地方分権推進法が成立し、同法に基づく地域づくりが進むなか、市民形成、地域社会形成がこれからの短期大学の大きな役割であると指摘。自治体、地域団体との協力関係を構築し、現状のリソースを基にしながら、地域総合の教育課程・内容を展開することを提案した。市民形成、地域形成に資する「場」として、「地域科学総合学科」という学科の設置形態を提唱し、地域経済、地域文化、地域社会史、地域環境など多様な学科目の設定が考えられるとした。専門職業を「学理型」「学理基礎型」「部分学理型」の三つのモデルに分け、短期大学が主として養成する専門職業は、体系的科学的知識、あるいは一定の領域に関する科学的知識に基づいた「学理基礎型」であるべきだと指摘した。
 舘氏はアメリカのコミュニティーカレッジは二年制大学の総称であり、充実した自由学芸教育(リベラルアーツ)を提供する機関として出発したが、現在では地域密着性を生かした文化の拠点となっており・生涯学習体系の要となっていることを指摘。四年制大学に比べ、二年制大学の方が年齢分散が大きく、パートタイム学生の受け入れも多いと報告した。

【大学分科会大学院部会】

専門大学院、1年制大学院
現状と課題めぐり討議

 中央教育審議会大学分科会の大学院部会は八月三十一日、東京・麻布の三田会議所で第一回会合を開き、大学院制度の在り方をめぐって自由討議を行った。委員からは「学部中心の大学運営と切り離さないと、専門大学院は育たない」「一年制の専門大学院を実現に向けて進めてほしい」など、多様な視点から専門大学院に関する意見が出された。
 石弘光・一橋大学長は同大学が東京・神田に国際企業戦略研究科を設置し、企業出身の社会人や留学生を受け入れている経験から「多くの時間が与えられていない学生のために、一年制専門大学院を(実現に向け)ぜひ進めてほしい」と要望。伊藤文雄・青山学院大学大学院国際マネジメント研究科長は「高度専門職業人養成に特化した大学院では、教育を重視し、社会に送り出すべきだ」と指摘。「ファイナンスのように、スキルの面が強い研究科では、二年を一年に短縮することも可能だ」と述べた。また「学部の上に研究科があるので、大学の運営は学部中心で動いている。学部中心の大学運営と切り離さないと専門大学院は育たない」との見方を示した。舘昭・大学評価・学位授与機構評価研究部教授は大学院レベルの学位は国際通用性を持つことが重要だと指摘し「日本型MBAが米国のものより低い基準となるようなことは避けなければならない」と述べた。「専門大学院ではコースワークを重視すべきではないか」(伊藤氏)といった意見も出され、「マスターはコースワークだけでいいのではないか」(石氏)とこれに同調する意見がある一方、「社会人の学生にもゼミにおけるディスカッションと論文を書き上げたという満足感があるようだ。論文を課さないコースワークを安易に設けていいのか」(濱田道代・名古屋大学大学院法学研究科教授)とやや否定的に見る意見もあった。
 従来の研究者養成型大学院についても「幅広い知識を持った研究者を養成できていない。いまのままでいいのか、教育の在り方を検討すべきだ」(井村裕夫・総合科学技術会議議員)、「どの大学も大学院をつくる傾向の中で質が低下しているのではないか」(黒田壽二・金沢工業大学学園長・総長)と問題点を指摘する意見が出た。
 同部会は九月七日には、東京・一ツ橋の学術総合センターで第二回会合を開き、専門大学院および一年制大学院の現状について、清成忠男・法政大学総長、伊藤文雄・青山学院大学大学院国際マネジメント研究科長からヒアリングを行った。清成氏は昨年四月に社会人対象に開設した「ITプロフェショナル・コース」について発表した。学生のタイプは三十歳前後で大企業を退職して入学してくるケースが多く、大学院修了後はベンチャー企業の立ち上げを考えている人がほとんどであると実態を報告。「日本型雇用慣行が崩れ始め、キャリア・チェンジが必要とされている中で、教育投資という考え方が明確になってきた」と述べた。伊藤氏は今年四月に青山学院大学が開設した国際マネジメント研究科国際マネジメント専攻について、修士課程を専門大学院と位置づけ、実践的な高度専門教育を実施していること、課程の修了は特定課題研究の審査によって行われること、昼夜開講制を採用し、教育方法の多様化を図っていることなどを報告。
 そのうえで、専門大学院の課題として、高度実践的専門教育志向の強化、研究論文作成に代わり、コースワークによる修了方法の設定、修了要件単位数の引き上げ、三・四学期制など学期の増設などが必要であると指摘した。


【大学分科会法科大学院部会】

法科大学院と評価討議
部会長に佐藤・近大教授

 中央教育審議会大学分科会の法科大学院部会は八月三十一日、東京・麻布の三田会議所で第一回会合を開き、部会長に佐藤幸治・近畿大学法学部教授(京都大学名誉教授)を選任した。司法制度改革審議会長でもあった佐藤部会長は、二〇〇四年の法科大学院設置に向けて、同部会では設置基準や学位の在り方を審議し、今年十二月には骨子案をまとめ、来年六月ごろには大学分科会の答申に取りまとめるとのスケジュールを提示した。
 この日は自由討議という形で議論が進められた。法科大学院の設置については、司法制度改革審の意見書で、設置基準を満たしたものを認可し、広く参入を認める仕組みとすべきだとされている。この方針と第三者評価との関係で、小島武司・中央大学教授は「ある法科大学院が設置されて、評価いかんによっては消滅してしまうとなると、齟齬が生じるのでは。質の面で問題がある場合は、警告して改善を促進すべきだ」と指摘した。川端和治・日本弁護士連合会法科大学院問題特命嘱託も「新司法試験の受験資格のない法科大学院が生まれるとおかしいことになる。設置認可の段階で第三者評価に耐え得るものをつくることが必要ではないか」と述べた。
 また、現在のスケジュールでは、二〇〇四年六〜十二月に設置認可手続きを受け付け、二〇〇五年二〜三月には入試を行うこととなっているが、「このスケジュールでは無理。もう少し、現場の教員と学生の立場を考えてもらえないか」(濱田道代・名古屋大学大学院法学研究科教授)と再考を促す意見が出た。
 
【初等中等教育分科会教員養成部会】

秋口にも審議の中間まとめ
改革の骨格部分で方向提案
社会人の活用大胆に規制緩和

 中央教育審議会初等中等教育分科会の教員養成部会(高倉翔部会長=明海大学長)は九月十七日、東京・虎ノ門の霞が関東京曾舘で、第八回会合を開き、諮問事項である教員免許制度の総合化・弾力化、免許更新制の可能性、社会人活用の促進について審議した。
 この日はこれまでの審議内容を基に、高倉部会長が、秋口にも公表される「審議の中間まとめ」の骨格部分について提案、それを委員が討議するという形で審議が進められた。
 このうち教員免許制度の総合化に関しては、七月に行った関係団体からの意見聴取等で総合化のパターンがさまざま出され、早急に結論を出すことが難しいこと、仮に二つの校種の免許を総合化した場合、学生の修得すべき単位が増えて免許制度の大原則である開放性が維持できないこと、教員免許制度は平成十年度に制度改正したばかりでまだ卒業生も出ていないことから、(1)免許制度の総合化については、中長期的な課題として専門的な調査研究を先行させること、(2)小学校教員と幼稚園保育士の免許取得に際しては、教科に関する科目を廃止すること、(3)専修免許状に関しては、どのような資質・能力を保証しているのか明確ではないことから、一種免許、二種免許を基礎と位置づけ、専修免許には現職経験を課し、処遇改善も検討することが提案された。高倉部会長の提案に対して、委員からは、「提案は賛成。もう少し調査検討が必要」「提案は賛成。学校間のハードルが高すぎる。垣根を低くして教員の相互交流を考えられないか。パイロット的に実践モデル校を作ればいい」「今の取り組みでできるもののタイムスケジュールを作るべきだ」「小学校の教員免許では教科横断的というか、新しい分野を作るべきだ」等の意見が聞かれたが、ほとんど改革の方向性に異論はなかった。
 続いて教員免許制度の弾力化に関して、高倉部会長は、すぐ取り組むべき課題としたうえで、(1)小学校専科教科担任制度を拡大することを提案した。この制度は、音楽、美術、保健体育、家庭の四教科に関して、中学校教諭の免許状を持つ人は、それに相当する教科の教授を担任する小学校の教諭または講師となれるというもの。その教科を拡大、高校にまで対象を広げてはどうかとの提案だ。これに対して委員からは「他校種の免許を取りやすくする手立てが必要だ」「現状の中では不安。人事異動を速やかに行うことが前面に出てきてはいけない」などの意見が聞かれた。また高倉部会長は特殊教育に関する免許の総合化・弾力化にも触れ、障害の複合化や特殊教育の免許取得率が非常に低いこと、都道府県レベルでは養護学校施設の複合化が進んでいることなどから、できれば部会内に専門家を加えたワーキンググループを設置、急ピッチで検討を行い、検討内容を中間まとめか最終答申に反映させてはどうかといったことも提案した。
 このほか教員免許更新制に関しては、引き続き討議を行った。また社会人の活用では要件から「学士」を撤廃し、免許の有効期限なども廃止、また採用を前提とせず、人材をプールできるような制度に大胆に切り替えることなどが高倉部会長から提案された。
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