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全私学新聞

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記事2001年9月13日 23号 (10面) 
生き残りを賭けた 学校法人の差別化戦略
学業継続・学校法人 経営支援の保険サービス
 日本経済の減速が続くなかで私学に在学する学生の扶養者が経済的困難に見舞われ、やむなく学業を中断する事態が生じている。学校側でも従来ある奨学金制度の活用をはじめとする支援策を講じているが、企業や卒業生を対象とした寄付が集まりにくい状況もあって対応に苦慮しているのが現状だ。学校法人経営を取り巻くこのような状況を、保険というシステムで支援しようという動きがある。受験者、入学者の減少に歯止めをかけるために「安心して入学できる学校」をアピールする新しい保険商品も開発されている。全私学新聞ではこのような状況を踏まえて、学業継続・学校法人経営支援のための保険についての最新の状況を保険設計、保険販売、保険流通の各専門家にうかがった。

【学校向け奨学金保険設計の背景】

家計急変による中途退学
学業継続保険に関心 
 
ワールド保険グループ ワールドインシュアランスサービス(株) 北村 祐二氏

 当社は契約者と保険会社の間に立って契約者のニーズに合致した保険を開発していますが、そのような新保険検討の過程で浮かび上がってきたのが家計急変による「中途退学者」の問題でした。
 そういう状況に置かれた学生や家庭をバックアップする保険を学校は持っているのか調査をしてみたところ、かなりの学校から学業継続のために使える保険について非常に関心があるという結果を得ました。
一方、扶養者に対するアンケート調査では、学校の奨学金制度に関心があるという回答が全体の八〇%近くあり、さらに、経済的理由により学業継続が困難になった場合を考え、「返済義務のない」奨学金制度のある学校があれば子供を受験させる基準になるのか、という質問には六五・三%が考える基準にするという結果が出ました。
このような背景から、扶養者の経済的要因による学業断念の不安を取り除く「保険による安定的運用が可能な給付型奨学金制度」の創設は、学生・扶養者が受験校選択を判断する基準の重要な要素であり、これにより他学との差別化を図ることで受験者の確保と学生の定着を保証して安定した学校経営に寄与し得るものと考え、新型保険の開発・設計に着手したわけです。



【学業継続支援制度の現状と問題点】

従来の制度は成績と経済的理由で支給
給付型を除き返済を義務づけ

丸善メイツ(株) 保険代理事業部 主事 鈴木 誠氏

 経済的要因による学業継続困難をバックアップする主な制度としては、「日本育英会奨学金制度」や公的機関および民間金融機関による学費ローン、学校独自の奨学金制度などがあります。学校独自の奨学金制度には返済義務のある貸与型と、返済する必要のない給付型がありますが、貸与型の場合は卒業後の返済が滞る例が多く、回収率が悪くなっています。給付型は、学校が積み立てる基金の中から支給するのですが、制度を整えている学校はまだ少ないと思われます。その中身はさまざまで、複数の制度を備えている大学もありますが、単一の制度しかない学校もあって学校間の格差が激しく、千差万別であるのが実態です。
 また、従来の給付型奨学金制度は、成績優秀な学生を保護しようというのがまずあって、それに経済的困窮と、ある程度の学業成績との組み合わせで支給するという考え方が一般的でした。しかし、原資の運用や寄付が集まりにくいことから、新しい時代への模索が行われているのが実情です。
 学生の扶養者が学校法人の提携銀行から学費相当の借り入れを行い、学校法人が保証人になるというケースもありますが、これは緊急的な特例処置といえるでしょう。また一般の教育ローンの金利部分を利子補給という形で学校が負担する場合もあります。
 ただ、いずれにしても給付型を除いては利用後には返還を義務づけられているので、利用を躊躇する学生も増加しているのが現状です。
 奨学金に関する学校の規則を読みますと、親の死亡、失業、就業不能等に関して奨学金を認める場合は「家計急変」という文言ですべてを包括していますが、家計急変の中身は家が火事になった場合や地震のような災害もあります。今後はケースに応じて適切にカバーできるような制度を考えていかなければならないでしょう。



【新しく開発された奨学金給付費用保険のコンセプト】

奨学金で学業継続が可能に
学費に限り学校の損失を保険金で

三井海上火災保険(株) 火災新種業務部費用保険グループ 副長 玉村 総二郎氏

 基本的な補償パターンについて、保険請求の要件として以下の二条件のいずれかを満たす必要があります。
 1.学校に通う学生・生徒の扶養者が、けがまたは病気によって生徒の在籍中に死亡ないしは重度後遺症を被った場合。
 2.給与所得者である扶養者が、失業して社会保険、雇用保険の失業給付を受けた場合。
 この二つをトリガー(発動条件)と呼びます。このトリガーが発動して、自分の扶養する学生・生徒が通学を続けることが経済的に困難になった場合に、学校法人が扶養者または学生に奨学金を支給します。これを行うことによって学校に損失が生じますので、その損失を保険金として請求できます。
 主な条件としては「生徒が在学中にトリガーに当てはまるアクシデントに見舞われること」、かつ「学校法人から支払われる奨学金(保険金)の用途は学費に限定されること」となります。
 扶養者が死亡した場合、学校が定める規程により卒業時まで奨学金を給付し続けるということであれば保険契約が続く限り、また学校が奨学金を支払う限り、それを保険金で賄うことができる仕組みです。失業の場合は雇用保険の給付期限が最高でも約一年間(三百日)ですから、一年間を限度にしています。
 少子化の中で「扶養者に万が一のアクシデントがあった場合、当学は最高卒業まで学費を保証します」という付加価値を学校案内等に掲載することによって、入学希望者を増やすことが期待できます。
 また、その他のメリットとして、扶養者のアクシデントが多かったり、少なかったりした場合も、保険の利用によって平準化することが可能となり、安定した奨学金規程の運営ができます。
 三井海上では学校の管理財物を対象とした保険、学校職員への福利厚生制度充実に資する保険、学生生活をサポートする学生向けの保険などとともに新しいニーズに合った保険商品を開発し、損害保険にとどまらず、リスクマネジメント等総合的なサービスを提供することを通じ、学校経営を支援していきたいと思っています。



【就学前のキャンセルに対応する保険】

就学前のキャンセル
入学金返還を保険で補填

ロイヤル・サンアライアンス保険会社 営業企画部長 天野 勝彦氏

 就学前のキャンセルに対応する保険というのは、扶養者が死亡したり勤務先の倒産により失業したため、また、生徒の長期入院や自宅の火災などによって入学金を納めていながら就学を断念せざるを得ないようなケースで、学校側が入学金を返還すると決定した場合は保険で補填しましょうということです。
 いわゆる「奨学金制度」は就学後の学業継続を支援するための制度で、一般的に普及しています。
 一方、現在の社会環境においては、就学前に何かアクシデントが発生して入学そのものが不能になってしまうようなケースも多々起こるようになってきました。このような場合に授業料や入学金を返還するか否かの制度はまだ整備されていません。
 アクシデントがあった場合に入学金を返してくれる学校には信頼性があります。また、条件が整えばもう一度当校に来てくださいということもいえるわけで、事実、専門学校では入学金を値上げできる機会にもなるということもあって、かなりの反響があり、大学・短大でも十分なニーズがあると考えています。
 こうした保険を設計し、普及を図る過程で、多くの学校がクリアな形で就学前のリスクに対する保障を制度化することを提案していきたいと思います。



【保険流通業の活用】

学校のニーズに合わせ
保険流通業者が保険設計

エーオン リスク サービスジャパン(株) 企業保険部 マネージャー 長嶋美穂子氏

 保険流通業という業種は、日本の社会ではまだ定着していませんが、欧米各国では、企業を取り巻くさまざまなリスクを評価し、これを保険その他の形でヘッジする企画・立案と実行を、私どものような保険流通業に依頼するのが通常です。従来日本では、保険会社がつくった保険商品を代理店が売ってきましたが、金融の自由化とともにこのような形態は変化しつつあります。既に企業分野においては、リスクマネージャーと保険流通業者が相談しながら自社のニーズに合った保険を設計し、活用するようになっています。私立学校も学校経営という観点からみれば、一企業として考えられるわけで、これからの法人保険契約は保険流通業を通した流れが確立してくると思います。
 「扶養者に突発的な事故が起きても、授業料などの負担が免除され就学を続けられる機能が大学に備わっている」ということをアピールすることで、受験者数を増やせる可能性が生まれる一方、利用しやすい奨学金制度がない大学は敬遠されるような時代が来ていると思います。
 就学前のキャンセルに関しても、入学金は返還しませんが、授業料部分については全額返還している大学もあります。今後、消費者関係法の改正と相まって、サービス提供(授業を受講する)を受けなかったものに関しては、学費の返還義務が生じる可能性もあります。このようなバランスシート上の増減に関しては保険対応を検討したいという考えもあるでしょう。
 学校ごとに抱える問題はさまざまです。個々の学校のニーズにあった商品を提供することが、我々のような保険流通業の使命と考えています。
 保険という従来のリスク転化方法を中心としながらも、経営レベルからリスクに対して取り組む「攻め」のリスクマネジメントを提供します。









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