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記事2001年7月3日 17号 (5面) 
私立大学の教育改革 (5)
工業英検の活用広島工業大学
英語で科学・技術論文書ける科学者
工業英検活用の工業英語
 理工系の学生は数学やメカには強いが英語に弱いという傾向があるが、国際化時代の今日では、日本の科学者も科学・技術の分野で論文を書く場合、世界中の科学者と同様に英語で書くのが当然という趨勢になり、「私は英語に弱い」などといって済ませられなくなった。
 広島工業大学では英語で科学・技術論文の書ける科学者を育てるために、工業英検を活用した工業英語教育を加沢恒雄教授が中心となって推進し、その実績が就職活動に際して企業からも評価されている。同大学の実践の記録は広島大学高等教育研究開発センターから刊行された高等教育研究叢書67『工業英語教育の理論と実践』の巻頭を飾り、理工系の英語教育に指針を示すものとして注目を浴びている。
 工業英検は日本工業英語協会が毎年五月下旬と十一月下旬に開催しているが、広島工業大学ではその準備学習の導入として、各教師が担当するクラスの学生に対して、授業の時に工業英検やTOEICなどの概要について説明・紹介するほか、加沢教授が責任をもって工業英検学内説明会を春夏に年四回以上開催している。協会からは同検定の案内文やポスターをもらって学内約十カ所に毎回掲示される。
 新入生の中には「工業英語」とか「工業英検」という言葉を聞くのも初めての者が多いので、彼らの不安解消のために協会発行の「工業英検申込書」や諸種の教材を説明会で全員に配り、この検定制度の概要や出題形式、各級のレベルなどを知らせる。またこの検定に合格した先輩たちの体験談や効果的学習法なども話してもらう。勉強方法は主体的な個別学習を基本とするが、教材の使い方や自分に合った学習計画の立て方などを詳しく説明する。過去の工業英検に出題された語彙テストのいくつかをアレンジしたプリントを全員に配付し、五―十分くらいで解答させたのち、答え合わせをしながら、自然に工業英検の入り口まで誘導する。終了後も一人ひとりの質問や相談に応じている。
 工業英検の四級―三級を目指す学生にとっては、協会発行の『工業英語基礎単語三百選ワークブック』をマスターすることが最低限必要なので、このワークブックを教室で次のように活用する。
 (1)まず一、二ページを十五―二十分で各自に解答させる。
 (2)教師が正解と補足説明をしたのち、学生は各自、赤ペンで丸つけと訂正、書き入れをする。一ページに十個ある問題の正解を単に教えるだけでなく、それらに関連した語句や派生語、同意語、反意語を整理してまとめて覚えさせる。これによって基礎単語三百を手掛かりにして学習者のボキャブラリーが飛躍的に増強される。
 (3)発音できない単語は覚えても忘れやすいので、正しい発音を教えてから、学生全員にコーラスで二回以上発音練習させる。

 (4)さらに、そのページに出てきた多義語についてはじっくり辞書を引かせて、その単語の一般的な意味を各自ノートに書き取らせる。例えば「principle」は原理、公理、法律、主義、徳義。「scale」はハカリ、縮尺、物差し、うろこ、歯石、金ごけというように。学生は辞書の使い方に習熟し、じっくりと一つの単語について調べる習慣が形成される。
 (5)最後に学生に現時点での自分の実力や学習到達度を確認させるために得点欄にスコアを記録させる。
 (6)五―六ページ進むごとに復習の時間を設けオーラルの質疑を行い、その際にも学生全員にコーラス練習させる。
 (7)教室で学習した個所は前・後期の各期末試験の出題範囲に含めて、再三再四反復練習させる。
 広島工業大学では工業英語教育用に使い勝手のいい教材の開発にも力を入れており、前記の『基礎単語三百選』をはじめ『やさしい工業英語』『工業英語ワンステップ』など、多くのテキストが加沢教授や白河洋二講師ら同大学教授陣によって作られている。
 工業英検実施の手順は(1)協会から送られた宣伝ポスターによって周知をはかりながら、協会への一括申込締切日に合わせて、学内での申し込み日時を三回に分けて掲示で予告し、受付会場に集合した学生たちに申し込み手順についての説明や受験当日の注意を与えてから、申し込みリストに必要事項を記入させる。
 (2)協会への受験申し込み手続き締切り後、申し込みリストのコピーをとって協会あてに郵送する。毎回、追加申し込みや受験キャンセルが必ずあるので、リストのコピーはぜひ必要である。
 (3)工業英検試験会場として広島工大の教室も使うため、大学当局に対して早くから教室使用願いを出し教室を確保しておく。
 (4)工業英検試験監督助手を一―二人、学生アルバイトとして事前に確保する。
 (5)協会から一括送付された合格認定証を学生に渡す授与式の場を設定し、教員から激励の言葉と祝辞を添えて学生一人ひとりに手渡す。
 学生はこうしたプロセスを経て自分の英語力が保証され、一定レベルまで到達したという自信を獲得することで、その後の学習の継続や他の教科の学習にもプラスの効果が期待される。四年生には履歴書の資格・免許欄に工業英検四級や三級合格と記入できる利点がある。工業英検に合格している学生は企業の面接時に、人事担当者から有望視され評価されているようだと、卒業生は報告している。学内での成績評価や単位認定に際しても、検定合格者は教員の裁量で考量、加味されることは当然だ。
 (広島大学高等教育研究開発センター高等教育研究叢書67『工業英語教育の理論と実践』から抜粋・要約)

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