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記事2001年6月3日 14号 (5面) 
県民の期待は私学教育に
21世紀をリードする伝統と創意
公私共存はどう図られる
少子化と生徒収容対策
「協調」の経過と問題点
安定的な生徒収容計画、学費格差是正を

 平成十二年の神奈川県の調査によると、同県の高校二百六十三校のうち私立高校は七十九校で、私立高校で学んでいる生徒は七万七千四百四十八人。これは県内の全高校生の三四%に当たる。
 少子化が全国的に進むなか、同県でもその傾向が顕著になっており、学校の存続にかかわる厳しい問題を引き起こしている。県内の公立中卒者数はベビーブームを経て昭和六十三年三月の時点でピークに達し、その後急減に反転、平成十八年三月にはボトムを迎えると予測される。その数は六万三千人を切り、実にピーク時の半分になると推計されている。
 このような状況の中で、公立と私立の共存の在り方をあらためて考える必要性があるのではないかこの意識に基づいて平成十三年三月、神奈川県私立中学高等学校協会の生徒収容対策委員会が「少子化と生徒収容対策問題について―神奈川県の「公私共存」の経緯―」をまとめた。

【文部省通知「公私協設置について」と「百校新設計画―急増期対策】
 昭和五十年九月一日、文部省(当時)から生徒急増期対策として、「公私立高等学校協議会」を設置し、公私の役割分担とともに、特に公私立高校の配置計画について十分な協議をするよう通知が出された。
 これを受けて、同県では翌年六月に「神奈川県公私立高等学校協議会」(公私協)が、また五十四年八月には「公私立高等学校設置者会議」が発足した。
 しかし、生徒急増に対しては同県ではすでに県当局の施策として「県立高校百校増設計画」が昭和四十八年から進められていた。私学側も学級や学級定員を増やしたり、施設設備を増やしたりして急増対応に協力した。

【文部省通知「公私協の運営について」―急減期対策】
 昭和五十七年七月三日、文部省(当時)は「公私立高等学校協議会の運営」と題して、「各都道府県においては地域における十五歳人口の動態を十分勘案した上で、公私協調の立場から公私の役割分担、その配置計画、入学定員の問題について公私立高等学校協議会の適切な運営により、十分な協議が行われるよう一層配慮すべき」という、生徒急減期を前にして「公私協」の運営についての通知を出した。神奈川県では「百校計画」が始まって間もなく生徒急減は明らかとなった。
 これに対して私学側は、百校計画によって急減期に高校施設が過剰となる危惧を繰り返し表明した。
 神奈川県私立中学高等学校協会は『高校生徒数急増・急減期における神奈川私学―現状と将来の諸問題―』(昭和五十五年二月・五十七年十一月の二回)を発行、また「百校計画に関連しての要望」(昭和六十年五月十七日)で、生徒急減期において高校施設が過剰にならないことなどを要望した。
 例えば、県立高校をやむなく新設する場合は臨時分校として増設し、将来本分校のいずれかに統合することなどがそのひとつだ。
 さらに昭和六十一年三月には神奈川県私立学校審議会が『これからの私立高校の発展のために』と題して県知事に提言を建議、公私協調の下に将来にわたって生徒収容の安定的で、適切な計画の策定、および公私立学校の学費負担の格差是正などを求めた。

公費支出大きい公立
公教育の一翼を担う私学

【急減期“私立高校収容・最低一万八千人”の「公約」】
 これらの私学側の提言、要望に対して、同県の行政はどのような対応と政策を取ったか。
 昭和六十一年の「公私立設置者会議」は「私立高校の生徒収容を一万九千人から一万八千人の幅で安定的確保を図る」という方策を出している。
 神奈川県では明治、大正、昭和の戦前にそれぞれ十八、十一、二十二校が創設され、“近代私学発祥の地”と称され、日本の教育の先導的な役割を果してきた。「県立高校百校増設計画」前の昭和四十七年には県立六十五校に対して、すでに七十二校の私学が県民子弟の教育に当たってきており、神奈川私学は公教育の大きな一翼を果たしていた。
 このことは同県当局がよく認知していたことであり、当時の県私学担当課も県内の私学が存続していくためには、最低一万八千人の生徒の確保が必要であるとの考えを私学側に示していた。これは「県は県立高校を百校新設するが、急減に対しては私立には迷惑をかけない、公立が対応する」(具体的には公立中卒者の減少を公立高校の定員減で一〇〇%対応すること)という県当局が示していたことを、具体的な数字として表したものだ。
 これは行政の“公約”に他ならない。
 しかし、平成四、五年は公立が前年比で中卒者減少数の九〇%台に当たる定員減を行っていたのが、同六―十一年にはそれが七〇―三〇%台しか“公約”を実行せず、私学が定員割れを起こしている。

 【問題提起―県立高校再編計画と「公私共存」】
 平成十一年、神奈川県教育委員会は統廃合を含む「県立高校改革再編計画」を発表した。統合については平成十二年からの十年間で二十五―三十校の県立高校を減らすという計画だ。しかし、公私の学費格差が縮まらず、私学に学ぶ生徒の保護者への学費軽減が増額されないままでいけば、私学に行きたくても行けず、県立高校三十校を統廃合しても、私学は実に全体で一万人の入学者しか迎えられないシミュレーションも成り立つ。
 “学費の安い”県立高校を減らす必要性は、県立高校の学費が土地、建築、設備などを除く「消費的支出」(多くは人件費)が生徒一人当たりで百十二万円(文部科学省平成十年度調査による全国平均)の公費支出によって賄われている一方で、同県の私学への経常費補助は生徒一人当たり二十三万三千二百円(全国最低)となっている点にある。公私のいずれの保護者、県民も教育費負担の公私間格差の不平等感を抱くはずだ。
 私学は「『自主性』を重んじ、『公共性』を高める」(私立学校法第一条)ことによって、次代を担う子供の育成という「公教育」の大きな一翼を担ってきたが、その認識が行政当局と議会には弱く、「公私立高等学校協議会」の精神である私学も含めた神奈川の教育の在り方を考えるという意識を強く持とうとしないことに問題の根がある。
 県民の意識調査(平成九年)では、県立高校に比し私立高校の評価は四倍高い数値となっているが、公立と私立との学費の大きな格差により、学校選択の自由が大きく制限されていること、少子化の中で私学という民間活力の活用も視点にした公私の役割分担など、中・長期的な生徒収容対策計画が急がれる。





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