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記事2001年6月13日 15号 (6面) 
米国におけるe-Learning
(株)日本スクールシステム機構 情報教育コンサルタントグループマネージャー 竹内 白
教室中心から生徒中心へ教育形態が変わる
学習管理システムすでに開発
e―Learning普及の背景

 米国議会は一九九八年にWeb‐Based Education Commission(注1)を設立し、pre―K、K―12、post‐secondaryなどの各レベルにおけるe―Learningの可能性と問題点の調査を開始した。
 同委員会が二〇〇〇年十二月に議会および大統領あてに提出した最終レポート(注2)では、インターネットにより、「教室中心ではなく、生徒中心の学習が可能」「個々の生徒の特徴、ニーズに焦点を絞った指導が可能」「生涯学習が現実のものになる」など、教育の形態が変わることについては疑問の余地はないものの、デジタルデバイドの助長、指導者への教育の問題、コンテンツの品質、普及の妨げになる法律・規制、学習者のプライバシーの問題など、懸念事項が多いことも明らかであり、(1)ブロードバンドアクセスの機会均等化(2)良質なコンテンツ、システムへの投資などが必要であることを強力に説いた。
 これに呼応し、企業教育を含めた教育界でのe―Learning推進は、国家的ムーブメントとなってきている。
 一方、米国防総省の下部組織であるAICCやIMS、IEEEなどの各団体はe―Learningで利用されるコンテンツの標準化およびその結果としての学習コンテンツの流動性、再使用性向上をめざし、SCORM(注3)を提唱している。
 この動きは緒についたばかりではあるが、良質なコンテンツの生成、利用に大きく貢献することは間違いないとみられており、すでにいくつかの学習管理システム(LMS)、学習コンテンツ(Learning course)作成会社が、SCORM準拠の製品を開発することをアナウンスしている。
 このようにe―Learningへの取り組み方が、日本に比べはるかに進んでいる米国において、主に大学での普及の実態と今後の方向性を米国TPI社(注4)の新事業を通してまとめた。

米国TPI社の大学間遠隔教育ブローカービジネス

72%の大学が遠隔教育コース提供
単位認定コースは6000に

 前出の委員会レポートによると、現在全米で七二%の大学がウェブによる遠隔教育コースを提供しており、それらの大学が単位認定しているコース数は六千に上るという。
 また、遠隔教育を受講する学生数は、一九九八年時点の七十一万人から、教育のボーダーレス化も見込んで二〇〇二年には二百二十万人に達すると予想されている。
 しかし、良質なe―Learningコースの作成には多くの費用・人材が必要であり、一部の有名大学を除き、大学は必要なコースすべてを自家製で賄うことができないのが現状である。
 従って、各大学で作成したコースを、コーチ・インストラクターによるフォローアップをする機能を含めて流通させる市場が必要となる。
 一方、大学はセールス・マーケティングの機能・組織が十分でなく、自家製コースを他の大学に斡旋紹介し、授業料の何割かを回収するような契約を結ぶことが不可能であることから、せっかくある多くのコースがこれを作成した大学内での利用にとどまり、同様のコースを必要とする大学または学生に届けられていない。

大学企業学習コンテンツ大学へ提供

 TPI社は自社のユニークな自己改革プログラム(注5)を全米の大学に紹介する過程で、上記の問題点にいち早く気づき、図1に示すようなブローカービジネスを手がけて、成功を収めている。すなわち、全米の大学で作成された優秀なe―Learningコースを、コース作成元になり代わり別の大学に紹介し、教材・インストラクターサービスの配布とその対価の支払いが円滑に運ぶように調整することにより、マージンを得るビジネスである。
 TPI社は、複数の大学、企業から二千五百コース(注6)の学習コンテンツを得てライブラリー化し、二十以上の大学に提供する契約を結んでいる。TPI社のジャック・フィトラー社長は、現在このようなビジネスを米国で展開しているのはTPI社だけであり、今後数年で一億ドル規模のビジネスになり得ると見込んでいる。

 (注1)合衆国議会の設立による、インターネットを教育分野で使用する際のポリシーと教育学的問題点を探るコミッション。委員は議会のリーダーと教育・技術分野の専門家で構成され、インターネット学習に関する将来展望を実行するためのパブリックポリシーを推奨する役割を与えられている。
 (注2)The Power of the Internet for Learning
 (注3)Sharable Content ObJect Reference Model
 (注4)The Pacific Institute inc.本社シアトル
 (注5)Thought Pattern for Successful Career:
 (注6)リスト1「コース例」参照(次号に掲載)





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