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記事2001年6月13日 15号 (3面) 
要請高まる「食」の専門職養成 日本フードスペシャリスト協会
資格認定試験実施、2800人のフードスペシャリストを世に
消費者ニーズの多様化に対応
幅広い職域での活躍
 新しい「食」の専門職である、フードスペシャリストを養成する大学・短期大学でつくる「日本フードスペシャリスト協会」(田村真八郎会長=元農林水産省食品総合研究所長)は、これまでに二回の資格認定試験を行い、約二千八百人のフードスペシャリストを世に送り出した。同協会ではこの資格制度の充実を図り、フードスペシャリストの果たす役割を広く社会に知ってもらうために、さまざまな活動を展開している。

【どういう資格か】

 これまで食品の生産や加工の分野では確かな知識や技術を持つ数多くの専門家が存在していたが、流通や販売といった消費者により近い位置には専門家がほとんど存在せず、わずかに栄養士が栄養面から栄養管理を行っているだけだった。食品の生産から消費へと至る流れの中で、生産者側が大きな比重を占めてきたからだ。しかし、近年、消費者のニーズが多様化・高度化し、食品や食べ物に対する安全志向、健康志向が強まるなど、より豊かな食生活を求めるようになってきた。こうした時代の変化を受けて、いわば消費者サイドに立った流通・消費分野における「食」の専門職として誕生したのがフードスペシャリストだ。
 フードスペシャリストは、食品の官能評価・鑑別など「食」に関する高度な専門知識・技術を持ち、▽食べ物や食生活について流通・販売者と消費者に的確な情報を提供する▽レストランなどで快適な飲食ができるよう食空間をコーディネートする▽「食」に関する消費者のクレームを処理できる専門職に与えられる資格である。認定は日本フードスペシャリスト協会が行う。
 平成十一年に協会が実施した第一回の資格認定試験では五百一人(合格率九三・五%)、昨年の第二回試験では二千三百三十二人(同九一・四%)がフードスペシャリスト資格を手にしている。

【活動分野】

 フードスペシャリストが活躍を期待されている職域は幅広く、流通、販売、ホテル・レストラン、消費者センターなどが挙げられる。それぞれの分野における具体的な業務は次のように想定される。
 (1)卸売店・卸売市場など流通の分野=食品の需給調査と情報収集。食品の鮮度・熟度検査、官能検査など品質調査の実施。食品の衛生管理と保管方法における助言。
 (2)デパート、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなどの販売の分野=販売員を対象として、食品の流通状態と品質に関する情報の提供。食品の衛生管理と陳列の助言。科学的な根拠に基づく食品の栄養価、機能性、嗜好性、安全性に関する教育。顧客を対象とした、食品の種類・品質の選定助言と栄養・安全性に関する説明。食品ごとにふさわしい調理法と、出来上がった料理の嗜好年代層、慢性疾病に対する適・不適、付け合わせ料理・飲み物などのアドバイス。食品商品のクレーム処理。
 (3)ホテル、レストランなどの飲食の分野=調理担当者に新しい調理システム、メニュープランニングを助言、メニューのレイアウト。来客の飲食嗜好を聞き、注文料理選定の助言。テーブル・食器の選定、食空間・食環境を整備し、料理の出来上がりのタイミングなどに配慮して客に快適な食事を提供。客の希望によるテーブルマナーの指導。従業員にサービスや食品材料の科学的知識や料理の歴史的伝承の教育。これら飲食店の総合的なコーディネート。
 (4)消費者センター=消費生活、特に食に関するアドバイス。有害微生物、有害添加物の混入有無の検査。食に関するクレームを受け付け、メーカーや生産者への問題提起。市販されている食品の調査。

協会加盟の大学、短大で養成

 フードスペシャリストの養成は、日本フードスペシャリスト協会から、専門職としての教育に沿うべき教員組織、教育課程、施設設備などを整えていると認められた大学・短期大学で行われている。
 現在、協会が認定した大学は二十校、短期大学は百校。フードスペシャリストを目指す人はこれらの大学、短期大学の養成課程で上記の表のような必修科目と選択科目とを学ぶことが条件となる。
 必修科目二十一単位以上(見込みを含む)を修得すれば、日本フードスペシャリスト協会が実施する認定試験を受験する。認定試験は認定大学に委託して、受講生の卒業年度に毎年一回実施されている。この試験に合格すると、在籍している大学や短期大学の卒業を要件として、フードスペシャリスト資格認定証が交付される。

【協会の活動】

食と食生活の向上へ
養成課程研修会開く8月23日24日に

 日本フードスペシャリスト協会は一九九六年十二月、流通や消費の分野で活躍できる人材=フードスペシャリストの養成が求められているとして、食に関する研究者、教育者、実務者の有志が発起人となり、設立された。「食」に関する高度の専門知識と技術を持つフードスペシャリストの養成に努めるとともに、会員校相互の連携を図り、わが国の食と食生活の向上に貢献することを目的としている。事業内容は(1)フードスペシャリスト養成機関の認定(2)フードスペシャリスト資格認定証の発行(3)フードスペシャリスト養成のための教科内容の研究・助言(4)フードスペシャリストに関する資料の収集、会報の発行(5)研究発表会、研修会、見学会の開催などである。
 協会では六月十九日に東京・芝の東京グランドホテルで第三回総会を開く。平成十二年度事業報告に続いて、十三年度事業計画、十三年度フードスペシャリスト資格認定試験実施要領、第二回フードスペシャリスト養成課程研修会開催案について協議。役員改選も行う。次いで田村真八郎会長から「遺伝子組み換え食品」について講演がある。
 第二回フードスペシャリスト養成課程研修会については総会の協議事項の一つになっているが、実施要領案では、八月二十三、二十四の両日、茨城県つくば市の独立行政法人食品総合研究所で開かれることになっている。フードスペシャリストの活躍の場が流通や外食産業など消費者に近い業種であり、食品の品質の鑑別・検査に関する知識と技術が求められることから、「食品の官能評価・鑑別」をテーマとした研修会となる。初日は大坪研一・食品総合研究所穀類特性研究室長が「米の品種鑑定」、山口静子・東京農業大学教授が「官能検査の基本事項」、鈴木建夫・食品総合研究所理事長が「21世紀食生活のキーワードは『快適性』」と題してそれぞれ講演。その後、会場である同食品総合研究所を見学する。
 二日目は社団法人食品科学工業会長である筬島豊・九州女子大学長が「食品分析の現状と課題」と通して講演。質疑応答の後、閉会となる。



【昨年のフードスペシャリスト養成課程研修会報告】

 日本フードスペシャリスト協会は昨年八月二十四、二十五の両日、千葉県松戸市の聖徳大学で第一回フードスペシャリスト養成課程研修会を開いた。「フードコーディネート」をテーマにしたこの研修会では、講演や事例報告が行われたが、林淳三・日本フードスペシャリスト協会副会長の講演「フードスペシャリストの業務と展望」と、川端晶子・東京農業大学名誉教授の講演「食のアメニティフードコーディネートの基本理念」の要旨をそれぞれ報告する。

流通・販売分野の食の専門職
食環境をコーディネート

業務と展望 林淳三氏講演要旨

 フードスペシャリストという資格は、食品の流通・販売部門に専門的知識を身につけた人がその良否を識別する、あるいは販売者や消費者の指導、助言をするという職業が存在する必要があることからつくられたと理解していただきたい。飲食の場においても食環境をコーディネートする専門職の存在が食文化が栄えるとともに必要ではないだろうか。それがフードスペシャリストであると思う。われわれが養成を目指すフードスペシャリストは技能職ではなくてあくまでも専門職。すなわち技術、基礎知識を持ち、専門的な対応ができる専門職である。この専門職には、やはりそれだけの知識がなければならない。従って、基礎知識から出発、学習し、食品の流通・消費段階において食品の官能検査・鑑別およびコーディネートを確かにし得る人をフードスペシャリストとして位置づけるものである。
 栄養士とフードスペシャリストとはどう違うのか。栄養士は人体のことについてよく理解し、それがどのように体の健康に役立つかという、臨床栄養を中心にした職業であると医師側から強い要請がある。しかし、栄養士という職業は食品・栄養・調理などの知識のもとにあくまでも栄養を指導することが職業的本質ではないだろうか。
 そこで問題となるのは、食品の質の問題、おいしさの問題をどう評価するかである。その食品自体の流通機構、販売に至るまでを技術的にどのようにカバーするか。それもおいしいものを顧客に選んであげる。あるいはそれに合うお酒でもワインなどでも選定してあげる。これはコーディネートすることになる。そういうことの専門家はやはり必要ではないだろうか。それがフードスペシャリストであり、栄養士のように健康などを保持する栄養指導と違いを持っている。栄養士が単に栄養指導する場合、食品自体をよい選択できれば素晴らしい栄養指導ができる。フードスペシャリストは指導もさることながら、食品自体の鑑別検査をして、食品を選ぶこと、あるいは食環境を整えることがあれば望ましい。
 従って、フードスペシャリスト課程と栄養士課程を一緒に学ぶとすると、栄養士課程で患者に食事をしてもらう場合に、単に栄養価に配慮するだけでなく、おいしいもの、いい食品を選ぶことが重要なことだ。そこに、栄養士プラスフードスペシャリストが存在すれば、ますますもっておいしい食品を栄養指導によって提供することができる。
 フードスペシャリストの今後の在り方、すなわち協会の今後の進め方は次の三つの方向が必要だろう。一つは、食品業界でフードスペシャリストの資格の認知をしていただくための広報活動。
 もう一つは、協会加盟校の中には四年制大学と短期大学があるが、若干グレードを付ける必要があるのではないだろうか。すなわち今のフードスペシャリストよりもより上級のフードスペシャリストの制度をつくる。四年制大学を出た人はより高度なフードスペシャリストになれるようにする。短大を出た人も経験年数を経て、その上位に挑戦できるようにしていく。
 三番目は日本フードスペシャリスト協会の法人化。法人化をして農林水産省の後援を得て、協会としてもはっきりした形をとる方向で進めている。

古典、食の思想を学び
教育課程の中で感性磨く

食のアメニティ 川端晶子氏講演要旨

 アメニティというキーワードは主に環境問題でいろいろいわれてきているが、フードコーディネートをするときの基本理念は食のアメニティということになる。愛と生命の交錯するところにアメニティが生まれる。テーブルコーディネートをする場合でもメニュープランニングを立てる場合でも、小手先だけの仕事にならないように愛と生命の接点ということで、アメニティの雰囲気を出すように考えなければならない。
 栄養学を主と考えた食の営みは生理的な意義を満足させるものだが、食の文化の背景、すなわちフードコーディネートの場合は精神的な意義を重視しなければならない。フードスペシャリストとしての優秀な学生を育てようと考えた時に人類の古典を学ぶことに目を向ける必要があると思う。立派な古典を全部やるのではなく、教える先生方が自分はこれでやるという自信をもってテーマを選んでいただければいいのではないか。フードコーディネートの心の問題にも相通ずるものである。
 おいしく食べるということは文化現象の一つであり、どういう食べ方をするかはそれぞれの地域や民族によって異なっている。食習慣を形成する過程でその背景となっているのが、食の思想である。「食の思想を学ぼう」というのがフードスペシャリスト、その一つの業務であるフードコーディネートの基本理念になる。
 西洋と東洋の食文化を比較して特徴的なキーワードを挙げると何か。一つは西洋的な食の思想、これが「美味礼讃」である。おいしさを誇張的に表現し、また会話を楽しみながら食生活を営んでいる。その対極にあるのが「無味礼讃」であり、東洋的な食の思想である。「無味」というのは、道元の『典座教訓』の中の六味の一つに淡い味というのがあるが、これは無味に通じるもので、余分な味付けをしないで、食材そのままの味を味わうということだ。無味の味わいの中に絶えず広がりゆくもの、尽きることのない源泉へと遡っていくものがあり、豊かな潜在性を秘めた世界があるという考え方である。世界の食文化を学ぶとき、その根底にある食の思想を無視するわけにはいかないことを痛感する。
 食卓を中心としたアメニティはどのようにして醸し出されるのだろうか。その要因を分析すると、食べ物の状態と食べる側の状態のかかわり合いから生じるものであるといえる。食のアメニティは生理的・感覚的なものを不可欠な媒体とするが、そこを超えて知的・文化的な次元において成立するものだといえる。
 感性はフードコーディネートでいちばん大切な人間側の素養だと思う。食と感覚、食の科学性と芸術性、食の創造と演出をどうするかということだ。感性を磨くことも教育課程の中に取り込んでいただきたい。
 感性を磨く一例としてフランスの小学校における「味覚週間」を紹介する。フランスでは一九八九年、国立食文化評議会が設立され、食文化の保護と啓蒙に国がこぞって取り組んでいる。味覚が平準化し、繊細な味覚が損なわれているということだ。教育的な重要性が叫ばれ、味覚啓蒙計画が実施されている。味覚への目覚めによって子どもたちは知性と批判精神を発達させ、人と共にする食事、食事を中心とした心の交流を学び、望ましい食事の習慣を身につける。この味覚啓蒙活動は社会的・教育的背景の下で行われ、子どもたちの味覚の向上とともに、自分以外の人々についても学び、食文化と社会の役割についての自覚を高めている。





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