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記事2001年5月3日 12号 (4面) 
教育政策上私学振興の位置づけが問題
動き出した中教審に高い関心
公立学校を中心に機能不全を起こしつつある学校教育の抜本的な改革を目指して、大胆な教育改革が中央教育審議会を中心に進められようとしている。そこで中教審の今後の改革の方向性と、昨年末活動を停止、中教審に活動の場を移した高等教育改革の行方をまとめてみた。(編集部)

教免制度の見直し
奉仕活動の推進など本格討議

 四月二十六日に誕生した小泉新総理は我が国全般の構造改革を内閣の最優先課題に掲げ、変革に反対する勢力にも臆せず、改革を断行する方針を打ち上げた。
 聖域なき構造改革では教育も例外ではない。今後、遠山敦子・文部科学相の下で教育基本法や教員免許制度、大学設置認可の在り方など教育・研究の在り方が見直されることになる。
 しかしこうした抜本的な、これまでの文部省からすると驚くほど急激な改革は、故小渕元総理が昨年三月、教育改革国民会議(座長=江崎玲於奈・茨城県科学技術振興財団理事長)を設置したころから既に顕著に表われるようになった。規制緩和の流れが教育改革を加速させた面もあるが、文部科学省自身がかつて臨教審時代に指摘されたように政策官庁への脱皮を図っているように見える。
 総理大臣の私的諮問機関として発足した教育改革国民会議は、これまでうやむやとなっていた問題についても議論の俎上にのせ、これまでの教育改革論議から一歩踏みだした議論を展開、国民にその是非の検討を求めた。国民的論議をまき起こしたとはいえないが、「学校は道徳を教えることをためらわない」「奉仕活動を全員が行うようにする」「教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる」「問題を起こす子どもへの教育をあいまいにしない」など、うやむやとなっていた問題にはっきりとした姿勢を打ち出した。さまざまな審議会が教育改革を次々提言するものの実効が上がらないままでは、教育システムが時代の流れから取り残されるとの強い危機感が「できることは直ちに実行し、失敗を恐れず必要な改革を勇気を持って実行する。しかもスピーディーに」という方向に向かわせた。
 昨年十二月に同会議の最終報告を受けた文部科学省では、今年に入って一月二十五日に「二十一世紀教育新生プラン学校、家庭、地域の新生〜学校がよくなる、教育が変わる〜」を発表、同省の主要施策とタイムスケジュールを発表、後戻りできない改革の実施を宣言した。またその後、最終報告を具体化するための教育改革関連法案を国会に提出、さらに教育改革国民会議で指摘された事柄の中から青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策や教員免許制度等の問題について議論を深めるため二月一日には中央教育審議会が初の総会を開き活動を始めた。
 この間、町村文科相(当時)は、スピーディーな改革の必要性を再三にわたって強調、歴代の文相にもまして教育改革への強い意気込みを示した。中央教育審議会はこれまでも文部省の重要政策について文部大臣の諮問に応え検討を行う審議会だったが、今年一月の中央省庁の再編に伴って、大学審議会、生涯学習審議会、教育課程審議会、教育職員養成審議会、保健体育審議会、理科教育及び産業教育審議会の六つの審議会を吸収合併、これまで以上に“守備範囲”の広い審議会に生まれ変わった。
 ただし審議会内には(1)教育制度分科会(2)生涯学習分科会(3)初等中等教育分科会(4)大学分科会(5)スポーツ・青少年分科会の五分科会が設けられ専門的な審議は分科会が中心となって行うスタイルを採用した。
 二月二十八日に開かれた中教審の第二回総会では、今後の検討課題として八項目の課題と実施スケジュールが同省から公表された。
 その八項目というのは(1)新しい時代における教養教育のあり方(平成十三年度中に答申)(2)奉仕活動の充実方策(平成十三年度中を目途に取りまとめ)(3)教員免許制度のあり方(平成十三年度中を目途に取りまとめ)(4)教育基本法の見直し・教育振興基本計画(5)高等教育の国際競争力の更なる充実方策等(議論の熟したものから逐次報告・答申)(6)子供の体力向上方策(平成十三年度中を目途に取りまとめ)(7)新しいタイプの学校(平成十三年度中に議論)(8)年齢とともに学年進行する方式の見直し(平成十三年度中に議論)。
 教育基本法の見直し・教育振興基本計画に関しては審議や答申の予定等が明らかにされなかった。

教育基本法、教育振興基本計画
重要課題の諮問も

 その後、自民党の総裁選ムードが高まる中、四月十一日に開かれた中教審の第四回総会では町村文科相から四項目が諮問された。
 その四項目というのは、(1)青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等(2)今後の教員免許制度のあり方(3)今後の高等教育改革の推進方策(4)子供の体力向上のための総合的な方策で、おおむね一年以内に答申の予定だ。ただし高等教育に関しては審議がまとまったものから逐次答申の予定のため、一年を超える審議も予想される。
 こうした諮問を受けて教育制度分科会は、前期中教審から“宿題”として残っていた新しい時代における教養教育の在り方を、生涯学習分科会では青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策を、初等中等教育分科会では今後の教員免許制度の在り方を、スポーツ・青少年分科会では子どもの体力向上のための総合的方策を検討していくことになる。
 大学分科会については四月末までの時点でまだ初会合が開かれていないため、諮問事項のうち何を優先して審議していくか未定だ。
 これまでに比べて一歩踏み出した教育改革だけに、奉仕活動では高校を終えた十八歳後の青年に奉仕活動を行わせる仕組みをどう作るのか、教員免許制度では免許更新制の可能性を検討することにしているが、文部事務次官を務めた委員が指摘するように果たして公務員制度の中でそうしたことが可能なのか、など難しい問題もある。今後、中教審ではすでに諮問のあった事項の審議が進められることになるが、検討課題として残っている教育基本法の見直し・教育振興基本計画づくりについては、新たに諮問される予定だ。現在、省内で検討が続けられており、議論が煮詰まりしだい、中教審に諮問される。諮問時期は現在未定だ。
 そのほか加齢とともに学年が進行する方式については、省内で検討した内容を中教審に示し、さらに中教審で議論する予定。またチャータースクールやコミュニティスクールなど新しいタイプの学校の創設に関しては、これも省内で議論したのち、中教審に意見を聞く予定。さらに国立大学の独立行政法人化問題については、今秋に同省の調査検討会議が審議の中間的なとりまとめを行うため、その後、同省では中教審に報告、議論を要請する予定だ。
 このうち教育振興基本計画については、科学技術基本計画などを考えると、策定後少なくとも五年程度の振興計画や必要な予算総額などが定められる見通し。
 その中で文部科学省は私学振興を教育政策上どのように位置付け、予算上はどのような扱いとするのか、私学関係者の関心は高い。
 ただし小泉内閣の塩川正十郎・財務大臣は就任後、平成十四年度政府予算の一般歳出を今年度に比べて数兆円程度削減する方針との報道もあり、教育振興基本計画にとって厳しい環境となりそうだ。





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