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記事2001年5月3日 12号 (3面) 
私立大学の教育改革 (4)
環境管理システムを構築 ―武蔵工大環境情報学部
キャンパスの環境保全に学生委員会活躍
ゴミ削減・省エネ実践教育
 武蔵工業大学の環境情報学部(小沼通二学部長)は「キャンパス生活の中に国際規格の環境管理システムを構築することで生きた環境教育をしている」という国際的な認証を世界中の大学の中で初めて受けたが、この運動は教職員だけでなく学生から常駐業者まで学部キャンパスの構成員全部を巻き込んで、組織的に実践されていることが注目を浴びている。
 武蔵工大環境情報学部が国際的認証を受けたのは「ISO14001」という名前の規格である。日本国内で知られているJIS(日本工業規格)を含めて世界中の工業製品の標準的規格をリードする世界的な総元締めの国際標準化機構(International Organization for Standa‐
rdization)が制定している。同機構は電気製品を除くあらゆる工業製品に国際的な標準規格を設けて品質保証しているが、数が多いので規格ごとの番号を打っている。もともとは工業製品だけが対象だったが、地球の環境汚染問題が深刻に懸念されるようになり、「物をつくって売るだけでなく、その結果が地球の資源を枯渇させたり、汚染物質となって人類の生存を脅かすことにならないよう、資源を循環させて持続可能な地球を守ろう」ということで“環境問題”にまで手を広げた。ISO14001は「環境マネジメント」に関する規格である。日本のJIS規格にも九六年に取り入れられた14000番台のこれに続く番号の文書は環境関連の規格である。工業製品の素材採取から製造、流通、使用、回収、再利用、廃棄の全ライフサイクルを分析し、二酸化炭素をどれくらい出すか、水をどのくらい使うか、温暖化をもたらすか、酸性雨を出さないかといった環境影響評価の結果に基づいて環境を適正に維持・管理するための標準規格を次々に定め、これまではメーカー系の工場でこうした認証を受けようとすることが多かったが、武蔵工大では「環境教育を標榜する学部である以上、環境浄化を守るための実践が必要であり、実物教育の方が黒板に書くだけの教育よりもずっと効果があるはずだ」という考えでISO14001の認証を受けることにした。そのためのワーキンググループを教授会の下に結成、「地球・地域の環境保全のための教育と活動を展開する。具体的にはキャンパス内の環境汚染防止、省資源・省エネルギー、廃棄物削減、環境へのプラスの貢献の拡大などに教職員、学生、常駐業者一体となって取り組む」という環境方針を立て、九七年十一月に認証を申請した。審査は厳格だった。「……しなければならない」といったハードルが五十二カ所もあり、十回以上書き直した後にようやく九八年十月に合格し認証を取得した。それまでに大学でこの認証を受けたのは他にどこかあるのか、かなり調べたが、国外にも前例は見つからなかった。ただし、この認証は一回取ったらそれで終わりではない。維持するためには第三者による環境監査を毎年受け、さらに三年ごとに更新審査も受けなければならない。また教職員だけでなく学生や出入り業者も構成員としてこの規格を守ることにしたために、審査員がキャンパス内の学生を任意に質問しても学生が受け答えできる状態にしておかなければならなかった。こうして全学部体制は出来上がった。

 学生の中にISO学生委員会が組織され、その下に省資源、省エネルギー、環境管理、環境教育の四部会が置かれた。教授会も四つの部会を設けて全員が分担して担当しており、学生組織の四部会はそれをサポートする立場で運動に取り組んでいる。運動は(1)企画・立案(2)実行(3)点検(4)見直しの繰り返しで次第に高度の環境保全へ近づくことをめざしている。
 認証取得後三年目の今年、キャンパスの環境はどうなっているのか。
 ゴミは燃えるゴミ、燃やせないゴミ、ビン、アルミ缶、スチール缶、ペットボトル、吸殻の七つに分別する資源回収箱を省資源部会が設置した。回収をすすめ空き缶・空きビンはリサイクル業者に引き取ってもらっている。残った燃えるゴミは二段階焼却炉で煙を出さず完全燃焼させて処分する。焼却炉は一・六トンのゴミがたまらないと燃やさないが、一年目には毎月燃やしていたゴミが、二年目にはゴミ焼却がほとんどなくなったことが分かった。二年目は一年目より学生数が増えたにもかかわらず、出すゴミが極端に減ったことを別図は示している。食堂の生ゴミは肥料化を進め、衛生局の品質検査を受けたら合格したため、キャンパス内の樹木用に使い、残りは業者に売っている。売店で売る紙、鉛筆、ボールペンは再生品。平成十年度と十一年度を比較すると、学年進行によって一学年分の学生数が増えたにもかかわらずゴミの廃棄量は減少し、資源化率は八〇%から九二%へ高まった。

 このキャンパスでは省エネルギーにも力を入れている。雨水は水槽にためてキャンパス内の樹木に散水するほか、夏の暑い日には体育館の屋根に散水して涼しくする。体育館の屋根にはソーラーパネルを設け、太陽エネルギーにより温水シャワーを利用する。教室や研究室の電灯照明は窓から得られる自然光をセンサーが感知して窓側の点滅を自動的に行う。本館ロビーや食堂は自然光の採り入れや通風を効果的に行って電灯や空調の無駄を省いている。各棟北側の窓は断熱ガラスなどの二重構造で夏は涼しさ、冬は暖かさが逃げにくくしてある。
 トイレは人がいない時には電灯を消してほしいというお願い文を張り、消し忘れに気づいたらその時刻を記入する表がスイッチのところにつるしてあるので、それを見て消灯して出ていく人が多い。テニスコートの夜間照明はあれだけ必要かどうかと省エネルギー部会が実験した結果、十分プレーできることが分かったとして二十四個の照明を半分に減らした。
 新入生には二年生がこうした取り組みを説明し、慣行として引き継がれていく流れができた。学生の自宅生活でも省エネルギーの意識は高まって電気代節約などにつながっている。今年は環境情報学部初の卒業生が出たが、就職率は九九%と好調。情報系企業の採用が多いが「今後は環境分野ももっと広がるでしょう」と小沼学部長は言っている。




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