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全私学新聞

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記事2001年5月23日 13号 (5面) 
私立大学の教育改革 (5)
全学共通カリキュラム
立教大全カリ運営センター
外国語教育の改革
全カリ運営センターが力を

 立教大学が二〇〇〇年十月現在の在籍学生に対して行った大学環境調査結果の中に四年前と比べてひときわ目につく項目がある。「言語教育が充実している」とみる学生の意識が驚異的な伸び(別図)を示している。この四年間にいったい何が起こったのか。
 九一年に設置基準大綱化が行われた時、それまで設置基準によって単位数まで厳密に規制されていた一般教育科目と専門教育科目の区分を廃止し、一般教育担当部局を解散する教育改革が多くの大学で行われた。
 立教大学でも同じだった。教員組織の面では一般教育部が廃止され、代わって教養教育に責任を持つ部局として、全学共通カリキュラム(全カリ)運営センターが九四年に発足した。一般教育部に所属していた人文・社会・自然三分野の教員は九五年から、スポーツと外国語の教員も九八年から専門学部に分属した。
 教育内容の面で全カリ運営センターが最も力を入れたのは、まず外国語教育の改革だった。
 「語学の立教」といわれながら、内部では語学教育に対する批判が強かった。難関入試を突破してきた高い語学力を持つ学生なのに、入学後の語学力がかえって低下するのはなぜかと専門学部から苦情が出たり、学生からは「外国語の読み書きだけでなく話す能力を身につけたい」という要望が出ている。
 しかしこの要望に応える教育の実施は、さほど簡単ではない。例えばシェークスピアの文学を研究している教員は自分の研究内容をテーマにしてテキストもそれに関連したものを学生に使わせ読んで訳すことを主体とした英語授業を行う。各教員の授業の間に何の連携もない。
 学生に不満はあっても、「必修」という制度に守られた競争のない世界では、不満をくみ上げてサービスする制度改革へとはつながらなかった。
 実際に使える外国語能力を高めたいという学生の要望に応えるための改革実施の拠点それが全カリ運営センターに与えられた使命だった。
 同センターの運営委員会の下に言語教育科目担当部会が置かれ、その下に各語学の教育研究室が置かれたが、研究室メンバーの多くはトップダウン方式で改革への意欲を持つ人が指名された。読み書きより話し聞く能力に重点を置いた改革を九七年から行うために、それに応じた教員人事を行う準備段階として、何年間かは退職した語学教員の補充は行わず空白にしておかれた。
 九七年からの全カリ実施に際して、英語教育教授法を専門的に学んできた人たちを一挙に採用してその空白人事枠を埋めた。
 テレビで同時通訳として知られた鳥飼玖美子さんもこの時採用された教授の一人である。これらの人たちはすべて言語教育科目担当部会のメンバーに繰り入れられた。

話せる外国語目指す

 九七年から話せる外国語を目指す言語教育改革が全面的にスタート。立教の言語の授業は英語ともう一言語の二カ国語が必修だが、文学部の英語を例にとると、従来二年間で計八単位必修としていたのを一年次に集中させ、週四回の英語必修授業で八単位修得させることにした。週四回の授業のうち二回を核となる授業と位置づけ、これをペアクラスと名付けて同じ教員が担当することにした。テキストは速読能力強化のためにすべての学部で一年次共通の統一テキストを使うことにした。
 統一テキストは使いやすいものを独自に研究開発し、現在は「インフォーメーション・プリーズ」というテキストを使っている。テキストが同じならテストもシラバスも統一できるわけである。
 三千人以上の新入生全員に入学式前日にプレースメント・テストを実施し、習熟度別にクラスを編成するとともに、「言語文化」とか「コミュニカティブ」といったコースの希望を調査してコース分けする。留学経験者のような成績上位者には一年次必修英語は免除し二年次以上のインテンシブ・レベルの履修を認める。インテンシブ・レベルの修了者は外国へ留学して専門の授業を受けられる能力を保証されたものとして人気が高まっている。
 週二回の授業がレベル分けで行われるため、例えば八百人近い文学部一年生の英語の授業は水曜の五・六時限と金曜の三・四時限というように、全部を同じ日にそろえ、その中でレベルを分けなければならない。非常勤講師は週一回が基本であるため、指定された曜日と時間に週二回以上出校できる教員を非常勤で相当数確保することは不可能である。しかし多数の専任の増員が認められるはずもない。そこで全カリ英語教育研究室が中心となって嘱託講師制度を提案した。嘱託講師とは言語教育のための教員を一年契約によって最長五年まで採用する制度である。専任職を持たない言語教員たちが多く、いくつかの大学の非常勤講師を兼任しながら研究生活を送っている事実がある以上、こうした人たちのうちで立教大学に非常勤の口を集約してくれる人については、異なる大学で同じコマ数を兼任するより多少は有利な条件を提供するという契約制の専任教員であり、欧米などでは語学教員としてはごく普通に見られる雇用形態である。立教では九六年三月、この制度の設置が承認された。

嘱託講師が言語教育に大きな役割

 実施されると非常に良い結果をもたらした。嘱託講師は積極的に授業に取り組み、学生にも慕われている。いつも授業の工夫の仕方を議論している。始業のベルが鳴るとともに教室に入っている。カリキュラム全体の牽引車となり、教授陣のグレードアップにつながった。嘱託講師が所属する組織はランゲージセンターといい、全カリ運営センターと連絡を密に取りながら立教大学の言語教育に大きい役割を果たしている。他大学から請われて立教を去る人も多くなった。
 LL教室も整備された。ペアクラスの授業では、学生は統一テキストを見ながらビデオをヘッドホンで聴いて練習する。ビデオは速読のスピードの早い方から遅い方まで四本があって四本とも機械に組み込まれ、学生は自分の会話能力に応じた速さのビデオを選択して練習できる。学生がどのレベルのビデオを選んで練習しているかは色分けして教員の手元の表示盤に映し出される。それを見ながら嘱託講師のネイティブ教員が学生を指名して話させたりレクチャーするといった授業風景が展開されている。
 最近、重要な手直しが行われた。
 古いカリキュラムになじんでいたため、改革派のメンバーに選ばれなかった教員は、これまで自分の担当する言語カリキュラムの決定に参画できなかったが、これは非民主的なやり方である。新しいカリキュラムが学生に支持されて順調に進展した今では、多くの教員の抵抗感も薄れたことであろうと、カリキュラム決定の論議に再び加わるようにルールが改正された。立教らしい優しさの現れであろう。
 また、言語教育以外の分野でも大胆な改革が進められている。その全貌は最近出された『立教大学〈全カリ〉のすべて』(東信堂)に感動的に描かれている。



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