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記事2001年4月3日 9号 (3面) 
学力低下でシンポジウム 深刻な実情報告
地球産業文化研究会
大学研究者、企業関係者らで討議
新指導要領に不安の声
 大学生の深刻な学力低下問題や新学習指導要領における教育内容の三割削減による学力低下の懸念などについて、大学の研究者や企業関係者らで対応策を研究しようというシンポジウムが三月二十三日、東京・港区内の会館で開かれ、学力低下の有無や新学習指導要領の是非などをめぐって文部科学省関係者も交えて熱の込もった議論が展開された=写真=。このシンポジウムは財団法人地球産業文化研究所(理事長=平岩外四・東京電力相談役)が主催、経済産業省が後援したもので、四部構成のシンポジウムは昼食をはさんで八時間にも及び、教育関係者や企業関係者ら約二百人が参加した。
 第一部では、初めに学力低下問題について文部科学省の吉川成夫教科調査官が同省の見解を説明した。
 それによると、IEA(国際教育到達度評価学会)の過去三回の「国際学力調査」結果では、我が国の小・中学生の学力は「国際的に見てトップレベルで学力の低下は見られない」、また「学習指導要領は最低基準であり(踏み込んだ内容についても学習できる)、これまでもそうだった」とした。さらに新学習指導要領実施で一層の学力低下を招くとの指摘に関しては、「学習指導要領は学力に影響を及ぼす要素の一つに過ぎず、そのほかに入学試験や教師の問題がある。トータルな議論が必要だ。また学力の低下をいう場合の学力とは何か。学生の学力を伸ばすのは大学の役割」と語り、学力低下を真っ向から否定した。
 これに対して埼玉大学経済学部の岡部恒治教授は、「新学習指導要領で演習問題が削られた。計算力をつけていくことが思考力を高めることにつながる。また学習指導要領が最低基準ということは、学力低下が叫ばれるようになってから言い出したこと。学習指導要領は最低基準というが『〜までとする』、『〜にとどめる』との表記が多い。教える内容を膨らませることもできる教科書が必要だ」と反論。IEAの調査結果についても、数字の取り方で結果が大きく変わることを説明した。
 続いて慶應義塾大学の戸瀬信之経済学部教授は、同教授らが国私立大学の理工系学部の学生四千人を対象に実施した調査結果の概要を報告したが、国立の最難関校の理工系学生でも中学生の算数ができない学生がおり、大学生の学力低下が深刻な状況であること等を訴えた。また大学生の学力低下は文部科学省が進めてきた大学受験科目の削減や推薦入学の拡大の影響が大きいとし、特に推薦入学した学生の学力の低さが問題だと指摘した。
 一方、産業界からは下谷昌久・社団法人大阪工業会産業政策委員長(オージス総研会長・元大阪ガス代表取締役副社長)は、現代の若者は読み・書き・そろばんが弱く、基礎は根本が弱く、自分の頭でしかも広く柔軟に考えることが苦手で探求力・企画力・応用力・展開力が不足していると指摘。長引く不況からゆとりのなくなってきた企業は、既成戦力(中途採用)、外国人学生への関心を高めつつあり、日本の新規学卒者については敬遠の傾向にあることを強調した。
 そのうえで小・中学校教育に関しては、いわゆる「ゆとり教育」を見直して、必要な時期に必要なことを詰め込むことが必要で、大学では軽量化入試をやめてほしい、また国や行政に対しては現状と問題点を把握して国としての教育基本方針を確認してほしい、と要望した。

“教育内容の厳選は構造改革”
成功例に学べとの指摘も

 その後、教育現場の実態が報告された第二部、各国の教育改革が報告された第三部に続いて、最終の第四部では学力向上の観点から教育改革のあり方についての討議が行われた。
 初めに京都大学の上野健爾理学研究科教授が、なぜ文部科学省は学習指導要領を最低基準にするとの方向転換を宣言しないのか、学習指導要領は、その中の禁止事項に関する記述を見れば最低基準ではなく、上からの縛りを記したものであることは明らかだとした。また京都大学の新入生の変化を指摘して、特に文部科学省が新しい学力観とする興味や関心の低下が深刻で、マニュアル通りの学習が学生の潜在的な能力、勉学への意欲をつぶしていると力説した。
 続いて教育ジャーナリストである山岸駿介・多摩大学教授は新学習指導要領での教育内容の一律削減は、それぞれの教科が削減反対を主張して収拾がつかなくなるためやむをえない措置とした。
 玉川大学の山極隆教授(元文部省初等中等教育局主任視学官)は、「教育内容の厳選は学力や学習指導のあり方の構造改革である。また学校の教育目標、教育課程、子どもの基礎学力の定着状況、授業時間の確保の実態、教師の力量形成の実態等について学校は自己点検・自己評価を行い、その結果を、学校評議員に説明し、外部に情報を適宜公開すること、基礎学力の定着状況については継続的な到達度調査を行い、その結果を各学校が教育改善に役立て外部にも適宜公開すること、教育委員会内に退職校長等からなる教育水準監視委員会を設け、学校の実態を調査すること、公立学校における学校選択の自由化を促進し、学校間の健全な競争を促すことが必要だ」と指摘した。
 精神科医の和田秀樹東北大学医学部非常勤講師は、教育改革のあり方について「うまくいくだろう、良さそうだではだめ。うまくいっているところから学ぶべきで、市場原理に基づいた教育を考えたらどうか」と提案。生きる力である意欲・興味・関心などを教師の主観で評価することは危険。基本的にはそうしたことも計れるペーパーテストを検討し評価を目に見える形にするよう求めた。
 シンポジウムではフロアの参加者からも発言が相次ぎ、パネリストの発言にフロアの文部科学省や国立教育政策研究所の関係者が反論する姿も見られた。



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