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記事2001年4月13日 10号 (6面) 
首都圏高校入試、公立高が志願率増
私立高校不況と少子化が影響
私立高校強まる共学校志向
入試機会増え推薦が主体に
 二〇〇一年の首都圏の私立高校入試は不況と少子化による影響の直撃を受けた。少子化の影響は四〜五年後に大学全入時代をもたらすといわれているが、すでに一部の大学ではその傾向が進んで、大学への入学をやさしいものにしたため、中堅大学を目指すなら私立高校より公立高校で気ままにのんびり過ごしても大丈夫という考えが広がった。公立の学費の安さがそれに拍車をかけて、五〜六年前から公立高校がジワジワと志願率を高めてきた。首都圏の公立高校の入試状況は、平成になってからの十三年間、少子化に伴って一般入試の定員枠は減り続けているが、一般入試より早い時期に実施される推薦入試の枠はどの都県も増えつづけ、それに対する応募者数も上昇カーブを描いていまは高止まりの状態である。これが私立高校の入試にはね返って圧迫し大きな影響を与えている。
 高校への進学指導をしている中学生対象の進学塾へは、生徒の集まりが思わしくない私立高校から追加募集への応募を生徒に勧めてくれるよう頼む手紙が送られてきた。「中でも特に私立女子高校は冬の時代が始まっています」と、ある塾の中学三年担当者は言っている。私学入学者の中にはスクールカラーに引かれて第一志望で入る生徒と公立不合格で入学する生徒の二つの流れがあり、どちらも入学しやすいように学校側は配慮しているが、第一志望でくる生徒の人数が次第に下がってきている。不況が続く中で、公私の学費の格差も大きな要因となっていることは明らかである。
 厳しい時代を生き抜くために私立高校はさまざまな入試改革を行っているが、今春の私立高校入試の特徴として、中学生の学力テストを実施している進学研究会の進士高男企画部長は次の四点を挙げている。
 第一に私学を第一志望とする人たちの中で男子校、女子校よりも共学校への志向が強まっている。男子校や女子校に進学した人たちの間では「異性の目を気にすることなく充実した学校生活の中で学力を伸ばすことができて良かった」と、する感想が昔から現在にいたるまで多いが、それにもかかわらず共学校志向は次第に強まっていく傾向がある。
 学校志望の動機がさほどはっきりしているわけではないが、一人っ子が多くて楽しさを求める気持ちからボンヤリと共学校を志向する傾向があり、親も本人の気持ちを尊重するということのようだ。
 平成十三年に共学化した私立高校をみると、東京では中央大学附属、東洋、中延学園改め朋優学院、東京実業の四校で、いずれも応募者が増加した。平成十二年度現在では東京の私立高校二百三十八校のうち男子校は五十七校、女子校は百四校、共学校は七十校という内訳だが、共学化が徐々に進みつつある。千葉や埼玉は昔から圧倒的に共学校が多かったが、東京では男子校、女子校に分かれていた私学の特徴の一つがいまや崩れつつあるといえる。首都圏内の他県も共学化が強まる流れは同様で、神奈川では横浜学園、明倫改め横浜清風、千葉では横芝敬愛、千葉日大一高が今春から共学化し、応募者を増やした。
 第二の特徴として、男子に比べると女子にチャレンジ意識が弱まった。都立高校の中でもトップ校では女子の比率が下がり、女子が二、三番手校を志向する傾向が強まった。私立高校でも同様に上位校から「女子が集まらなくなった」という声が出ている。私学の場合には私立の中高一貫校へ中学入学段階から志望するファン(親)が多く、私学ファンの脱けたあとの高校選びとなるわけだが、親のブランド志向も薄れて「そこまでがんばらなくても明るく楽しくやれれば」という風潮に変わりつつあるようにみえる。

他校の結果待ち「B推薦」増
学費の安さが私学に圧迫

 第三の特徴として、私立高校の入試機会が増やされた。一般入試を二回実施するところが増えていまでは一回だけの入試で済ますところより多くなった。中には一週間の間に三回入試を行うところも出てきた。
 埼玉でも一般入試と推薦入試の二通りあるが、私学は推薦入試が主体となっている。推薦入試の中でも第一志望は「A推薦」といい、他校の結果が出るまで待つのを「B推薦」という。いま埼玉の私立高校ではB推薦だけを二回実施するところが出てきた。
 第一志望の公立校の入試の前に私学のB推薦を受けて入学先を確保し、安心して公立受験に臨むやり方である。私学応募者の八〜九割はこのB推薦を受け、一般入試はあまり受けない。B推薦入試を受ける際に参考資料とされるのが業者テストである。
 中学校の内申書には学校格差があるため、業者テストが客観的資料として用いられている。
 B推薦入試を行わないのは慶應義塾志木、早稲田大学本庄、立教新座、浦和明の星で、他はほとんど実施している。
 千葉でも県南部で埼玉型のB推薦入試をとりいれるところが増えてきた。私学で合格を確保したのち公立を受験して合否が分かるまで入学手続きを待つ。公立に合格して私学への入学を辞退した時には入学申込金(千葉五万円、埼玉五千円〜三万五千円)をあきらめる戦法である。
 千葉では公立高校が入試制度を大幅に変えて(1)学区の制限を緩やかにした(2)推薦枠を増やした(3)二日間で五教科入試を行っていたのを一日で済ますようにしたが、このうち特に推薦入学枠の増加が私学のB推薦受験生を減らすダメージが大きいといわれている。
 神奈川の私立高校入試は不合格を避けるため事前相談してから受けるやり方が定着していたが、相談の制度は残しながら、相談の段階で合格が難しい受験生のために試験日を別に設けて当日入試の得点を見る学校が増えた。
 これまでペーパーテストだけだった慶應義塾普通部、桐蔭、桐光、日本女子大附属でもそういう選抜を始めた。山手学院は相談の枠より本番入試の枠を増やし比率が逆転した。横浜は午前中に他校を受験した生徒のために午後入試を初めて導入した。
 東京北部の文京女子大や桜丘女子は埼玉から受験にきていた生徒が川を越えてこなくなったため、埼玉へ出向いて説明会や試験を行うようになった。説明会などは二十〜三十校が合同で実施することもある。
 第四の特徴として、高校内の学科やコースが細分化されて種類が増えた。進学コース、特進コース、選抜コースといったコースを設けるところも多くなっている。特待生制度を採り入れたり別のカリキュラムのゼミ形式にする場合もある。
 専門コースでは一時期、英語や理数関係が多かったが、最近は福祉に人気が出て福祉コースの新設が相次いでいる。
 今春東京では大東学園、淑徳巣鴨、潤徳女子、日本女子体育大附属二階堂、秀明英光、蒲田女子が福祉コースを設けた。
 私学の努力は続けられているが、公立高校側では推薦入試枠の拡大や学区制限の緩和など、私学の特色をまねて受験生を確保しようとする動きはますます強まり、そこに学費の安さが加わってくると、私学の努力の効果にも限界がある。税金による恩恵は私学を含むすべての国民に平等に行き渡らせ、同じ土俵で競争する必要性がますます高まっているといえる。

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