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記事2001年4月13日 10号 (5面) 
私立大学の教育改革 (3)
全学挙げFD活動  ―国際基督教大学
学生による授業評価
授業シラバスの学内公開など5分野
 大学設置基準の大綱化に伴ってファカルティ・ディベロップメント(FD)活動の必要性が盛んに説かれるようになった。文部省令で予算配分に絡めて義務づけたりされると反発も当然出てくるが、研究だけに閉じこもらず「大学教員の教育能力を磨く組織活動」は当然行うべきことだという認識も次第に広がってきた。
 国際基督教大学(ICU)はこうしたFD活動を、半世紀前の大学設立の当初から設置条項の中で「絶えず批判と評価を通して、その進歩・改善に努力する」とうたい、新任教員の採用にあたっては、学長、教養学部長ら七〜八人の行政教職員から「ICUはこういうところだけれど一緒にやっていけるか」と尋ねられる厳粛な行事がある。
 「FDニュース」という学内ニューズレターは、FD活動が活発になるような話し合いの雰囲気を醸しだすために、日本語・英語の二カ国語で年三回発行されているが、その中で絹川正吉学長はよい授業のノウハウについて「学生への愛があるならば、当然しなければならないこと、いわば当たり前のことをきちんと実行することがよい授業をすることになる」と述べている。ICUのFD活動の本質を示した言葉といえる。
 ICUのFD活動の事例の一つに「授業効果調査」がある。十四〜十五年前に始めたもので、「学生による授業評価」という名前だったが昨年秋に改名した。学生への調査票で授業については「授業の目的は明確に示されていたか」「教材は理解を促進したか」「与えられた時間・期限内に課題すべてをこなすことができた」、教員について「科目に対する興味を引き起こした」「授業の準備を十分に行っていた」「分かりやすい講義をした」「質問や提出物に対して役に立つフィードバックをした」、そのほか、教室環境や学生自身の状況などについても質問、全部で三十一項目に上る。回答は「とてもそう思う」から「まったくそう思わない」まで五段階の選択式回答を表の面では求めている。裏面は「良かった点」や「改善すべき点」などについての自由記述欄。
 三学期制の学期末試験の前か直後に教室で配って「これは授業をよくするための調査だから協力してください」と学生に説明したのち教員は外に出る。学生は無記名で記入し、係の学生が集めてFD事務室に届ける。
 大学教育学会事務局を務め、学会会長も何度か出したICUだからできたと他大学の人は言いがちだが、そう簡単ではなかった。
 「よく人の授業のことに口を出せるな」「自分の研究を怠けているからできるんだろう」「学生の人気取りだ」「人員削減の道具だ」「FDの横文字がバタくさくていやだ」「私は協力しない。意味がない。バカにしている」……どこでも聞けそうな言葉が最初のうちは噴出した。
 人事考課には使わないことを保証し、授業をよくするためと説得しながら時間をかけて理解を広げ、今年の三月に「全学の授業の効果を調査し全学に公開すること」を教授会で採択した。
 調査記入用紙の現物は該当教員に集計表をつけて渡すことにした。学生の記入回答は「まあそう思う」という肯定的評価が多い。自由記述の中には「この授業を受けて留学する決断がついた」「卒業するまでに絶対とるべき授業」といった感想も見られて、教員の学生に対するインパクトの強さを物語っている。
 二つ目は授業シラバスの学内公開であり、現在のところ、非常勤教員も含めて約七〇%のシラバスをオンラインで見ることができる。一般教育のシラバスはほぼ全部公開されている。学生は入学時に「情報基礎」(単位なし)の講習会でパソコンの手ほどきを受け、履修登録はホームページのシラバスを見て自分で入力する。
 シラバスをホームページに入力することに慣れていない教員に対しては、FDサポート・デスクというスタッフが置いてあり、教員にきてもらったり、教員の部屋へスタッフが出掛けていって作成を手伝っている。
 三つ目は「FDカフェ」といって、教員同士のコミュニケーションの場を提供している。一年三学期の間に一〜三回、昼食の時間を利用して食堂にサンドイッチなどの軽食を用意し、立食ビュッフェ・スタイルで音楽を流したりしながら、触れ合いの場をつくっている。
 以前にはまったく会話のなかった二人の教員が仲良く話し合い、お互いにEメールや電話番号を交換しながら、その後もカフェテリアで一緒に食事する姿が見られる。慣れていない教員が経験者に助言を求める機会もここにはある。
 IT革命が話題となった昨年は、この触れ合いの場を「ITワークショップ」の練習場に使った。
 四つ目は「FDフォーラム」といい、外部の専門家を招いて教育技法改善や教育機器利用法、心理ストレス対処法などの話を聴いている。
 五つ目は「教員の研究支援」の仕事で、科研費の申請などを行う時に「こういう書き方をするといい」といった知恵を分野の違いを乗り越えて相談しあえる機会をつくっている。
 こうしたFD活動の根回しを担う組織として、教養学部長室の中にFD事務室が置かれ、FD主任の笹尾敏明準教授と兼任の事務職員と非常勤助手二人が活躍している。学長や学部長がこの活動を支援しながら若手の行動力に期待をかけている。

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