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記事2001年3月13日 7号 (4面) 
私立大学の教育改革 (1)
衛星使い遠隔授業
日本大学 郡山、習志野、所沢、江古田、世田谷、三島
 我が国の高等教育をめぐる環境が大きく変化するなかで、私立大学は様々な教育改革に取り組んでいる。その現状を報告する。


6キャンパス飛び交う質疑 通信制でも顔見ながら

 日本大学は衛星通信システムを利用した遠隔授業を平成十年四月にスタートさせ、次第に規模を拡大させてきた。現在ではお互いの顔を見ながら六つのキャンパス間で教員と学生たちが質疑を交わしたり、遠く離れた通信制大学院の学生が夜中に教員からネット上で添削指導を受けている。

 遠隔授業は郡山の工学部―習志野の生産工学部―芸術学部所沢校舎―芸術学部江古田校舎―世田谷の文理学部―三島の国際関係学部と東日本の六キャンパスを結んで実施している。これは埼玉県所沢市の芸術学部の授業を同キャンパスに隣接する総合学術情報センターから衛星通信システムを利用して送信し、受信した学部からの質問はNTT回線を利用したテレビ会議システムで帰ってくるという双方向授業である。送信元が文理学部の授業の場合は移動中継車を使い、教室に中継車を横付けして送信する。スクリーンには発信元で講義をする教員の顔とともに受講側キャンパスでその話を聞いている学生たちの姿も映し出され、面接授業と同じような雰囲気を味わっている。
 所沢の総合学術情報センターは総合図書館として各学部図書館のまとめ役であり、大学全体の情報の発信元である。従来のLANで結ばれるコンピュータの回線管理に加え、衛星を使うことによって入学式・卒業式における総長の告辞や大学の各種コミュニケーション番組を札幌から宮崎まで二十二校の日本大学付属高校や大学の十四学部・一通信教育部へ中継することもできるようになっている。日大では学部間の相互履修制度を導入しているが、地理的に離れている国際関係学部と工学部の間では相互履修しようにも困難だった。衛星通信を利用した遠隔授業はそうした悩みを解決する手段として大きな効果を上げて受講生からも好評を得ている。
 現在は水曜日の三時限目(午後一時〜二時半)に前期は「芸術学I」(総合学術情報センターより送信)、後期は「総合研究I」(中継車が出向き文理学部より送信)の授業をこの遠隔授業で行っている。衛星通信を使う授業は電波の使用料が当初はとても高かったので、「あまりつまらない冗談で時間を使わないでくださいよ、一分間一万円ですからと、先生にお願いしたりしました」と八木信忠同センター長は言う。教員は緊張して講義の予習に力を入れるようになり、講義の始まる三十分前に来て授業も時刻ピッタリに始めピッタリに終わるようになった。また六キャンパスのスクリーンに映し出される講義となると、どうすれば電波でうまく教えられるようになるかという工夫が副次的成果としても生まれてきている。黒板に向きっきりで話すような講義は避け、見た目の効果にも気を配り、教材やビデオを使って飽きさせないような努力も行われるようになった。
 学生の出欠状況が名簿に記されると各キャンパスからファクスで教員の手元へ。その出欠表を見ながら先生が学生に質問をしたりする。離れたキャンパスでも顔見知りのような感じになる。郡山と三島の学生が討論することも発信元の教員がスイッチ操作すればできる。試験も衛星を使って行えるが、いまのところは評価はレポートで行っている。
 ところで日本大学では平成十一年四月に「総合社会情報研究科」(通信制大学院)を開設している。通信制の大学院はコンピュータ上の文字情報で教育を受けるのが世間一般のやり方だが、ここでは入学と同時にカメラ付きノートパソコンを一台ずつを学生に貸与して一対一であたかも対面授業のように指導する。通常の通信制では教員一人で大勢の学生を担当できるが、こういう個人指導のようなやり方だと一人で上限十人くらいの指導になる。そうなると親密になるので教員が自宅にいて夜中でもインターネット上で学生の訪問を受ける。プライバシーはかなり侵害される。教員からEメールのレポートを添削して送り返したり、レポートについてアドバイスをするために通信することもある。ある時、学生の自宅にアクセスしたが画面に学生の顔が映らない。「どうしたんだい」と尋ねたら「いま起きがけでお化粧をしている最中なので、カメラにハンカチをかぶせて映らないようにしています」という女子学生の返事だった。

臨場感溢れる授業展開

 通信制の大学院にしても、衛星を使った学部の遠隔授業にしても、以前なら人気のある教員の授業をあちこちに離れたキャンパスで聞かせたいと思っても、いろいろ制約があったが、今はほとんどなく、遠隔授業も直接対話しているような感じで臨場感さえ生まれている。よくテレビ俳優が町を歩いていると知らない人から近所の人のように声をかけられるというが、同じような親密感が離れたキャンパスの学生からも持たれるようになった。ただし問題点も浮かび上がっている。一つは著作権の問題。通常の対面授業で教材として論文や書籍、写真、ビデオ等を学生に紹介することが多かったが、遠隔授業の場合も同じでいいか。ちょっと気掛かりである。
 高い衛星通信使用料も問題であったが、当初に比べればいまはデジタル圧縮方式を使用し、一分千円台と十分の一程度に下がった。さらに光ファイバーの普及で十メガビットの回線が千万世帯に引かれてつながると人工衛星はいらなくなり、双方向・高画質の遠隔授業が可能となる。「あと十秒」などと心配せず、かなり低料金でつなぎっぱなしにできるので、いま以上に遠隔授業を増やせると期待している。


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