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記事2001年12月23日 33号 (6面) 
企業トップインタビュー 教育はこれでよいのか
カルピス株式会社 取締役社長 武藤 高義氏
求められる創造性
行動力、実行力、専門的な知識 国際的な素養が必要


 長野県・飯田市を南北に貫く幅二十五メートルほどある防災通り。その中央部は、通称りんご並木と呼ばれ、りんご並木が連なっている。そのりんご並木は飯田東中学校の生徒たちの発案によって生まれた。
 「昭和二十二年、飯田市は未曾有の大火に見舞われました。市街地の四分の三を焼き尽くす大災害になったのです。復興はほとんど手付かずで、市民はその痛手から脱し切れていない状況でした」
 武藤社長を含め四人が生徒たちを代表して市に提案、「防火災害都市を目指す飯田市にりんご並木を作りたい」という生徒たちの夢は実現した。昭和二十八年の植樹以来、半世紀にわたって同中学の生徒たちが世話をし続けている。収穫したりんごは地域の福祉施設等へ送り、残りは生徒たちで分けている。
 「私たちが提案はしましたが、実際に植樹し、夢を実現してくれたのは後輩たちです。この並木を五十年近く、維持・管理してきたことはたいへんだったはずです。二十一世紀は心の時代といわれています。公的なことへの貢献、奉仕の精神がより大切になると思います」
 高校時代は高下駄に、腰に手ぬぐいぶら下げて、破れた学帽で通った。覚えたてのドイツ語を使い、カントやデカルトを論じたという。
 戦後の教育は戦前の価値体系、日本の伝統的な歴史や文化までも否定したことに対し、武藤社長は「在るべき姿、モデルがなかった。ただ頑張れ、頑張れといわれてきた。新しい体系がつくられていなかったのです」と指摘する。
 「例えば、物をつくる場合、物事を分析し理解し、それを踏まえて物をつくる。戦後の教育は分析・理解に重点を置いてきたが、創造性については評価の対象にされてきませんでした。いま、教育で一番求められているのは、物まねではなく何もない状態から物をつくり出す創造性だと思います」
 武藤社長は社長就任の際、「魅力と価値のある商品」づくり、技術とノウハウの充実、コスト競争力と営業力の強化、明るく逞しい企業風土づくり、グローバル化への積極対応、グループ力と外部連携の強化を経営基本方針に掲げた。
 このうち、発想を事業化・商品化していくには「技術とノウハウ」が大きな力を発揮するという。食品メーカーにとっては、二十一世紀の大競争時代を生き抜くためには、技術とノウハウの裏づけが必要という。同社の「カルピス酸乳/アミールS」は世界有数の食品科学関連団体の「食品技術者協会」(IFT)から産業発展功労賞を受賞した。また世界的に権威のある「ヨーロッパ国際食品素材展」(FIE)で最優秀食品研究賞を受賞した。これも技術とノウハウの裏づけによって、食品業界の発展に貢献したからだ。
 企業が望む人材像について、武藤社長は次の四つを挙げる。
 「第一にプランを作成する上で構想力があり、物をつくる上でも、ものまねではなく、イメージできることが必要で、つまり創造力のある人が挙げられます」
 そして、行動力・実行力のあること、専門的知識のあること、国際的な素養を備えていることが必要だという。
 武藤社長ご自身は行動力に優れ、強いリーダーシップには定評がある。
 座右の銘は「人間到処有青山(じんかんいたるところせいざんあり)」(幕末の僧・釈月性の「壁に題す」の一節)。また、事業運営上での銘としては、「不易流行」(松尾芭蕉)。

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