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記事2001年12月23日 33号 (5面) 
私立大学の教育改革(7)
法政大学―社会人転換 1年制ITプロ・コース
社会人にITの実務
評価はプロジェクトの遂行能力
 法政大学は大学院工学研究科電気工学専攻の中の一コースとして、社会人を対象とした一年制の修士課程・IT(情報教育)プロフェッショナルコースを二〇〇〇年四月に開設した。このコースは現にITに関連する仕事に就いているとか、これからIT分野で活躍したいと思っているが、情報科学を体系的に学んでいないため悩んでいる社会人に一年間で、情報技術の実務的な能力を身につけさせるのが目的である。出身学部は法・文・経営、工学など多様で、情報技術に対して深い知識を持つ者も中にはいるが、ほとんど知識がない人もあり、従来のように学部から連続性のある大学院へ進学してきた均質的な学生とは異なる。こういう学生に学部―大学院の六年間で行ってきた教育内容を一年間で凝縮して行う必要がある。大学院は修士論文を主体として研究者育成の指導をしているが、ここでは実務教育が主体であるため、学生への評価は独創的な考え方よりは、高度な知的作業を遂行する能力があるかどうかつまりプロジェクトの遂行能力を問うことになる。
 カリキュラムの内容は大きく分けるとプロジェクトと講義科目から成り立つ。プロジェクトは一年かけて行う作業で、年度初めに教員からそれぞれのテーマの説明を受け、一つあるいは複数のプロジェクトを選択し、毎週一回、午後三時間の指導を受けながら、ソフトウェアシステムの開発、ビジネスモデルの組み立て、ITビジネスの動向調査、ネットワークシステムの構築などを遂行する。学年末には報告書の提出、プロジェクトの口頭発表を行う。
 講義科目は情報科学での基礎的な科目と応用的な科目を半分ずつ用意し、必ず演習を含み、実務的な能力を高められるものとした。またITの分野では起業が一つの中心となっているため、起業家を育成するための科目を用意し、ベンチャービジネスでの失敗談なども含めた体験を説明してもらい、起業する時の助言を与えてもらうことにした。アドバイザリーボードを設けて、起業への支援も行うことにした。
 授業は春、夏、秋、冬の四学期に分け、春と秋は十六週間で通常の形態で運用し、夏と冬は八週間で、夏は集中型の講義を、冬はプロジェクトのまとめの時期とした。春と秋は午前は講義を行い、午後はプロジェクトを行う。用意した科目数は十五科目で、春、夏、秋の各学期に五科目を用意、この中から八科目履修すればよい。取得すべき単位数は四十二単位で、通常の大学院の三十単位と比べると一・四倍の多さである。これは演習を含む実務を重視したことによる。
 用意した科目はアルゴリズムとデータ構造、オペレーティングシステム、コンピュータアーキテクチャ、分散処理・ネットワーク、データベース、コンパイラ、ソフトウェアエンジニアリング、離散システム、インテリジェントコンピューティング、画像処理、コンピュータグラフィックス、ディジタルアニメーション、サイバーワールド、ネットワークビジネス、ディジタルコンテンツビジネスである。
 ITプロフェッショナルコースのスタッフは主に情報科学部の教員で構成され、起業経験者が多く、実務面で豊富な経験を持っている。三分の一は外国人でグローバリゼーションにも対応している。

出身学部職種とも商社、教育など多岐に

 初年度は大学院のユニークさが新聞で話題になり、四十人の募集に対して百七十人の応募があった。多くの大学院がほとんど一倍程度の競争率である現状からすると特筆すべきことである。入学者の年齢構成は二十五〜三十五歳が最も多かったが、六十歳代まで大きな広がりを見せた。これまで従事していた職種もメーカー、商社、銀行、流通、教育関係など多岐にわたった。出身学部は文系が六割、理系が四割。志望動機は社内貢献一、転職二、起業三の比率だった。
 講義科目は八科目履修すればよいことになっていたので、多くの学生は春と夏学期でその大半を修了した。ただ、カリキュラムを構成した側は、春夏秋に配当されている科目を平均的に履修することを期待して、講義内容も予習と復習に多くの時間をかけて理解できるように組んだが、その点が最初は理解されず、内容が難しすぎるという意見を多く受けた。アメリカ型の教育方式がなかなかとりにくいことを実感した。
 しかし、文系卒業生が講義についてこられるかという心配は無用だった。高い資質を持つ入学者たちで、四十四人入学のうち仕事の都合で休学した二人を除けば、卒業までいかなかったのは一人だけだった。就職については就職部での支援を用意したが大学を通しての従来の就職先は学生が望んでいる企業ではなく、今年に限っていえば大学を通して就職することはなかった。
 起業については、アドバイザリーボードを活用して支援したことで、卒業前に三つの会社が設立された。これらの会社の設立に関わった学生は八人だが、ITプロ・コースには多様な分野から深い専門知識を持つ学生が集まっていたため、起業に当たって間接的に支援した学生の数は非常に多く、社会人の大学院でなければ得られない豊かな人間関係を形成した。

(日本私立大学連盟「私立大学院の創造的改革へむけて実態調査に基づく分析と提言」から抜粋・要約)

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