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記事2001年12月23日 33号 (3面) 
教育に押し寄せた構造改革
―平成13年の改革の歩みと今後の展望
今年は小泉内閣の「聖域なき構造改革」の大波が教育界にも押し寄せた一年だった。私立小中学校の設置促進に向けた設置基準の策定、コミュニティ・スクールの検討など教育改革の施策が矢継ぎ早に打ち出される一方、規制改革でも教育が重点分野として取り上げられた。私学助成でも競争原理の導入の考えが浸透してきた。この一年の教育改革の歩みを振り返った。

私立小・中の設置促進  新規参入増やし質向上

個に応じた教育の実現
今後は私学助成も見直しへ

【教育に吹き荒れた嵐】

 平成十三年がまもなく終わろうとしている。今年は例年以上に大きな教育改革、規制改革等の“嵐”が吹き荒れた。衝撃的な改革内容と変化の速さに教育関係者は戸惑いを隠せず、将来を見通せない中で不安さえ感じている。今年の教育改革は、昨年十二月にまとめられた教育改革国民会議(総理の私的諮問機関)の最終報告「教育を変える十七の提案」の具体化から始まった。奉仕活動の義務化などをめぐって大きな論議を呼んだこの報告は、教育界では(特に公立学校では)、取り上げにくかった課題を正面から取り上げ、明確な対応を取るよう文部科学省等に求めた点では画期的だ。問題を起こす中学生への出席停止処分の制度化や問題教師の教壇からの排除、習熟度別学習を推進し学年の枠を超えて特定の教科を学べるシステムの導入、分野制限を外して飛び入学の拡大等である。また十分な議論はなかったが、「教育振興基本計画」の策定、教育基本法の検討の必要性を明確に打ち出した。
 年が明け一月二十五日になると、新生・文部科学省は、今後の教育改革の主要施策や課題、実施計画などをまとめた「二十一世紀教育新生プラン」を公表、分かる授業で基礎学力の向上、教えるプロとしての教師の育成、新世紀にふさわしい教育理念の確立、教育基盤の整備等七項目を重点戦略と位置づけ、基礎的教科での二十人授業の実現、学習指導要領を超える内容の授業の実施、私立小・中学校の設置促進に向けた設置基準の策定、コミュニティ・スクールの検討などの施策を打ち出した。一月三十一日から始まった通常国会には改革関連六法案が提出され、早くも十七の提案の具体化が始まった。二月以降は中央教育審議会での審議が始まり、四月十一日の総会では教員免許制度の見直し等四項目が、十一月二十六日の総会では教育振興基本計画の策定と教育基本法の検討の二項目がそれぞれ諮問され、教育改革も仕上げ段階という印象だ。

【教育の規制改革】

 こうした教育改革と平行して進められたのが政府の総合規制改革会議による規制改革や経済財政諮問会議による予算編成基準作り、行政改革推進本部等による特殊法人の見直しなどだ
 このうち規制改革ではこれまで表舞台に立たなかった教育が重点分野として取り上げられ、十二月十一日に公表された第一次答申では教育分野にも経済の世界のように競争的な環境作りが求められ、それにより教育研究活動の活性化や質の向上を図っていくとの方向が示された。初等中等教育では高等教育ほどの競争原理導入は求められていないが、基準を緩和して新規参入を増やし、競争が行われる中で質の高いサービスを提供していこうとの原則には共通するものがある。新規参入を増やすため設置基準などは必要最小限のものとし、評価は事後に行おうとの考え方だ。こうした競争的環境作り、多様化の推進といった考えは、教育界でいわれる「行き過ぎた平等主義の是正」との考えにも通ずるもので、習熟度別学習の推進や、公立義務教育学校での学校選択制の拡大、コミュニティ・スクールの創設、今後中教審での検討が見込まれる個に応じた指導の充実や年齢とともに学年進行する方式の見直し等につながるものだ。今後実施される小学校での中学校教員らによる専科指導の充実もそうした指導環境を可能とするもの。
 
【私学助成にも改革の波】

 私学助成の面でも競争原理導入といった考えは徐々に広がっており、十二月の規制改革の推進に関する第一次答申でも、「私立学校の参入を促進する観点から公財政支出の見直しを図る中で、補助金配分に当たっては、児童生徒や保護者のニーズにこたえて優れた教育サービスを提供している私立学校を優遇する方向へ向けていくことも必要ではないか」との指摘がされており、また「特殊法人等整理合理化計画」の中の日本私立学校振興・共済事業団に関する記述では、大学に関してだが、特別補助に一層重点を移すよう求めており、個人支援を重視する方向で公的支援全体を見直す中で機関補助である私学助成のあり方を見直すとしている。私学関係者が念願する財政面で公私立学校が同じ土俵に立ち良い教育を競い合う体制づくりは、大学では徐々に整備されつつあり、高校等についてもそうした体制作りの芽は出ている。それは今後、義務教育費国庫負担の見直し、奨学金の充実、バウチャー制の導入等どんな形で出てくるのか分からないが、公私の財政面の“垣根”は今後徐々に低くなる見通しだ。



関心集めた「トップ30」 世界の最高水準に育成

競争的環境で輝く大学
国立大も「国立大学法人」に

 大学改革については、大学審議会から今年一月の省庁再編にからんで新たに発足した中央教育審議会大学分科会(吉川弘之分科会長=独立行政法人産業技術総合研究所理事長)に論議の場を移した。大学分科会は将来構想部会、制度部会、大学院部会、法科大学院部会の四つの部会で構成されている。
 このうち将来構想部会はこれまで大学等の設置認可の望ましい在り方について話し合ってきた。今後、大学が社会の変化や学問の進展に的確に対応し、一層主体的・機動的に活動していくことができるようにするために、大学の設置に関する認可制度(設置認可の対象・手続・設置基準)の簡素化・弾力化を図ってはどうか、また、設置後も確実に教育研究の質を維持・向上させることができるようにする観点から、事後的・継続的な大学評価制度を併せて整備・充実することによって全体として教育研究の質をどう保障していくのかを論点に話し合ってきた。同部会はこれまで四回の会合を開いてきたが、いずれも自由討議の段階。大学・学部の設置認可の弾力化については、総合規制改革会議が十二月十一日、第一次答申を小泉首相に提出したが、この中で平成十四年度中に措置すべき事項として、大学・学部の設置規制の準則主義化、校地面積基準や校地の一定比率自己所有規制の緩和、工業等制限区域および準工業等制限区域についての抑制的取り扱いの廃止など大胆な弾力化を打ち出した。
 制度部会では短期大学・高等専門学校から大学院までの高等教育制度全体の在り方、パートタイム学生の受け入れについて論議。パートタイム学生とは、アメリカ教育省の国立教育統計センターでは「単位修得のロード(義務)が通常のフルタイムの単位修得ロードの七五%未満の高等教育の課程の在学者」と定義づけている。
 わが国の一般学生や科目等履修生と比較すると、▽修業年限を超えて在学することがあらかじめ予定され、それが大学に認められた上で在学する▽大学の定める単位を修得して卒業できる点が特徴として挙げられる。
 大学審議会は平成十二年十一月に出した答申「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」の中で「地域に密着して生涯学習機会を積極的に提供することが期待されている短期高等教育機関や、社会人の専門的な知識・技術の向上等に大きな役割を果たすことが期待される大学院においては、特に、パートタイム学生の受け入れを検討する必要がある」と指摘。
 また、同様の観点から日本私立短期大学協会もその受け入れを要望していた。制度部会はこれまで六回の会合を開き、おおむねパートタイム学生制度創設の方向で議論が進んできた。
 十一月十三日の第五回、十二月十八日の第六回の会合ではこれに関する中間報告案が審議された模様だが、いずれも非公開で審議が行われた。
 このほか、大学院部会は大学院における高度専門職業人養成の在り方、専門職学位、一年制の専門大学院、通信制博士課程の設置について、また、法科大学院部会が法科大学院の教育内容、教育方法、設置基準、第三者評価をめぐって論議が進められてきた。大学院教育の充実、強化は大学審議会以来の大学改革の方向性であり、特に平成十六年四月にスタートする法科大学院については十二月十一日、制度の骨子がまとまった。通信制博士課程および専門大学院一年制については一月中に大学院部会における審議を終え、同月中に、パートタイム学生とともに一体として、社会人受け入れの改善方策という観点から中間報告をまとめる方向だ。
 大学分科会で審議が進む一方、六月には文部科学省から、これまでの改革をさらに推し進めるものとして「大学(国立大学)の構造改革の方針」が公表された。(1)国立大学の再編・統合を大胆に進める(2)国立大学に民間的発想の経営手法を導入、新しい「国立大学法人」に早期移行(3)大学に第三者評価による競争原理を導入、国公私「トップ30」を世界最高水準に育成を柱としている。なかでも「トップ30」構想は大学関係者の関心を集めた。まだ、中教審と学術審議会合同の大学改革連絡会で検討途上だが、学問分野ごとに世界最高水準を目指す組織を選定して重点育成することを通じて、大学トータルとしての「トップ30」を育成しようというもの。選定は申請に基づき、いわばピアレビューによる審査で行い、選定の結果は固定化せず、評価に応じて変動し得る仕組みが検討されている。
 人文・社会科学から自然科学までの学問分野十分野から初年度は五分野を対象とし、一件当たり年間一〜五億円の支援を五年間程度実施される予定だ。
 大学にとっては、さらなる改革を通じて、「競争的環境の中で個性輝く大学づくり」が求められた一年だったといえる。





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