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記事2001年11月3日 28号 (5面) 
私立大学の教育改革(6)
工学院大学のJABEE認定導入
世界に通用する技術者
グローバルエンジニア合格の認定獲得

 企業は製品が売れなければ存亡の危機に直面するが、大学の技術者教育も卒業生が社会に役立つような教育の品質保証をするため自己改革に励むべきであるという理念から、それを支援するための評価機関として、日本技術者教育認定機構(JABEE:JapanAccreditationBoardforEngineeringEducation)が一九九九年に理工農系の学協会を正会員、企業を賛助会員として設立された。工学院大学は「世界に通用する技術者」の育成のため、このJABEEから「グローバルエンジニア教育合格」の認定獲得をめざして着々と体制を整えている。
 いま米英、カナダ、オーストラリアなどの英語圏では技術者教育の国際スタンダードが形成され、いずれ世界的な組織へと発展する方向にあるが、工学院大学の大橋秀雄学長は「日本にもそのような客観的評価機関をつくることが必要だ」という認識で、技術系の産学関係団体に結成を働きかけてきた。JABEE発足後は副会長に就任しているが、準備段階の一九九七年から工学院大学機械工学科の中に国際工学コースをつくってその理念の実現を図ってきた。二〇〇〇年には私立大学や国立大学など二十校が自校の技術者教育プログラムをJABEEに模擬認定してもらう試行を行い、工学院大学は「よく整合しているようだ」という評価をもらった。今年三月に同コース初の卒業生を一〇〇%の就職率で送り出し、四月には同コースは国際基礎工学科(入学定員六〇人)に改組された。
 「売れない製品はどうすれば売れるようになるか改革を考える」という企業の論理は、教育の自己点検・評価・改革の理念につながる。
 国際基礎工学科の古屋興二主任教授は大橋学長の東大時代の教え子で技術コンサルタント会社を経営していたのを口説かれてここの教授に就任し、国際工学コースの土台をつくった人である。古屋教授の説明によると、国際基礎工学科の教育の特徴は五点ある。


国際基礎工学科の特色
創造力、国際感覚、マネジメントなど


 (1)基礎・専門工学知識
 現代の工学は一つの専門では通用しにくい。数学、物理、化学、生命科学などいくつかの基礎サイエンスを組み合わせれば社会に通用するテクノロジーを生み出すことが可能になる。そのうえの専門工学は七割方、機械工学を中心とし、ほかに情報、コンピュータ、医療機器、バイオテクノロジーなどを加えた。
 (2)コミュニケーション力
 グローバルエンジニアは他国の人に理解させるコミュニケーションの能力をある程度つけなければならない。このため英語の授業は会話中心に外部の英語教育機関の人を講師に招いて担当してもらい、学生に週三回、四年間受講させ、TOEICを毎年受験させる。入学時に二八〇点だった平均点が三年終了時に四三三点まで上がった(昨年の実績)。
 (3)国際感覚
 第III群国際系科目として「国際企業論」「宗教と国際理解」「世界の歴史認識」「技術者の倫理」「環境と開発」などを開設し、グローバルエンジニアとして必要な国際理解の感覚を深める。「国際企業論」では海外で長く活躍してきた企業人を特別講師に招き、貴重な体験・経験談を披露してもらう。
 (4)創造力
 (5)マネジメント力
 国際基礎工学科で最も特色あるECP(EngineeringClinicProgram)は、従来四年次だけに行っていた卒業論文を廃止して新設された。企業から「こんな製品をつくれないか」というテーマを提供してもらい、学生は選択したテーマに五人で一チームを組み挑戦、三年次から二年間かけて工夫をこらす。企業技術者への質問は認められるが、解決方法は自分たちで考えなければならない。これによって学生は創造力とマネジメント能力を養うことになる。自動車部品メーカーから「新型サイドミラーの設計」の課題を与えられたあるチームの解決案はうまくいけば二年後に実用化され特許もとれそうだという。「ハイブリッドカーの改善設計」「ロボット検査機のアームの改良」「静脈注射器用輸液ポンプの改良」「プリント基盤製造工程の自動化設計」「タイヤの新製造方法」など生きたテーマがいっぱいある。企業との共同教育で成績評価にも企業技術者に加わってもらう。学生は実践的なこの授業に興味をかきたてられ「試行錯誤することで物の考え方に幅ができた」と効用を認めている。
 JABEEが行う本認定にはまず国際基礎工学科が第一号認定をめざして挑戦するが、続いて工学院大学全体へ拡大して認定を受ける計画が練られており、そのための委員会がすでにできている。


JABEEが認定する技術者教育
合格した学生に技術士一次試験免除


 JABEEの二〇〇一年十月現在の正社員には化学工学界、情報処理学会、日本建築学会など八十二の学協会、賛助会員に五十五企業が加入している。
 JABEEが認定の対象とする技術者教育とは大学の理工農など技術系学部で技術者の育成をめざす専門の基礎教育プログラムである。学部レベルの教育なので対象は極端に細分化せず、なるべく大きな分野とする。現在決まっているのは化学、機械、材料、情報、電気・電子、土木、資源、建築、農業工学、農学一般、経営工学、工学の十二分野。
 教育が社会の要望を十分考慮しているか。教育の内容や方法が教育目標を達成するのにふさわしいか。また教育内容や方法を改善する組織を内部に備えているか。知識だけでなく能力を備えているか。一方的な講義ではなく、学生が能動的に学習する環境を与えているか。講義以外の演習、実験等を体験できるか。学生が実社会で役に立つ課題を設定し、社会のニーズを解決するデザイン能力を示すか。それを計画的にまとめる管理能力があるか。技術者倫理を確立できるか。国際的に発表するコミュニケーションの基礎能力があるか。教育目標達成度の評価方法として筆記試験やレポート以外にビデオ、作品、就職先の評価なども取り入れ、最適な方法を絶えず開発しているか。自己点検書の作成で問題点を明らかにし、改善できる仕組みがあるかなどが評価される。
 評価はその関係の学協会が協力して行われ、その評価に基づいてJABEEが学協会の代表として認定に最終責任を負う。大学はJABEEの会員ではなく、認定される側である。認定は大学や学部、学科などの教育組織が基準を満たしているという機関認定と専門教育プログラムが基準に合格しているという専門認定があり、認定された教育プログラムを修了(卒業)した学生は基準を満たすレベルに達したことが間接的に保証されるとして、技術士の第一次試験免除の特典を受けられることになった。



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