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記事2001年11月23日 30号 (4面) 
外国語教育におけるITの導入
授業へのIT導入の先端的試み
早稲田大学


 私立大学情報教育協会は九月十一日から三日間、東京・市ヶ谷の私学会館で「私情協大会」を開いたが、最終日には大学授業へのIT導入の先端的試みが四つの大学から報告された。ここではそのうち、早稲田大学における外国語教育へのIT導入の事例を紹介した、平埜雅久・文学部教授の発表の要旨を報告する。(編集部)

プロジェクトの概要 

4プロジェクト 国際社会における人材育成
異文化交流、チュートリアル英語学習、共同ゼミ、サイバーレクチャー

 現在、私たちが取り組んでいるプロジェクトは、大きく分けて四つあります。一つはインターネット上で行われている「異文化交流プログラム」、二つ目は英語の運用能力の向上を目指した「チュートリアル英語学習プログラム」、三つ目は海外の大学との「共同ゼミ」、そして最後に海外の優秀な講師陣による「サイバーレクチャー」です。
 いずれのプログラムも、国際社会の中で堂々と対応できる人材の育成という、早稲田大学が現在、積極的に取り組んでいる教育目標を側面から支える形で進められています。
 「異文化交流プログラム」は主に学部生を対象としています。交流相手は主としてアジアの学生。ともすればアメリカやヨーロッパに偏りがちな異文化理解を、もう少し近隣のアジア諸国に向け、アジアの一員としてアジアの国々、アジアの人々を理解し、彼らとの友好な関係を若い人たちに築いてもらいたいと考え、実施しています。
 「共同ゼミ」の対象は主に大学院生です。海外の学生と切磋琢磨しながら、これを大きな刺激として学問研究に向かう姿勢と学問研究の質を高めてもらいたいというところからスタートしました。
 「サイバーレクチャー」も言ってみれば学問研究に対する喚起であり、ここでは学部生と大学院生が一緒になって、海外の大学で実際に行われている、まさにホットな講義をそのままの内容で受講することができます。特に、近い将来、留学を考えている学生にとっては、ひときわ重要性の高いプログラムとなっています。
 「チュートリアル英語学習プログラム」は、私たち日本人の弱点ともいえる英語のスピーキング力を付けるために、少人数教育のもとで徹底的に行うために開講されました。
 同じスピーキングレベルの学生四人で一つのグループをつくり、オーラルコミュニケーションに必要な訓練が、一コマ九十分単位で受けられるようになっています。
 この四つのプログラムは、それぞれ独自のテーマを持っていますが、本日のテーマである外国語教育という観点から申し上げると、英語をあくまでもコミュニケーションの道具と考え、英語を運用する環境と豊富な運用機会を電脳空間を通して学生に積極的に提供することで、英語の運用能力を大いに高めてもらおうと考えているわけです。
 これらのプログラムを運用する道具として、パソコン用テレビ会議システムを大いに活用しています。
 「異文化交流プログラム」では、コーネル大学が開発したCUSeeMeというチャットソフトをインターネット上で活用し、他の三つのプログラムでは、松下電器産業が現在扱っているTeleMeet PCというシステムをISDNに直接接続する形で活用しています。



プログラムの利用状況 

学生の大きな支持
対面授業以上に人間的な関係構築

 以上の四つのプログラムは、幸いなことに現在、どれもたいへん好評です。なかでも「異文化交流プログラム」と「チュートリアル英語学習プログラム」は、学生の大きな支持を得るまでに成長しています。
 「異文化交流プログラム」は、一九九七年の立ち上げ当初、文学部の学生わずか三十五名によって行われました。現在は、教育学部、政経学部などその他の学部へも広がり、約四百名の学生がパソコンを前に積極的に異文化交流を進めています。
 交流相手校も、立ち上げ当初はデラサール大学(フィリピン)、高麗大学(韓国)、マラヤ大学(マレーシア)の三校でしたが、いまではブルネイ大学、タマサート大学(タイ)、チュラロンコン大学(タイ)など、十五校を数えるまでになりました。
 さらに、このプログラムは、早稲田大学の中国語科にも飛び火して、現在、交流言語を中国語として、台湾師範大学、高麗大学の中国語科とも交流を行っています。ロシア語科でも、ウラジオストックの大学と交流を進める準備をまさに進めているところです。
 また、「チュートリアル英語学習プログラム」も、立ち上げ時は十七人の学生でしたが、それが今年度前期は千九十八名の応募があるまでに成長しました。
 では、なぜこうしたプログラムを学生は支持するのでしょうか。「異文化交流プログラム」の場合、生身の人間関係が得られること、英語コンプレックスの克服に効果的であること、相手の国の様子が理解でき、そのことで自国への理解が深まること、従来の教員主体の授業ではなく、学生主体で運営できることなどが挙げられています。
 プログラムは、パソコンという機械を使った、いわばバーチャルな環境でのやりとりですが、少なくとも週一回は、互いの顔をパソコンの画面で見ながら、四十五分から九十分、学生たちはいろいろと話し込んでいくわけで、結果として現実の対面授業以上に相手との人間らしい関係ができてしまう。それがこのプロジェクトの魅力だと学生は答えています。
 英語コンプレックスの解消に関しては、こんなエピソードがあります。自分の英語力に自信のない学生がそのことを気にして、「自分は英語が苦手。書くのも遅くてごめんなさい」と言っていました。そうしたら相手の学生がすかさず、「英語力なんて関係ない。大切なのは何を言うかでしょ。あなたと私の間にはそれがあるし、あなたの言いたいことは私には完璧に分かる。だからそんなこと少しも気にすることはないのよ」と言ってきたといいます。こう言われた学生はホッとして、それ以後、同じことに興味があり、話したいことさえたくさんあれば、下手な英語でも理解してもらえるのだと悟りまして、二人の会話はぐんと弾むようになったそうです。
 学生へのアンケート調査では、こうした例はとても多いのです。
 「チュートリアル英語学習プログラム」は、当初、英語に自信が持てない学生をケアする目的で始まりました。電脳空間を活用することになった理由は、いろいろな学部から学生が授業を受けにくるわけですが、だからといって、各学部にケアのためのスペースを設けられるほど施設に余裕がありません。そこで、各学部で既に学生に開放しているコンピュータ室を利用し、電脳空間を使うことで施設の問題を解決しようと考えたわけです。

チューターは全員が日本人
気楽に英語が話せる

この「チュートリアル英語学習プログラム」では、チューターの先生に当たるマービン・ルイスさんを除きまして、チューターは全員、日本人です。
 学生が抱える問題の多くは、英語の知識そのものというよりは、英語を運用した経験が少ないことからくる自信の欠如、すなわちメンタルな問題ですから、そうしたメンタルな部分を理解できる、しかも英語のよくできる日本人がベターであろうと我々は考えていました。チューターが日本人であれば、学生は気楽に英語が使える。どうしても英語が出てこないときは日本語のサポートが得られる。英語を獲得するに当たってのチューターの苦労話が参考になる。いくつものそういう利点が期待できるわけです。
 英語の運用能力を高めることでいうと、指導者や話す相手が英語のネーティブである必要はありません。英語力が初級・中級レベルの場合、気楽に英語を話せる環境が効果的である場合が多いのです。



実際の運用状況 

1人のチューターに学生4人
テレビ会議方式利用した双方向の通信システム

 英語の運用能力の向上を目指した早稲田大学のチュートリアル英語学習プログラム
 「チュートリアル英語学習プログラム」は、パソコン用テレビ会議システムを利用した双方向の通信システムです。一人のチューターに対して、学生四人まで同時に指導を受けられます。二〇〇一年度前期は、全学部より約五百名の学生が受講しています。
 受講する学生はあらかじめ英語能力に応じてクラス編成を行い、サービスサーバーにより、参加する学生、チューター、十六回の試験日程、時間、利用する端末などを、学生の都合に合わせて自動編成します。この情報は常にウェブ上で学生が手に入れることができ、授業の開始や終了、コメントの記入に利用されています。
 チュータールームでは最大十名のチューターが同時に授業を運営できます。パソコン用テレビ会議システムは、書画カメラや音声・映像で構成され、各学部の学生とはISDN回線で接続されます。
 授業の開始は、パソコンを起動して、ウェブ上で参加リストを確認し、開始します。授業に応じて、学生四名のグループ会話練習、学生二名によるペア会話練習は、チューターの指導により任意編成が可能です。
 書画カメラを使用し、文字や図形の明示や、ネットワークを使用した共有のホワイトボード、チャットを活用した分かりやすい指導も可能です。
 また、教育学部では、テレビ会議システムを利用した外国の大学との「共同ゼミ」に積極的に取り組んでいます。
 社会人も多い大学院のゼミで行われている「サイバーレクチャー」では、イギリス・エセックス大学のイアン・ニアリー教授による「日本の人権問題」についての講義や、エジンバラ大学名誉教授の応用言語学では非常に有名なアラン・デービス博士による講義などが行われ、双方向性を利用した英語によるディスカッションが活発に行われています。



プロジェクト立ち上げの諸問題 

教員相互の信頼とエンジニアの協力必要
大学暦の違いも問題

(1)通信環境の構築にからむ問題点
 海外の大学との共同プロジェクトを成功裡に導くには、教員相互の信頼関係だけでは十分ではありません。このプログラムのハードウエアを支えるエンジニアの協力が大いに必要とされます。
 国によってはITのインフラが十分に整備されていなかったり、日本とシステムが違っていることもあり、それが原因で回線がうまく接続されないという事態も起こります。こういった問題に対してはこれまで随分苦労してきましたし、いまなお、原因不明の形で回線が切れたりすることがままあります。「チュートリアル英語学習プログラム」にしてもレッスン中に回線が突如途切れたりすることがあります。ですから、そうした不測の事態に対応できる危機管理態勢を万全にしておかなければなりません。ここでもエンジニアの協力が大いに必要とされます。
 早稲田大学では、松下電器産業をはじめとした企業の協力を得まして、デジタル・キャンパス・コンソーシアムをつくり、ハード面に関しては全面的にバックアップするという体制を三年前にいち早くつくりました。そういう協力体制をつくらなければ、このようなプログラムは成功には導けないということが明らかであると思います。
 
(2)そのほかの問題点
 大学暦の違いも大きな問題です。ブルネイやシンガポールの国立大学の場合、実質的に交流ができる期間は十月一日から一カ月半くらいです。ですから、この場合は早期に学生間で友好関係をつくり、それ以降はEメールを活用するなどの対応をしています。また、どの大学も施設を拡充したいと考えていますが、予算の都合上、そう簡単にはいきません。
 現在、交流校には一学科につき三台のパソコンが導入されています。これは早稲田大学が無償提供したもので、パソコンにはCUSeeMeというチャットをインストールしてあります。
 海外の大学と共同ゼミを行うにあたっても、TeleMeet PCというパソコン用テレビ会議システムを早稲田大学の方で無償提供しました。
 交流のあり方にしても、取り組まなければいけない問題が山積しています。しかしながら、パソコン用テレビ会議システムやインターネット等の情報技術の発達が私たちにもたらしたものは、計り知れないほど大きなものです。
 ここにご紹介しました私どものプロジェクトが、みなさんの教育活動に少しでもお役に立てれば幸いだと思います。



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