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記事2001年10月23日 27号 (10面) 
ユニーク教育 (99) ―― 女子聖学院中学・高等学校
ディベート教育―小学校から大学まで導入―
全国中高校ディベート選手権で準優勝
傾聴力を身につける 国語科の授業に


 第六回全国中学・高校ディベート選手権(ディベート甲子園)が八月四日から六日まで東京・有明の東京ビッグサイトで開催され、高校の部で女子聖学院高校(小倉義明校長、東京都北区)が、全国九地区の予選を突破してきた三十二校の中で準優勝に輝いた。
 「ことばのスポーツ」とか「知の格闘技」といわれているディベート甲子園は、若い世代にディベートの精神や技術の普及を目的に毎年開かれている。高校の部の論題は昔からある問題で最近また新たに話題となっている、「日本は道州制を導入すべきである。是か非か」。同校は肯定側に立ち、道州制のメリットを立論した。
 ディベートの授業や部を担当している筑田周一教諭は以前から「生徒が黒板の内容を移して、それを覚えるだけの受け身の授業でいいのか、生徒が自分で考えて発表するような生き生きと活躍する場が欲しかった」と振り返る。
 同校のディベート教育に対する取り組みは平成五年にさかのぼる。筑田教諭自身ディベート教育の研修を受け、高校一年と二年の授業から始めた。翌年から高校三年と中学も始めた。この年の夏、二泊三日で軽井沢にある同校のセミナーハウスでディベート・キャンプが行われた。同校からは中学生、他校の生徒、そして研究者が集まり、ゲーム大会から始まり、ディベートの基礎的な勉強、中学・高校・社会人が一緒になっての議論を戦わせた。平成八年には中学三年を中心にディベート部もできた。現在では聖学院小学校から同学院大学までディベート教育が盛んに行われている。
 筑田教諭はディベートの持つ意義を「傾聴力、つまり冷静になって人の話を聞く態度を身につけること」と指摘する。
 ディベートは国語科の授業の中に組み込まれており、前期は簡単な論題を通してディベートのルールを身につけるのが狙いだ。まず、小学生向けの解説ビデオを見せ、雰囲気を感じ取り、簡単な論題の論点を探し出す練習をする。論点について作文を書かせ、立論させる、さらにこれに対して反論させる。これを三人一組(マイクロ・ディベート)で肯定側、否定側、審判を順番にやるのだ。後期になると、四―五人一組の班をつくり、グループで対抗戦を行う。そして各クラスで一位になった班がクラス対抗戦を行うというわけだ。
 ディベートでは準備に七割を費やすといわれているが、この準備をいかに丁寧にやるかが問題で、これによって勝敗が決まると言っていい。

 「このディベートで得た能力を高校二年では修学旅行をする場合の事前レポートの作成、高校三年では小論文の授業に活用していきます」(筑田教諭)
 試合に勝つためには膨大な量の資料を調べて、できるだけ多くの論点を挙げて立論する方法もある。
 しかし、そのような勝利至上主義はとらないという。同学院は「神を仰ぎ人に仕う」をモットーに掲げている。この標語は、イエス・キリストが「何がいちばん人間として大切なことですか」という問いに答えた教えが基になっている。同校のディベート教育は最終的には、この宗教的な価値観が見えてくるようなもの、根本的な思想を展開する方法を目指している。
 「問題を自己決定する場合、この根本的にあるものは何か、なぜディベートをやるのか、どうしたら実際の生活の中でも生かせるか、こういう問いかけから出発する、これが本校のディベート教育です」
 題材は「脳死」「高校単位制」「ドナーカード」「安楽死」「環境税」など、いま話題になっている論点から古くからある論点にまで及ぶ。今後は女性としての生き方を考えさせカリキュラムの中にディベートを位置づけていく。「肯定側、否定側の立論を通して、試合という一つの作品をつくり上げていく」(筑田教諭)ところに面白さがある。ディベートを通して、生徒たちは確実に成長している。



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