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記事2001年10月13日 26号 (5面) 
高度専門職業人教育にIT
青山学院大学 専門大学院 e-ラーニングシステム


高度情報化社会を迎えて、大学をはじめとする各教育機関でもいわゆるe―ラーニングを導入するところが増加している。ただ、一口にe―ラーニングといっても学部在学生に重点を置くもの、社会人教育を目的としたものなど対象や目的は多様だ。青山学院大学(半田正夫学長、東京都渋谷区)ではこの四月、一九九九年に改正された大学院設置基準に基づく専門大学院としては、私学で初めて認可を受けた「国際マネジメント研究科」が新たなスタートを切った。全私学新聞では、同科の専攻修士課程に高度専門職業人教育に特化したシステムとして導入され、運用を開始したe―ラーニングプロジェクトについて、同研究科長の伊藤文雄教授と、システムを提供しているインターレクト株式会社のホーン・オイヴィン氏に取材した。

【高度専門職業人教育】

国際マネジメント研究科
グローバル・クラスルームを実施

 青山学院大学では前から高度専門職業人教育に力を注いできました。特に本年四月に専門大学院として開設された国際マネジメント研究科は、国際政治経済学部「国際経営学科」を廃科して、一九九〇年からスタートした「高度専門職業人養成」の国際政治経済学研究科「国際ビジネス専攻」を改組して、国際ビジネスの十年の教育研究の蓄積を基に、グローバル・マネジメントの専門家育成に特化した「専門大学院」として再出発いたした大学院です。
 国際マネジメント研究科は、世界経済のグローバル化の時代的要請に応え、国際マネジメントに精通した人材を育成し、国際社会に貢献していきたいと考えています。それには世界各国のビジネス・スクールと国際合同授業を展開し、グローバル・スタンダードな教育を実践し、異文化圏の価値観を十分に理解し得る人材を育成するプロジェクトを推進させていきたいと考えています。
 現在、国際マネジメント研究科には「国際経営コース」「ファイナンス・コース」「エグゼクティブ・コース」の三つのコースがありますが、「国際経営コース」と「ファイナンス・コース」では、オンライン・リアルタイム・テレビ会議システムによる国際合同授業(グローバル・クラスルーム)を、米国・カーネギー・メロン大学と正規のカリキュラムで定期的に実施し、グローバル・スタンダードな教育に努めています。

【エグゼクティブ・コースに導入したe-ラーニング】

トップマネジメントの養成
e―ラーニングと対面授業有機的に連結

 従来、日本における大学院は、将来の研究者養成を主目的としていて、その研究指導は文献調査から始まり、研究課題の修士論文並びに博士論文の完成に向けての研究の場となっていました。
 一方、「専門大学院」は産業社会のニーズに応えた高度専門知識・スキルを教授していく実践的教育の場を強調した大学です。
 特に、本学の国際マネジメント研究科の「エグゼクティブ・コース」は、グローバル企業において豊富な実務経験を持ち、将来の役職者に期待されている有能な人材に、総合的経営管理遂行能力を与え、ダイナミックに変化する国際競争環境に戦略的な対応のできる能力を開発していくためのコースです。
 企業経営に携わるトップ・マネジメントは絶えず変化していく国際競争環境に対処して、将来の企業の進むべき方向を正しく従業員に示してリードしていく必要があります。また「エグゼクティブ・コース」の教育は、このトップ・マネジメント候補者の教育であるので、短期集中型でやる必要があります。従って「エグゼクティブ・コース」は、二週間の短期集中授業を年三回行いますので、この授業期間外の間に、ITの力を借りた授業、つまりe―ラーニングの導入を考えたわけです。
 国際マネジメント研究科の学生層は、(1)学部から進級してくる学生(2)平均年齢三十歳前後の職業人(3)トップ・マネジメント候補者の人たちという三つの年齢層から成っています。「エグゼクティブ・コース」の学生は(3)の層に当たる学生で、この人たちに毎日学校に来ていただくわけにはいきません。
 普通の学生は毎週学校へ来て、教員に面談し、また、学生同士のコミュニケーションがありますが、「エグゼクティブ・コース」はこの機会が少ないので、やはりITの力を借りることが必要です。
 企業から推薦されてくる「エグゼクティブ・コース」履修者は、二週間の海外出張をさせられたと思って、大学に来ていただこうというのが、私どもの考え方です。
 その間はe―ラーニングを活用して対面授業と連結させていきます。

【e-ラーニングのシステム】

時間的制約から解放
学習活動をサポートするツール

 時間的な制約の厳しい職業人を対象とする教育は、大学に来なければすべてが解決しないということではなく、職場や自宅、あるいは海外の出張先からでもインターネットを活用することによって時間・場所・位置の制約から解放されて教育を受ける機会を創り出していくことが必要です。このようなニーズを満たすツールとしてe―ラーニングシステムがあるわけです。
 国際マネジメントで導入したシステムは、インターレクト社の「.Campus」と「LearnLinc」というシステムです。「.Campus」は年間を通じて教員と学生を一対一で結び、研究課題の研究指導などのコミュニケーションツールとして導入されています。
 「エグゼクティブ・コース」には現在十一名の学生が在籍していますが、授業オフの期間はチームの研究課題をサイバー・ミーティングにより、学習活動を推進していきます。この学習活動をサポートするためのツールとして「LearnLinc」が活用されています。

多忙な職業人の学習に
eラーニングシステム不可欠

 「エグゼクティブ・コース」に在籍するような多忙な職業人たちにとっては、きちんとした学習活動を行う上でITを活用したe―ラーニングシステムの活用は不可欠です。実際、本学ではタイ国に在住している学生が不自由なくクラス・ミーティングに参加しています。

【e-ラーニングシステムの採用・管理】

 確かにe―ラーニングという言葉自体はかなり一般化していて、実験的に運用している大学はありますが、実際の授業の中に組み込まれて実用化されている大学は多くありません。
 その理由の一つとして、いわゆるマルチメディアを教育現場に導入する場合、インフラやシステムの整備のみが先行してしまい、実際の学習環境を十分に考慮することなくプロジェクトが進行してしまうケースが多いということが挙げられます。
 大学に限らず教職員のマルチメディア・リテラシーは千差万別で、機器の管理や教材のデジタル化をすべて教員の担当に負うことは不可能です。大学は何でも自己完結的に行う時代ではなく、本質的な事柄以外はアウトソーシングしていく考えが必要です。
 IT関係はITの専門会社に任せた方がうまくいきます。大学はe―ラーニングに必要なすべてのデータを専門会社に伝え、現実の学習環境にフィットしたシステムの構築を依頼し、安全かつスムーズな管理・運用を期待すべきであると考えています。
 この一年間は現状のシステムで運用し、「エグゼクティブ・コース」のセッションが一巡したときに評価を行い、さらに改善すべきところはアウトソーシング先の企業と協力して行っていきたいと考えています。



インターレクト株式会社代表取締役社長・ホーン・オィヴィン氏の話

.CampusとLearnLincの特徴
簡単にコンテンツ、教材作成

 青山学院に納入したシステムは当社の「.Campus」と「LearnLinc」を統合したシステムで、同校の専門大学院「エグゼクティブ・コース」のシチュエーションに合わせてカスタマイズされたものです。
 この専門大学院には企業などが推薦する職業人が参加しています。特徴は年三回、二週間の集中講義がありますが、その間はキャンパスに来られないので、教員と学生および学生同士がいかにコミュニケーションを図り、高いレベルに学生のモチベーションを維持するかが課題でした。
 これを解決するためのツールとして当社のe―ラーニングシステムが採用されたわけです。
 「.Campus」は、いわゆる非同期型e―ラーニングシステムで、クライアントの希望に応じ、ユーザーインターフェースとアプリケーションを作成することができますので、主に学生と教員とのコミュニケーションに使用されます。
 一方、「LearnLinc」は同期型のシステムで、ネット上に設けられた仮想のクラスルームで音声と教材を共有しながらリアルタイムなコミュニケーションを可能にします。青山学院では「エグゼクティブ・コース」に在籍する学生の、短期集中授業の間にサイバー上でクラスミーティングを行い、相互にディスカッションしながら行う学習活動をサポートしています。本システムの大きな特徴としては、教員がマイクロソフトの「オフィス」を使って非常に簡単にコンテンツ、教材を作ることができることです。多くの教員は「ワード」や「エクセル」や「パワーポイント」を使えるので、それ以外の特別なソフトを使う必要がありません。
 実際にマイクロソフトの「オフィス」を使って教材を作る場合、先生はテキストを作るだけで済みます。作成した教材については、教師はいつでも学習者の状況をチェックすることができます。動画等も簡単に取り込むことができます。また、先生がスケジュールを設定するだけで、授業の進め方を学習者に伝えることができます。オンラインテストにより、学習者の理解度もチェックすることができ、疑問に答えたりすることも双方向でできます。
 各学校により異なるそれぞれのニーズに対し、機能を追加することができます。他のシステムとの統合および連携も可能で、学生や教師のデータベース、図書館のシステムなども同時に組み込むことができます。通常の管理は学校側が行いますが、当社にはデータセンターがありますから、データ管理やサポートを行うサービスも可能です。伝統的な集合教育を行う大学が多い中、当社はより効果的かつ効率的に学習内容を身につけるための、複合的な教育システムをサポートしています。ハードウエア・ソフトウエア・システムメンテナンス・セキュリティーモニタリングなどを総括した管理およびテクニカルサービスがそれに当たります。

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