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記事2001年10月13日 26号 (4面) 
青山学院大に新キャンパス
サイバー教育システムの構築

辻 正重氏

私立大学情報教育協会(戸高敏之会長=同志社大学工学部教授)は九月十一日から三日間、東京・市ヶ谷の私学会館で「第十五回私情協大会」を開催した。ここでは、初日に、辻正重・青山学院大学副学長が行った講演「サイバー教育システムの構築」の概要を報告する。(編集部)

はじめに

 青山学院大学は新たに淵野辺に相模原キャンパスをつくり、二十一世紀型新キャンパスとして、二〇〇三年四月に開校します。新キャンパスのコンセプトは、二十一世紀型文理融合キャンパス「未来と世界のインテリジェント・キャンパス」として、(1)人にやさしいキャンパス(2)高度情報型キャンパス(3)国際交流型キャンパス(4)地域共生型キャンパス(5)環境共生型キャンパスをうたっています。今日は特に(2)高度情報型キャンパスを中心にお話ししたいと思います。青山学院全体の情報化について、さらには、新しい情報通信の動向を踏まえ強力なプラットフォームを作ろうという計画もありますので、この情報プラットフォームと情報コンテンツの開発についてもお話ししたいと思います。ただし、大学として計画しているところもありますし、個人的にこうあるべきと考えているところもありますので、その点ご了解下さいませ。

大学改革競争の時代
自校のポジション、戦略が課題

一、一般的状況
 (一)大学をめぐる状況
 今日、大学はもはや全入時代になりました。現在、大学・短大は全国で約千校、これは十八歳人口百五十万人の体制ですが、二〇〇九年には十八歳人口が約百二十万人に減少しますので、この百二十万人に対して千校が競争していくということになるわけで、大変な時代になります。ですから、今後、大学は社会人教育も考えていかなければならないでしょう。
 一方、文部科学省は世界レベルの大学をつくるとして、「国公私トップ30大学」を育成するという方針を打ち出しました。各大学(各学部)とも、この中に入れるかということで戦々恐々としているのではないでしょうか。このほか、国立大学独立行政法人化政策、ロースクール構想などが、大学をめぐる状況としてあります。特に理工学部に関しては、JABEE(日本技術者教育認定機構)という評価基準をつくり、その大学の育成する技術者を認定していこうという流れもあり、各大学がいろいろな戦略を立てなければいけなくなっています。
 情報教育をめぐる状況としては、大学設置基準の改正があり、大学では百二十四単位中六十単位までバーチャル単位を認めることとなりました。大学院でもバーチャル単位オーケーということです。通信制大学も開学していますし、また放送大学も大学院を開設するといった動きがあります。
 大学は、このような状況下で、大学改革競争が始まります。自校のポジションを認識し、大学戦略をどうするかという課題が出てきています。
 (二)情報教育をめぐる状況
 情報教育について見てみるとき、一つの大きな流れは米国の大学の戦略です。例えば、スタンフォード大学はインターネットでの教材有料配信を始めましたし、MITも教材無料配信という話がありました。ただ、MITについてはシラバス程度らしい。とにかく、アメリカの大学は世界提携策を探していますし、進んだ教材の世界標準化、ひいては教育の世界標準化を目指しています。日本においても、こうした動きに対応するため、サイバー・ユニバーシティ、サイバー・キャンパス構想が立ち上がっています。例えば、私立大学情報教育協会ではサイバー・キャンパス・コンソーシアム構想を提案していますし、日本私立大学連盟でも教育情報衛星通信ネットワーク高度化事業を立ち上げています。また、メディア教育開発センターのバーチャル・ユニバーシティ構想、IDCイニシアティブの官・民・学連携MAN構想というものもあります。
 こうした大学全体の流れ、情報関連の状況の中、我々もさまざまな対策を考えざるを得ません。日本の大学の現状を見ると、ハードに関してはかなり整備されてきたといえます。しかし、さらに進んだサイバー・キャンパスを実現するためには、大容量のデータ通信ができる強力な情報プラットフォームと、これに対応したコンテンツが必要になってくるわけです。
 (三)情報通信技術をめぐる状況
 大容量のデータ伝送を可能にする通信回線として、最近、日本でも都市部を中心に大容量・高速のブロードバンド(CATVやADSLなどの広帯域回線)が普及してきました。ブロードバンドは、通信速度が一〜一・五Mbps(メガ・ビット/秒)以上で、例えば五十Mであれば一時間のビデオが三秒で送信できるということですから、従来は難しかった高質の動画や音楽が瞬時に送れるわけです。これに伴い、携帯電話やノートパソコンなどモバイル化もさらに進むと考えられます。
 このような大容量・高速の回線を使うことによってデータ量が増大することに伴い、IDC(インターネット・データベース・センター)化、つまりIDCへのアウトソーシング化が進むと考えられます。ブロードバンドなどに対応したコンテンツを蓄積・配信するには、大容量のサーバーが必要ですし、その運営や・管理には膨大な費用がかかります。このため、大学等においても、大容量のサーバーを備え、データを蓄積したり配信したりするサービスを行うIDCへのアウトソーシングがどんどん進むものと考えられます。

大学改革競争の時代
自校のポジション、戦略が課題

二、青山学院大学の新キャンパス構想
 こうした中で、青山学院の一つの大きな戦略として相模原新キャンパス構想があります。
 現在、青山学院大学は、青山のメインキャンパス、厚木キャンパス、世田谷キャンパスの三キャンパス体制となっています。しかし、厚木キャンパスは交通の便が悪い。また世田谷キャンパスの理工学部は、超伝導の研究や液体窒素を燃料とした自動車の研究、電磁波の研究、二足歩行ロボットの研究などで注目されていますが、建物が古いという問題があった。そういうこともあって、法人の用意してくれた淵野辺の約五万坪の土地に、二十一世紀型新キャンパスをつくろうということで、最初にお話ししましたような高度情報型・国際交流型・地域共生型・環境共生型キャンパスをコンセプトに、相模原新キャンパスをつくることになりました。新キャンパスには、厚木キャンパスの学部・学生および世田谷の理工学部と大学院を収容し、二〇〇三年四月からは青山との二キャンパス体制となります。また、ここにもう一つ、文理融合型の新しい学部を計画中です。

 三、高度情報型キャンパスと青山学院の情報化
 新キャンパスのコンセプトのうちの高度情報型キャンパスの内容として、サイバーキャンパス、遠隔教育やテレビ会議といったことが挙げられます。教育モデルとしては、リアル教育とバーチャル教育のハイブリッド教育を行います。特にフレッシュマン教育では、フェイス・ツー・フェイスの関係に基づいたバーチャル教育がメインになるでしょう。新キャンパスには、その中心となる施設として仮称メディアセンターが置かれます。ここは高度情報型の建物で、情報科学研究センター、図書館、ラボ施設などで構成されます。
 ネットワークの基本は学内LANですが、基幹ネットワークのほかに無線LANも考えています。認証システムによってインターネットにも接続することができますし、MAN(MetropolitanAreaNetwork)構想などへの参加も検討中です。そして基盤になる学外プラットフォームをつくり、学生にはモバイルを持たせ、マルチメディア教室、テレビ会議室を設け、遠隔教育などができるようなことも考えています。また、内外大学・機関との遠隔授業(セルフEラーニングシステム)や、出欠管理・成績管理・自習支援などを行う授業支援システムなどを考えています。学部・センターをグループウエアとし、学内情報を共有するための学内通信システムや広報システムを整え、学部にはバーチャルオフィスを設け、ホームページシステム、シラバスシステムのほか、情報センターでは情報教育支援体制を構築します。これらの多様なシステムによってサイバー・ユニバーシティ・システムが構成されると考えています。
 四、プラットフォームの構想
 こうしたサイバー・ユニバーシティ・システムを運営するためには強力なプラットフォームが必要です。
 プラットフォームとしては前述したIDCが挙げられます。
 アメリカではIDCが既に三十ほどあり、それらは大容量のサーバーを備え、すべてを管理し、セキュリティーはもちろんサイバーテロにも対応している。日本ではまだそういうものがないということで、産官学共同でIDCをつくろうという構想が中央大の大橋先生を中心として立ち上がっています。
 通信網としては、東京電力の持つ高速・大容量の光ファイバー・ネットワークを活用し、この中の一つとして大学間のクローズド・ネットワークをつくる構想です。そして、これをIDCと接続し、情報の蓄積や配信を行うわけです。この強力なプラットフォームによって情報教育や遠隔教育を行うことができるようになります。
 このプラットフォームの構築については、現在、私どもの理工学部の教員が参加して検討をしているところです。

授業のデジタル化推進
理工、総合研究所は既に計画

五、授業コンテツの開発、ウェブ化とセルフEラーニング
 ハードの次に必要になってくるのは、デジタルコンテンツですから、どのようなデジタル授業をつくるかが当面の課題となります。
 青山学院の中では、例えば理工学部では情報関係授業、問題解決演習などをウェブの上に載せていますし、総合研究所ではAML(青山メディア・ラボ)という計画がありますので、これをもっと強力に全学的に推し進めていきたいと考えています。
 また、青山学院で実施しているデジタル授業の例としては、大学院の国際マネジメント研究科で行っているカーネギーメロン大学との国際合同授業が挙げられます。このように大学として授業のデジタル化を進めていきます。その中でMBAやMSEの取得なども実施してゆきたいと考えています。デジタル授業については、今後、内外大学間の連携という動きが出てくると思いますが、そこでギブ・アンド・テイクの関係が成り立たないと、アメリカの大学の教材を借りて授業をする一方ということになりかねません。本学の授業をデジタル化し、お互いに利用し合うといった大学連携にも対応していきたいと考えています。
 その場合、CAIやデジタル授業などのコンテンツを、新たに開発・制作するとなると費用も時間もかかります。しかし、最近では一般の授業などをビデオに録画して、パワーポイントなどの教材とそれを同期化しブロードバンドに対応したデジタルコンテンツ化をするソフトもありますから、デジタル教材として特別なものが必要なわけではなく、通常の授業をビデオに録画し、デジタル化していけばいいということになります。
 つまり、先生方の中で、自分の授業をデジタル化してもいいよという了解が取れれば、わりに安価に授業をデジタル化できることになります。
 そうしますと、それらのデジタル化した授業をサーバーに格納しておけば、今度は学生さんがモバイルを使ってサーバーにアクセスし、いつでもどこでも授業を受けることができることになるわけです。青山学院ではこうしたシステムを支援するために、教材開発センターのようなものも考えています。
 このシステムは別に新しいことではありません。十五年ほど前に私がスタンフォード大学に行った時のことですが、学生たちは、通常の授業を受けて、その授業をもう一度見たいときには、図書館へ行けばビデオで何回でも見られるシステムになっていました。ITの発展により、そういうことがネットワークを使って簡単にできるようになるということです。これは慶應のWIDEで既に行っています。

【動機付けがカギに】

六、フレッシュマンの3I教育(インフォメーショナル、インターナショナル、インテリジェント)
 フレッシュマン教育については、リアル教育が一番大切だろうと思います。中でも動機付けが大切で、動機付けさえできれば、情報はいくらでもあるわけですから、ネットワークを使っていろいろな知識を取得できると考えています。
 もう一つ補習的な教育も必要になると思います。例えば情報リテラシー教育にしても、五年くらい経つと高校までで教育されてきます。大学で基礎的な授業を行う必要はなくなるでしょうから、情報科学研究センターで講習会形式で情報教育を実施する。そこでは、専門教育へ進むための情報リテラシーのレベルをそろえるということを行うわけです。
 また、英語や数学にしても、青学英会話スクールあるいは青学数学スクールをウェブ上に開校し、ネットワークを使って、学力のレベルをそろえるために高校までの学習の補習をする、というようなことも考えています。

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