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記事2001年10月13日 26号 (3面) 
中央教育審議会の審議の動向
中央教育審議会には現在五つの分科会と六つの部会、一つの委員会が設けられており、それぞれの分科会・部会等では諮問事項に沿った審議が続けられている。そのうち最近開催した分科会等の審議概要を報告する。(編集部)

【生涯学習分科会】

青少年の体験活動3氏が発表
活動費を社会的に負担社協の和田氏

 中央教育審議会の生涯学習分科会は十月三日、東京・霞が関の文部科学省分館で第十回会合を開いた。この日は青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策に関する意見発表として、団体・企業から三人が活動内容、実践例を報告した。発表したのは、山岸秀雄・NPOサポートセンター理事長、和田敏明・全国社会福祉協議会事務局次長、島田京子・日産自動車株式会社広報部社会文化室担当部長の三氏。このうち山岸氏は「NPOなくして、ボランティア活動の活性化はありえない」と述べ、NPOを活用しながら市民セクターの力を大きくしていくことが必要だと指摘した。
 山岸氏はNPOには(1)地域の社会問題を解決する(2)社会システムを変革する――という二つの社会的役割があるとしたうえで、一九九八年のNPO法(特定非営利活動促進法)の成立は、市民のあらゆる自主的な活動の社会的認知を高め、行政やパートナーシップを築く基盤となり、また、社会からのNPOに対する期待も急速に高まっていると現状を説明。一九九三年に日本最初のNPO支援団体として誕生したNPOサポートセンターでは、昨年開いた全国ブロック会議で、「産官学民」による新しい地域連携を目指す「NPOプラットフォーム構想」を活動目標にしたと報告。活動の一例として「常磐線NPOプラットフォーム」の取り組みを紹介した。これはJR常磐線沿線地域の市民や大学と連携し、コミュニティービジネスなどを展開しているもので、今年四月には柏駅近くにNPO支援センターを設けた。
 大学は生涯学習の拠点として、地域活性化に貢献することができ、企業・商店街にはコミュニティービジネスという新しいビジネスチャンスという魅力がある、などとこの取り組みの特色を述べた。
 和田氏は全国社会福祉協議会による体験学習推進の代表的な取り組みとして、ボランティア体験月間を中心とした体験プログラムの提供や教員免許法の特例による介護等体験事業への協力などを紹介。質の高い体験活動を行っていくためには、送り出す団体(学校)、仲介・調整機関(ボランティアセンター)、受け入れ団体(社会福祉施設、NPO)の三者それぞれに、活動をサポートできる体制(コーディネーター)が必要だと強調。また、既存のさまざまな団体の取り組みを尊重して、これらを伸ばしていくこと、体験活動を推進するにはコストが掛かることを自覚し、社会的にそれを負担し合う仕組みをつくることも必要だと指摘した。
 島田氏は企業における活動事例として、日産自動車がNPOで仕事をすることを希望する学生に奨学金を支給する「日産NPOラーニング奨学金制度」について報告。一九九八年からスタートしたこの制度によって、毎年、約二十人の学生が奨学生として、さまざまな分野のNPOでキャリアを積んでいる。
 島田氏は今後、企業ではピラミッド社会が成り立たなくなると指摘。そこで「共感」のマネジメントが重要となるが、NPOでは「共感」の行動原理を学ぶことができると、この制度の意義を述べた。

【法科大学院部会部会】 

法科大学院独自の学位創設
標準修業年限3年、短縮型2年

 中央教育審議会大学分科会の法科大学院部会は十月一日、東京・霞が関の文部科学省別館で第三回部会を開き、法科大学院独自の学位(専門職学位)、標準修業年限などについて議論した。専門職学位の創設については、現行の修士・博士の学位が大学院設置基準で定められた内容の課程を修了したことの知識・能力を証明するものとされていることから、法科大学院の課程の内容が修士・博士課程と異なるものとなれば、新しい課程と新しい学位をつくる必要があるとして、その創設の是非が論議されている。この日の部会でも法科大学院独自の学位新設を検討すべきだとの意見が出た。
 鳥居泰彦・中教審会長(慶應義塾学事顧問)は「世界のローファームで認知してもらえるものとして、新たに提案することが重要だ」と指摘し、小島武司・中央大学法学部教授は「EUで進行中の大改革を調査し、これを踏まえたうえで討議する必要がある」と述べた。修士・博士以外の新たな学位とする場合、国民一般への定着の可能性、国際通用性が課題となり、また、新たな学位は法律実務に関する学位とするか、一般的な専門職学位とするかなどの課題もあり、引き続いて議論していくこととなった。
 法科大学院の標準修業年限については司法制度改革審議会が六月に出した意見書で「標準修業年限は三年とし、法学既習者については短縮型として二年での修了を認める」との方針を打ち出している。社会人の受け入れのため、短期在学コース制度を設けるかどうか、設ける場合、最短標準修業年限は何年にするかという課題もあるが、委員からは「短縮型を安易に認めると、法科大学院を短期詰め込みにしてしまう」(川端和治・日本弁護士連合会法科大学院問題特命嘱託)、「あまり例外を設けすぎるのはどうか。進級のチェックなど、法科大学院としての質を担保すべきだ」(奥田隆史・司法研修所事務局長)などと、司法制度改革審の意見書の方針を支持する意見が多く出た。
 その後、磯村保・神戸大学大学院法学研究科長が法科大学院設置後の法学部教育の在り方について意見発表を行った。磯村氏は現在の法学部教育の問題点として、民法、刑法などの基本科目における大講義授業、「競争試験」としての司法試験合格を目指す法曹志望者の学習が「正解探求型学習」となっていること、法曹養成を意識しつつ、結果的に法的素養を備えたジェネラリスト養成となっていることなどを指摘。そのうえで、今後の法学部像として、ジェネラリスト養成特化型、ニーズ対応型、飛び級・三年次卒業活用型など多様な姿が想定されるとし、従来の完結型法学専門教育モデルからの転換、法学部教育改革の必要性を説いた。奥島孝康・早稲田大学総長は法学部長当時、二年間激論の末、卒業後法曹以外の進路に進む多くの学生のために法学カリキュラムを改革したとし、「法科大学院ができることで法学部教育も本来在るべき姿に変わる」と述べた。


【大学院部会】

通信制博士課程等創設の是非審議
制度化へ期待の一方で疑問も

 中央教育審議会大学分科会の大学院部会(部会長=中嶋嶺雄・東京外国語大学長)は、九月二十七日、文科省別館で三回目の会合を開き、通信制博士課程と一年制専門大学院創設の是非などについて討議した。通信制博士課程に関しては、事務局(文部科学省)から、通信制修士課程の在学者の九割以上が博士課程の創設を望み、また修了生の多くが修士課程の研究テーマを発展させるための学習を継続したいと考えており、研究指導を行うための条件整備、経営上の問題はあるものの、制度的に博士課程設置を認めることに関しては、通信制修士課程を設置している大学も概ね好意的であることなどが報告され、通信制博士課程の設置を認めることがふさわしいのでは、との方向がこれまでの審議の流れであるとして説明された。
 一方、一年制の専門大学院の創設に関しては、これまでの審議内容を反映した骨子案が事務局より読み上げられ、社会人が大学院において短期で集中して高度な専門職業教育を受ける機会を拡大する観点から、専門大学院に一年制コースを設けることができるようにしてはどうか、との方針が提示された。さらに一年制の対象者は専門大学院と同じ考えで、主として実務の経験を有する者、分野も基本的には同様に、例えば経営管理、法律実務、ファイナンス、国際開発・協力、公共政策、公衆衛生、情報通信等の分野が期待されていることが報告された。
 こうした説明に対して委員からは「専門職に関してはどのくらい学べばよいかの議論を先行させるべきだ」「次々と風穴を作ったため、制度全体の整合性がなくなってきている」「情報機器を使っての指導に国立大学の教員が対応できるのか」など新制度への疑問、慎重審議を指摘する意見が相次いだ。しかしその一方で、「一歩進めるべきだ」「修士だけ認めて博士課程は認めないのか」など新制度創設を求める意見も聞かれた。文部科学省も、「制度をオープンにした上で水準を考えていくべきだ」と進展に期待感を表明した。

 
【大学改革連絡会】

国立大学法人を検討
トップ30大学案申請の在り方で論議

 中央教育審議会大学分科会と科学技術・学術審議会学術分科会との合同の「大学改革連絡会」第三回会議が十月三日、東京・一ツ橋の学術総合センターで開かれた。九月二十七日に「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」が中間報告をまとめており、この日は「国立大学法人」像をめぐって議論が行われた。
 冒頭、合田隆史・文部科学省大学課長から「調査検討会議」がまとめた国立大学法人制度の概要について説明があった。合田氏は(1)大学ごとに法人化し、自律的な運営を確保(2)民間的発想のマネジメント手法の導入(3)学外者の参画による運営システムの制度化(4)能力主義に立った人事を実現(5)第三者評価の導入による事後チェック方式に移行が特徴であると指摘。また、独立行政法人通則法をそのまま適用するのは問題があるとして、▽学外者の大学運営への参画の制度化▽客観的で信頼性の高い独自の評価システムの導入▽学長任命や目標設定で大学の特性・自主性を図っていると述べた。
 中間報告で教職員の身分に関しては「アプリオリに公務員型、非公務員型を選択するのではなく、個別の制度設計を積み上げた最終結果として判断する」とされており、この点について井村裕夫・総合科学技術会議議員が「最終報告では収斂するのか」と疑問を投げかけた。これに対して工藤智規・高等教育局長は「調査検討会議ではどちらかといえば非公務員型をサポートする意見が多かったが、公務員制度改革の帰趨も見ながら判断することになるだろう」と応えた。
 現在、既に国立大学の再編・統合は山梨大学と山梨医科大学、筑波大学と図書館情報大学など六組が統合について合意しているが、統合の在り方についても井村氏は「統合することで新しい特色を出すことが重要だ。地理的に近いから一緒になるというのは安易だ。ヨーロッパでは国境を越えたコンソーシアムもできている」と指摘した。これに関連して「同じ学問分野の大学でまとまってもいいのではないか」(茂木友三郎・キッコーマン株式会社社長)、「統合によって総合大学となるメリットもあるが、デメリットもある。単科で特化する大学があっていい」(黒田壽二・金沢工業大学学園長)などとする意見が委員の間から出た。工藤局長は「あくまでも質的向上が大前提であり、地理的近接性が大前提だというわけではない」と述べた。
 国公私トップ30大学(世界最高水準の大学づくり)プログラムについても議論が行われた。このプログラムでは、国公私立大学の大学院の専攻(博士課程)レベルを原則に、学問分野別に各大学からの申請を受け付けるとなっているが、「最初から一つの大学からの申請はいくつまでと決めるのは(学問分野ごとに世界最高水準を目指すという)趣旨に反する」(荻上紘一・東京都立大学長)とする意見が出て、これに同調する意見が複数の委員から出た。また「外国人研究者も委員に加えるなど、審査委員会をしっかりした組織にすることが重要だ」(黒田氏)との指摘もあった。

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