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記事2001年1月3日 1号 (13面) 
インタビュー 日本弁護士連合会会長 久保井一匡氏
社会ニーズに応える司法
価値観の多様化に対応


 司法制度改革審議会がまとめた中間報告について、法曹界ではどのような評価をしているのだろうか。日本弁護士連合会の久保井一匡会長に中間報告とともに大学の法学部教育の問題などについてお話を伺った。


 ―日本の司法の現状についてどのような認識を持っていらっしゃいますか。
 会長 まず司法は、立法、行政に対抗できるパワーがありません。例えば法曹人口については諸外国に比べると少なすぎます。また司法予算は年間三千億円ほどですが、これは都市銀行が不良債権を処理するために一行に投入される金額よりも少ないのです。司法が社会のニーズに応える大きさになっていないのです。さらに立法については選挙で国会議員が選ばれ、行政ではその国会議員の中から大臣が選ばれ、両方とも国民との接点があります。一方、司法(裁判官)は国民的接点がありません。これから価値観の多様化を考えると、司法も国民との接点を持ち法律専門家と一般人が共同作業をしないと、硬直した判断が行われてしまいます。
 ―大学の法学部教育の問題点としてどのようなことが挙げられますか。
 会長 従来、公務員、経済界へ優秀なゼネラリストを提供してきた功績は大きい。しかし、法律専門家の養成という点では、完全に機能を失っています。つまり、司法試験を目指す人は予備校に通い、試験科目の技術的知識の修得に熱心になり、本当の法律学の勉強ができていません。また隣接する社会学、哲学、歴史学、経済学などの知識を身につけていません。この状況を是正するためには、司法試験合格者数を増やすと同時に、法律家を養成するための機関が必要になります。
 ―そのためには、中間報告でいう法科大学院(ロースクール)はぜひ必要になってきますね。
 会長 そうです。中間報告は法曹一元に踏み切っていないが、前向きに検討している点は評価していいと思います。法科大学院は一部の有名大学だけに認めるのではなく、全国に偏ることなく、設置する必要があります。各地域に適正に配置して多様な内容でお互いに自由競争をさせるべきです。卒業後はその地域に根づくよう(な仕組み)にしないと、法曹の偏在は解消しません。
 ―国民に信頼される法曹像とは。
 会長 人権感覚を身につけた、人間と社会に対する深い理解のある法曹です。紛争を抱えて悩んでいる人が対象なのですから、市民にとって優しく親切で、また企業にとってはよきアドバイザーでなければなりません。
 ―法曹界に進む人はどのような心構えを持つべきですか。
 会長 立法・行政をはじめ、経済界を表舞台とすれば、司法はそれを裏方で支える杖のようなものです。日本の二十一世紀を支える重要な役割を果たすのですから、司法制度の持つ社会的役割の重要性を十分認識し、公共的な職業ということをわきまえてほしい。
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