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記事2001年1月23日 2号 (3面) 
専門学校 高等職業教育機関の位置づけ明確に
全国専修学校 各種学校総連合会 会長 伊東 兵次氏 学校法人伊東学園理事長
専門学校への進学率急上昇 経常費等の増額を

(1)平成12年度を振り返っての問題

 昨年六月の第四十五回全専各連定例総会で、会長を十一年間務められた大森厚先生が退任して名誉会長となり、副会長であった私が新会長に就任いたしました。
 平成十二年度を振り返ってみますと、まず文部省の学校基本調査では、専門学校をめぐって新しい流れが起こりつつあるのかなという印象を感じます。在学者は六十三万七千人で前年度に比べて二千人増えています。入学者は三十一万四千人で前年度より五千人増え、過年度卒を含めた専門学校への進学率は〇・八ポイントアップして二〇・八%と過去最高を記録しました。中でも、大学・短大・高専を卒業して専門学校へ入学しているものは二万五千人おります。また、専門学校卒業者の大学編入学者も前年度より六百六十三人増えて千百三十六人となり、平成十一年度から実施された編入学制度は定着してきたと思います。
 また、昨年の秋には政府の「日本新生のための新発展政策」で補正予算が成立し、「情報通信技術(IT)講習推進特例交付金」が創設されました。IT講習の内容は、インターネットが使えるようになるために必要な基礎技能の取得であり、講習場所としては専修学校を含めた私学および公民館等の地方公共団体の施設となっております。目標として受講可能人数は約五百五十万人程度を想定しており、専修学校へも大きな期待が寄せられております。講習の実施の過半は平成十三年度となりますが、全国で実施できるよう準備しております。
 昨年十二月二十日には、「二十一世紀に飛躍する専修学校」をテーマに、専修学校振興大会を都内のホテルで開催しました。当日は、町村信孝文部大臣・科学技術庁長官、斉藤斗志二防衛庁長官、牧野隆守自民党組織本部長、八代英太自民党広報本部長、麻生太郎議員連盟副会長、臼井日出男議員連盟副会長等々のご来賓をはじめ、国会議員の先生方が約六十人と代理の秘書の方が約百人、文部省・労働省の役職者が約十人、そして全国の私どもの会員校から約六百人が集まり、大いに盛り上がりました。

地方交付税の積算増 補助対象範囲拡大要求も

 専修学校振興大会の当日のスローガンは四つあります。ひとつは「専門学校、高等専修学校の制度的位置付けの明確化」です。それぞれが、高等教育機関、後期中等教育機関として位置付けられていますが、専修学校制度としては、一般の人から見た場合、明確とはいえません。学校数、学生数からいっても、日本で最大の職業教育機関でありますが、もっと制度として明確となる位置付けを新たに考えていただきたいという要望です。
 二つ目は、「専修学校への各種助成金の大幅な拡充」です。ご承知の通り、専修学校は社会的に重要な使命を果たしていると自負していますが、私立学校振興助成法による経常費補助がありません。平成十二年度の国からの施設設備費補助は、私立専修学校は全国で三千二百校ありますが、総額で八億二千万円にすぎません。
 三つ目は、「専修学校への地方交付税の大幅な拡充」です。各道府県は、私立専修学校に地方交付税をもとに自主財源による助成措置を行っています。ところが、総務省が示す地方交付税積算の「専修学校補助」は、実際の約一五%でしかありません。このような地方交付税の積算額では、各道府県とも私立専修学校の振興のために大幅な予算増額・補助対象範囲拡大要求を行うことは困難となっております。
 四つ目は、「私学共済制度の公的年金一元化反対」です。
 いずれも、大会当日、満場一致で拍手承認を得ました。今後の専修学校の振興を図るうえから、大きな自信と意義を得た大会だったと思います。

再就職訓練を大幅拡充 IT関連、介護、経理など委託訓練

(2)国の緊急雇用対策

 平成十年十二月、政府は「雇用活性化総合プラン」をとりまとめました。失業率は四%後半にとどまり五%に届く状況となっており、景気回復とともに雇用失業対策は、内閣の最大の課題となっています。労働省は、中高年離転職者への再就職訓練を大幅に拡充するために、専修学校各種学校への委託訓練を拡大することとし、本連合会へ協力を要請してきました。具体的には、中高年失業者を対象として専修学校等で、IT関連技術、介護福祉、経理事務等の再就職に役に立つ訓練内容を一日六時間、週五日のコースを三カ月または六カ月間実施するということです。全国的には、平成十一年四月ぐらいから実施されましたが、当初はハローワークとの連携がうまく行かず、三十人のコースに失業者が数人しか応募してこない学校が続出するなど苦労しました。しかし、同年の夏ごろには、ハローワークとの連携も全国的に軌道に乗り、平成十一年度は約七万人の失業者への委託訓練を実施することができ、専修学校はそのうちの約七割を受け入れました。
 また、平成十一年度には、国の補正予算が組まれ、職業能力開発相談支援事業における対象者の年齢、離職理由の要件緩和等が行われ、受け入れ拡大策がとられました。学卒未就職者能力開発支援事業も開始されました。平成十二年度になってからも、IT・介護関連分野訓練コースの拡充、夕刻以降開始コースの実施、情報通信関連短期コースの実施等の諸施策が行われてきました。その結果、平成十二年度としては、年度当初の受け入れ目標は年間十万人でしたが、同年十一月には十万人受け入れを達成しました。年間で最終的には十何万人を受け入れることになるのか楽しみです。
 平成十二年度、労働省においても補正予算が組まれ「職業能力のミスマッチ解消のための高度人材養成事業の実施」に百二十七億円、「IT化に対応した総合的な職業能力開発施策の推進」に二百十八億円が創設されました。この中では、情報格差(デジタル・ディバイド)解消のためのIT職業能力習得機会の確保、提供事業が、対象者数約四十万人と設定されています。専修学校は、引き続き失業者へのIT関連分野訓練コースの拡充を中心とした委託訓練を続けていく予定です。

即戦力となる人材、起業家育成

 文部科学省の新規予算を見てみますと、専修学校ITフロンティア教育推進事業として四億二千四百五十六万円計上されました。内容は二つあります。一つは、企業の第一線で活躍する社会人を対象とした、即戦力となるITスペシャリストを養成するため、習熟度や期間に応じたさまざまな教育プログラムの開発等の先導的な事業を推進することとなっています。もう一つは、IT関連分野において、新産業創出の担い手となる起業家精神・経営マインドを有する人材育成を図るため、産業界との密接な連携のもと、起業家育成のための先導的な教育プログラムの開発事業を推進することです。先ほど言いましたが、総務省・文部科学省のIT講習会は、インターネットが使えるような基礎技能の取得であり、厚生労働省の施策は失業者の再就職に資するIT関連分野の技術・技能の取得です。文部科学省の新規予算は、同じIT教育でも、産業界の第一線で活躍する社会人や起業家にまでなれるレベルの最先端のIT教育の開発を目指した、かなり高度な意欲的な予算です。このように、本年は専修学校において、さまざまなレベルのIT教育を展開・推進していく年となります。新たな世紀のスタートに当たり「二十一世紀に飛躍する専修学校」を合言葉に、制度の原点に立ち返り、常に新たなる社会のニーズに応えられる専修学校でありたいと考えています。

留学生受け入れ2年連続増加
他の高等教育機関と同等の扱い等が要因

(3)専門学校への留学生受け入れ

 平成十二年五月現在、わが国の高等教育機関が受け入れている留学生総数は約六万四千人、そのうちの一三・七%にあたる八千七百八十一人が専門学校留学生です。専門学校留学生は前年度比二七%の増となりました。  専門学校留学生数は平成二年に過去最高の一万二千人を超え、その後減少傾向をたどってきたが、平成十一年、九年ぶりに増加に転じ、二年連続で大幅増となりました。
 平成二年以降の専門学校留学生減少傾向の原因としては、大学等留学生との処遇面での格差とバブル崩壊後の景気の低迷などがあげられていました。とくに大学等留学生との格差については、卒業後のわが国における就職の問題、アルバイト時間の規制、二年次以降からの学習奨励費支給、授業料免除に対する学校への援助がない、などさまざまな課題がありました。
 全専各連では、これらの課題解決のために、平成五年に「専門学校留学生受け入れ自主規約」を制定、研修会を開催するなどして留学生受け入れ校の体制整備を進めるとともに、当時の文部省、法務省等への働きかけを行ってきました。その結果、平成九年には「専門士」の称号取得を条件に卒業後のわが国での就職が可能となったほか、平成十年からはアルバイト時間、十一年度からは学習奨励費の支給についても他の高等教育機関と同様の取り扱いとなりました。
 また、国の政策においても規制緩和と自己責任の観点から、保証人制度の廃止や在留期間の見直し、留学生受け入れにかかる手続きの簡素化などの措置が次々と講じられ、それに呼応するように留学生数が増加してきていると見ることができます。
 今後、さらに専門学校留学生の受け入れを促進するためには、まだ解決していない課題への対応とあわせて、とくに国費留学生の大幅な増員と留学希望者に対する的確な専門学校情報の提供の必要性が指摘できます。
 専門学校への国費留学生は、平成十三年度の予算案では二百九十人、約八億円を計上しています。たしかに平成十二年度と比較して新規に二十人以上の増員とはなっているものの、国費留学生全体の三%にすぎません。専門学校は国からの経常費もなく、授業料減免に対する援助もないために、留学生が負担する学納金は他の教育機関に比べて高くなります。だからこそ、国費留学生の大幅増による専門学校留学の活性化が必要ではないでしょうか。
 日本への留学希望者の多くは、まず日本語を勉強するために就学の在留資格を取得し、日本語学校に入学します。そして、財団法人日本国際教育協会の主催する「外国人学生のための進学説明会」等で進学先情報を得ます。また、母国で日本語を勉強し、「日本留学フェア」等で留学先の情報を入手します。この時点での情報の多寡が進学先・留学先を決定します。特にアジア諸国からの留学生の中には、実務的な技術・技能の取得を目的としている人たちも多くいます。留学希望者の多様なニーズに対応できる適切な情報の提供が求められています。具体的には、日本国際教育協会の留学情報センターを中心に、大学・短大・専門学校・高等専門学校の留学に関する情報を集め、データベースを構築することが必要ではないかと思います。
 留学生の受け入れは、わが国の国際貢献に資する重要な政策です。専門学校としても目標とされるいわゆる「留学生受け入れ十万人計画」の達成に向け、より積極的な受け入れとともに、受け入れ校の体制整備についてもさらに推進していかなければならないと考えています。

職業教育に重要な役割 専門学校の在り方も視野に

(4)平成13年度の重要課題

 昨年十二月に開催した専修学校振興大会で決議した四つの課題は、引き続き平成十三年度の重要課題でもあります。
 中でも、専門学校の位置付けを明確にする課題が、特に本年度の最重要課題となるのではないかと思います。昨年十一月、文部省の大学審議会が最後の総会を開催いたしました。そのとき「短期大学及び高等専門学校の在り方について」総会への審議経過報告が提出されています。その報告の「III.今後の検討について」の中で「このワーキング・グループでは、総会から託された審議事項である短期大学及び高等専門学校の在り方を中心として審議を進めてきたが、短期高等教育機関全般という広がりでとらえた場合、専門学校が、実際的な知識・技術等を修得するための実践的な職業教育・専門技術教育機関として重要な役割を果たしてきていることから、専門学校の在り方についても視野に入れつつ検討することが必要である」と言及されています。
 ご承知の通り、大学審議会は今後は、中央教育審議会に統合されますが、これからも日本の高等教育に関する議論の中心となる機関です。
 今後、専門学校を含めた日本の短期高等教育機関全般に関して、どのような議論が展開されるのか、注目していくとともに、大いに期待しております。
 これまでは、日本の高等教育をめぐる議論の中で、高等教育における職業教育、言い換えれば高等職業教育の問題は、あまり議論されてこなかったように思います。しかし、これからの日本の状況を考えますと、少子化が進み就業人口も減少しながら、フリーターが百五十万人いるように、職業教育は重要です。しかも、高等教育における職業教育が、より重要になってきます。具体的には、単なる技術・技能だけではなく、就職を前提としたキャリアプランニング能力を身につけ、健全な社会人・職業人としての職業倫理を持った人材育成が、これからは社会からより強く要請されると思います。
 高等職業教育機関として専門学校の位置付けを、より社会的に明確にしたいと考えます。


 専修学校は職業や実際生活に必要な能力を育成し、また教養の向上を図ることを目的に創設された学校制度だが、約七十五万人が学んでいる。また平成十一年五月一日現在、専門学校で学ぶ留学生数が九年ぶりに大幅に増加したことが文部省の調査で明らかになった。今や専門学校は高等教育機関の重要な一翼を担っている。年頭に当たり伊東兵次・全国専修学校各種学校総連合会会長に十二年度を振り返っての問題、留学生受け入れについての問題などについて、ご寄稿いただいた。
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