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記事2023年3月3日 2605号 (6面)
甲南大学の取り組み
公開講座でユーハイムの河本社長が講演
AIによって世界中の職人が結び付く

 甲南大学(兵庫県神戸市)は2月17日、同大学ネットワークキャンパス東京事務所(東京都千代田区)で公開講座として同大学ビジネスイノベーション研究所第37回研究会「スイーツなマーケティング論フードテックによるユーハイム社AI職人『THEO』」を対面とオンラインのハイブリッド形式で開催した。


 今回の講座では、潟ーハイム(兵庫県神戸市)の河本英雄社長が講師となり、世界初のAIバウムクーヘン焼成機「THEO」の開発や、技術革新を通して老舗洋菓子店が目指している姿などについて解説した。同大学ビジネスイノベーション研究所長で経営学部教授の西村順二氏がファシリテーターを務めた。当日は会場に30人、オンラインで80人が参加した。


 洋菓子店という製造小売業に着目して研究を進め、地域活性化のための「ひがしなだスイーツめぐり」など、「スイーツプロジェクト」を展開している西村氏は講座の冒頭、神戸でユーハイム社などの多くの洋菓子店が開業・発展してきた歴史的背景を説明。明治から大正期にかけて▷港町で欧州航路の窓口だった関東大震災で横浜から領事館、職人などが移転してきた阪神圏の富裕層が移住して西洋菓子へのニーズが存在した深江文化村(芦屋市との市境)に欧州から芸術家が集まり、西洋文化としての洋菓子との交流があったーことなどを挙げた。


 今回の講座については、「食料品業界で機械化や自動化が進む中、マイスターを擁し、職人技術を大切にしているユーハイム社が『THEO』を開発した理由や同社の今後の方向性をテーマに設定した」と述べた。


 続いて登壇した河本社長は「THEO」の開発のきっかけについて「南アフリカのスラム街の子供たちにバウムクーヘンを届けたいと考えたこと」と話した。


 河本社長の説明によると、開発に当たっては、ベテランの菓子職人やロボット工学研究者、AI専門家、デザイナーなど、さまざまな人々と協力し、地球の裏側にバウムクーヘンを届けるプロジェクトを進めた。開発に5年を要し、第1号機が完成したのは新型コロナウイルスの感染が拡大する直前だった。


 「THEO」は職人が焼く生地の焼き具合を各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させ、データ化し、無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼きあげる。開発の過程では、ベテランの菓子職人がAIにバウムクーヘンの作り方を教える中で、よりおいしくするために工夫するようになり、「AIは職人の一番弟子」とのコンセプトの下、AIがおいしさの追求のために活用されるようになった。


 完成後は、職人不足対策に苦慮する菓子店に貸し出したのを契機として、人のために役立つように貸し出しており、現在、全国で20台が稼働し、海外でも使われるようになっている。


 河本社長は「THEOによって職人の技術とレシピをデータ化するとともに、レシピの著作権へと発展させることで、THEOのネットワークで世界中の職人が結び付くことができる」との考えを示した。


 また、「バウムクーヘンの市場にTHEOが入っていき、その市場を変えていく。DXのDはDreamのDであり、Dreamを実現するのがDXだ」と述べた。


 講演後のトークショーで、河本社長は「過去50年はみんなの豊かさのために食品添加物などを使用して大量生産するシステムのベースとなる化学が発達した。近年、画像解析などの工学が発達し、個人の幸せを大切にすることにつながる地産地消や手作りと結び付いており、その例の一つがTHEOだと思う」と話した。


 さらに、「THEOはまず、技術的な課題の解消よりも人々に受け入れられることが重要だと考え、人のために役立つところで稼働させている」と説明した。


河本社長


西村氏


AIバウムクーヘン焼成機「THEO」

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