東京農業大学はこのほど、世田谷キャンパス内の農大サイエンスポートで同大学が所蔵する3600点に及ぶ古農機具の中から、日本の農業を支えた、えりすぐりの道具の常設展示を開始した。また、醸造科学科で所蔵している希少な記念ビール缶、一般財団法人進化生物学研究所の貴重な昆虫標本コレクションも併せて展示している。
農大サイエンスポートは2020年に同大学世田谷キャンパスの研究棟として完成した。4学部15学科87研究室の教職員、学生、大学院生約4千人が集まる都内最大級の研究拠点となっている。
同大学はキャンパス全体が博物館であるというコンセプトの下、農学に関する貴重な歴史的資料やコレクションを所蔵している。今回、校友の協力などを得て、こうした資料やコレクションの展示が実現した。
古農機具については、農業の近代化を図った農業基本法の制定以前に使用された農機具を古農機具と定義。同大学が所蔵する古農機具は全国の交友、同大学「食と農」の博物館元副館長の梅室英夫氏が収集した。この中には、日本の産業遺産300選に指定されているものもある。特に、今回の展示では、稲作に関する古農機具を中心に約60点を展示している。
4月19日に農大サイエンスポートで開催されたお披露目会で、同博物館の上岡美保館長は「地域の自然条件などに順応した古農機具の機能性、人々の知恵や文化を感じてほしい」と述べた。
記念ビール缶の展示では、国内外のビール缶を年代別に並べている。約800本のビール缶のラベルを通して時代の変遷をたどることができる。
昆虫標本コレクションについては、東北地方を北限とするトンボや、モルフォチョウなどの標本を展示。開発による自然破壊、地球温暖化による生態系の変化で、これまで存在していた種が絶滅する可能性があることから、美しいこと、珍しいことだけではなく、過去を知るために非常に重要な資料であるというメッセージを発信している。
お披露目会で同大学教育後援会の林弘明会長は「これから多くの学生が日々、この展示物に触れ、その興味がさらなる学習や研究への意欲、向上心につながることを願っている」と話した。
学校法人東京農業大学の大澤貫寿理事長は「古農機具を通して、稲作に携わってきた人々の良い米を収穫するための努力や知恵を知ることができる。本学の歴史的な財産を鑑賞して当時の苦労を理解してほしい」とコメントした。
同大学の江口文陽学長は「世界各国の人々に対して、日本の農学、近代農学がどのように進んできたかを本学からの発信で伝えていきたい。この展示を学生、教職員が受け継ぎ、本学の歴史をさらに進めていくことを願う」と述べた。
なお、当面はオープンキャンパスやキャンパスツアーなどの機会に公開する。一般公開については、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、動画による公開の準備を進めている。