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記事2024年2月3日 2636号 (1面) 
第2回高等教育の在り方特別部会開催
極端に大学数の少ない地域の高等教育の在り方等議論 
教育経済学等の研究者から意見聴取

中央教育審議会大学分科会の「高等教育の在り方に関する特別部会」(部会長=永田恭介・筑波大学長)は1月26日、文部科学省でオンラインも併用して第2回会議を開き、本格的な少子化時代を間近にした中で、今後の高等教育の在り方について、同部会の2人の委員の意見発表を呼び水に、総論的な意見交換を行った。意見発表したのは、1人目が教育経済学を専門とする松塚ゆかり・一橋大学森有礼高等教育国際流動化機構教授で、「大学間連携による教育・研究強化が拓く就学の機会」のテーマで発表、2人目は堀有喜衣・独立行政法人労働政策研究・研修機構人材開発部門統括研究員が労働研究の視点から大学への期待について発表した。


 このうち松塚氏は平成30年11月26日の中教審答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」以降の社会的、経済的変化を踏まえて、これからの時代を担う人材に必要とされる資質・能力、今後に取り組むべき具体的方策、大学間連携による教育・研究強化が拓く就学の機会について説明した。


グランドデザイン答申後、少子化が想定を上回るスピードで進行し、新型コロナ感染症拡大を契機とした遠隔教育の急速な普及、国際情勢の不安定化で留学・研究交流の不安定化、就労者の流動化、生成AIの急速な発展等が見られたことを指摘。また地域間で人材に必要な資質・能力の認識が共有されているわけではなく、ニーズを一般化して「応答性」を満たし大学の価値を打ち出すことは容易ではないこと、しかし学修者本位の視点から学修の機会と内容を明示して大学がその情報を自律的に発信することは今後、一層重要になるだろうと指摘。


そのため広域に向けた学修の機会と内容の明示、国際的認知と需要を掘り起こす学修機会と内容の説明、修学支援新制度の導入と進学を逸した社会人の復学、単位互換・累積、ディプロマサプリメント(学位証書補足資料)等の整備・運用、異分野間連携と継続的学び直しの場の提供などの重要性を強調した。その上で大学間連携による教育・研究強化が拓く就学の機会に関しては、各組織(分野)の強みを生かした相互連携、補完性に基づく教育と就学機会の拡大、多面的ニーズへの対応、共同研究の推進により特定分野の学術的専門性を極めること、国家間連携による国際競争力の向上、卓越した教育と就学機会の提供などが考えられる、とした。


一方、堀氏は生成AI等の雇用への影響について、雇用喪失で経済格差が拡大する、一方で働き方にプラスとなり格差が縮小するとの見方があり、影響は見えていないこと、就職者全体の中で専門的・技術的職業従事者がこの20年間、増加を続けており、その中では情報技術者が多く、その中では人文社会科学系大卒者が理系出身者を上回って就業していること、大卒者の地方への地元定着率は若者ほど高く、20代男性で52・2%、20代女性では61・7%に達していること、長野県や北海道では医療・福祉関係の就業者の割合が急増していること、新規学卒者でジョブ型採用は増えているものの限定的で、ジョブ型は若い世代よりも仕事の仕切り直しや転職が難しい中高年のホワイトカラーのキャリアにおいて有効で、リカレント教育への期待が高まっていること、リカレント教育がキャリア形成に対して有効に機能するための前提として、職業能力の「見える化」と社会的承認等が必要で、大学のリカレント教育が労働市場から評価されるためには、労働者が持つタスクと求められているタスクのギャップを埋め、職業能力の社会的証明の提供機能(マイクロクレデンシャルなど)、将来的に需要の在り方が変化することを踏まえて、職業資格の在り方を緩やかにすること(資格間で共通カリキュラムを持つ、質保証によって大学の単位と職業訓練の互換性を高める、実務経験を評価するなどの長期的な見直しの重要性を指摘した。


その後、永田部会長は2人の発表を巡る質疑が一段落したのを機に、以降、地域ごとの理想像について議論することを提案。まずは大学の数が極端に少ない地域で大学がなくなってしまっては地域が衰退することから、国公私立大学が一緒になって働くためにはどうすべきかについての議論を求めた。


委員からは堀委員の発表にあったように若者の地元定着が増えていること、少子化のため親の介護のため都市部から地域に戻ってくる人が増えていることなどを挙げて、地元自治体が地域に必要な人材を養成する大学についても一定の責任を果たすべきだといった意見や、地域ごとに産業界や大学、自治体等が参加したプラットフォームが制度化されているが、「実働していない」、「機能していない」などの意見が多く聞かれた。また委員からは「経営状態が悪ければ統合してくれない」「当事者同士だけで話し合うのは厳しいので、コーディネーターの仕組みが必要」「総務省、地元自治体を巻き込んで(大学の統合の)の議論が必要」「自治体は高等教育と手を組まないと地域がダメになってしまうとの認識を持ってほしい」「大学があることと人口統計の関係について精密な分析が必要」「統合するためには定員、施設、教員をどうするか、パッケージで対応することが必要。ソフトランディングにはお金がかかる」などの意見が聞かれた。


関連して文科省の私学助成課から令和6年度予算案に盛り込んだ「時代と社会の変化を乗り越えるレジリエントな私立大学等への転換支援パッケージ」の説明が行われたほか、モラトリアム化が進む中で短期の高等教育についての議論を求める意見や、定員充足率8割との設定が経営の足かせになっていること、定員の削減がペナルティーなく進められる必要性、補助金の最低ベースラインの設定、学生数に関してフルタイム学生以外も考慮することなどを求める意見が聞かれた。 


次回、第3回は2月27日に開催の予定。


第2回高等教育の在り方特別部会

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